先生のために咲く花ー最終章ーそして 陽子は画家になったー
「陽子先生。師匠は」
「絶対に悩まない」
「えっ、どういうことですか」
「師匠は、今朝、亡くなりました」
私はアトリエの絵画教師、陽子。師匠が、今朝、亡くなった。アトリエの15歳、優美子ちゃんに、私は嘘を吐けない。私は、正真正銘の画家になった。それは、このアトリエを立ち上げた、師匠のおかげ、そのものだ。師匠には家族がいない。奥さまは若くして亡くなった。可愛がっていた猫の小梅も。私は、忙しなくアトリエを後にして、一度自宅に帰り、喪服に袖を通す。喪主が私。そして、アトリエ横にある師匠の自宅にて、お線香を上げさせていただいた。辛かった人生なのか、幸せだった人生なのか。師匠は何も答えず、棺桶の中で優しく眠っている。
私は、師匠の亡骸に、今日、描いたデッサンを置いた。涙が。
「師匠、ごゆっくりお眠りくださいね」
そう言っても、師匠は帰ってこない。弔問に訪れる人たち。師匠の亡骸を、師匠を愛した人ばかりだ。
そして、出棺。優しいお顔の最期に。師匠が生前、手にされた、表彰状や盾、最期に描かれた絵をお顔の横に添えた。
「師匠、また」
そっと、言ってみた。
私が画家になれたのはこの涙に溢れている、画家魂なる、想い達からだ。さようなら、師匠。また、一緒に絵を描きましょう。涙はここから、やってくる。心の奥にある、私達、画家の愛の景色から。
私は、私達は画家である。最期の最期の最期まで。




