とあるラジオに纏わる
「髑髏さん。なんでもマネージャーさん情報によると、愛瑠ちゃんはお化けが大の苦手なんだとか!」
「おっ、いいねえ。リスナーたち、怖がってる女の子大好きだから安心して怯えちゃって!」
「ええ〜そんなあ、助けてリスナーさぁん!」
「へえ、苦手なのになんでこの仕事受けたんですか? やっぱ知名度狙い?」
愛瑠が目立つ流れが気に食わないのか、日比原の返しはスタジオの空気をピリつかせた。すかさず愛瑠は機転を利かせる。
「そうなんですよぉ! もうお尻出しても出してもぜんっぜんだめでえ〜。マネージャーに強制送還されちゃいましたぁ。日比原さんのチャンネルも、『勉強になるから見ておきなさい』とか言って見せてきてえ! 怖いから音消してひたすら日比原さんの可愛さを楽しむ時間にしたんです〜」
「えっ、見てくれてるんですかっ」
愛瑠の返答に気を良くしたのか、空気は和み、日比原は満更でもなさそうだった。
「じゃあゆたんぽ、初めての方に向けて番組の説明してあげて〜」
「はぁい! こちらの番組ではオカルト大好き、ホラーのために全国津々浦々どこにでも現れちゃう怪談師享楽亭髑髏が、ゲストと共にリスナーさん達からのこわぁいお便りを楽しくご紹介させていただいておりますぅ」
「今日もおもしろ怖いお便りがたくさん届いてるねえ」
「そうなんですぅ、今週もお便り送ってくれた皆様ありがとうございます」
「はーい、ありがとうねえ 」
「番組の最中にも、メールなど受け付けてまぁす。全員参加型という感じでやってるので、どしどしどうぞぉ」
ひとしきり番組の説明を終えると、ゆたんぽははがきを手に取った。
「今日もたくさん来てますねえ」
「今週のテーマが『ラジオ』! 夏だしねえ、ラジオ体操とか思い出しちゃうよねえ。二人の学生時代はラジオ体操とかやったの?」
「ありましたぁ〜、朝早く起こされてスタンプ集めるんですよね」
「うちもありました! ひゃ! い、今そういう動画水着で撮ったら需要ありますかね、一緒にやりますか?」
「や、やだぁ! 優香は水着NGですよぉ」
愛瑠が話し始めると、バチンと大きな音がしてスタジオが暗くなる。一瞬のことですぐに明るくなったものの、出演者たちは驚きを隠しきれなかった。
「ごめんね、びっくりしたよね〜。なんか今一瞬電気きえちゃったんだよ、今日はなんかあるかもねえ」
「びっ、くりしましたぁ……オフレコ案件かと思ってスルーしちゃいましたよ」
「愛瑠ちゃんも日比原ちゃんも微妙にスルーできてなかったよ」
「愛瑠ちゃん叫んでるのになかったことにしてるから、優香も続けなきゃって思ってえ」
アクシデントが起こりやや緊張感が芽生えたものの、やり取りのうちに笑いが起こりどうにか気持ちを持ち直す。それでも愛瑠の心臓はばくばくと音を立てていた。
「ラジオといえばぁ。優香のうちはお寺なんですけど、やっぱり曰く付きの物とか持ってくるんですよぉ」
「お! そうなんだ」
「曰く付きというと、どんな?」
「いっぱいあるんですけどぉ、よくある感じのだと亡くなった子どもが大切にしてたお人形とかぁ、殺人事件のお部屋にあった鏡とかぁ、そういうのはうちに持ち込まれるのよく聞きますう」
なんてことのないように言う日比原だったが、オカルト好きの二人は前のめりに興味を示す。
「えっすごい! そういうの来ると、ナニかが見えちゃったりとかするんですか??」
「基本的には優香は見してもらえないんですよぉ。というのも、すごい取り憑かれやすい体質でえ、でも『あ、今日依頼あるな』っていう勘? みたいなのはほぼ百発百中で当たりますぅ」
「さすがだねえ。ゆたんぽも『ここやばいです』みたいなことたまに言うけど、やっぱりなんか事故起きてたりするもんね。分かる人には分かるんだねえ」
「愛瑠ちゃんはそういうのは全く?」
「全くですねえ、このまま全くのままでいたいです」
愛瑠はぶんぶんと手を振った。
「慣れるとそんなに怖くはないんですよぉ! でぇ、お父さんの話では、ラジオとかぁテレビとかぁ、電化製品系? も結構来るらしいですう」
「へえ! そういうのも持ち込まれるんだねえ。持ち込まれる物って、なんかこう……持ってると怖いことが起きたりするの?」
「って、依頼主さんたちは言いますねえ。うちに持ち込まれたあと何があったとかはお父さんあんま言わないんでぇ、こっそり聞いてたらあ、『捨てても壊しても戻ってくる』とかぁ、『手に入ってから不可解な連続死が続く』〜とかは言ってましたぁ」
二人の幽霊好きはわくわくしながら聞き、愛瑠は顔をしかめていた。
しばらく雑談的にオカルト話が続くと、ようやくゆたんぽはリスナーからのはがきに目を落とす。
「色々興味深い話が出てきて、私達もヒートアップしちゃいましたねえ! さて、ではそろそろお便り読んで行きますね!」
「はぁいゆたんぽ、お願いしまァッす」
髑髏がキューを出し、ゆたんぽが数枚の便箋に目を落とした。
「ラジオネームクワトロさんからのお便りです! 『髑髏さん、ゆたんぽさん、ゲストの皆さんこんばんは!』こんばんはー」
「クワトロさん! はい、こんばんは」
「『今回のテーマはラジオ、ということで、僕が昔某掲示板で見かけた話が忘れられないので投稿します。
そのスレッドのタイトルは『バイト先の先輩が妙なラジオに連れ去られた件』とかなんとか……そんな感じだったと思います。
なんでも、スレ主のバ先の先輩がある日いきなり失踪してしまったそうなんです。
大学生で独り暮らしをしていたその先輩は出勤日に職場に現れず、その後も1週間程連絡が取れない状況が続きました。
若い人が突然来なくなるなんて珍しい話ではないと店長も始めは大事《おおごと》にしなかったそうなのですが、流石に1週間連絡が取れずいよいよ安否が気になり始め、給与関係の話もしなきゃいけなかったので家に行きました。
最初はドアをノックして「怒ってないから」と呼びかけたそうなのですが、返事がない上ドアから漏れる匂いに嫌な予感が現実味を帯びてきました。
ドアノブに手をかけると鍵は開けっ放しで、玄関に靴が散らばり、電気はつけっぱなし。そして扉を開けた瞬間に外で感じた異臭が強まり、店長は明らかに「何かあった」と。
履歴書にあった緊急連絡先、大家に電話し、駆けつけた大家と一緒に警察に電話……という経緯があり、ほどなくしてスレ主の先輩は発見されました。嫌な予感は当たり、やっぱりその方は亡くなっていたそうです。
それからしばらくして、スレ主は嫌がる店長からあれこれと聞き出しました。というのも、スレ主には心当たりがあったからです。
その先輩は少し前、スレ主にこんな話をしました。
『面白いラジオを見つけた』
先輩は特殊清掃のバイトを掛け持ちしてたそうで、そこで自殺された方の遺品として残っていたラジオなんだそうで。
それを持ち帰ったと嬉々として語る先輩に、スレ主は『そんなもの持って帰ってきて、法的に問題なんじゃないか』と呆れたそうです。
しかし興味もあり何が面白いのか聞くと『見つけた瞬間、なんかビビッときた。持ち帰ったその日から夢に綺麗な女の子が現れるようになった。何か言っていて、段々近くに寄って来てくれている』そんなようなことを言います。
それが先輩が失踪する数日前から、彼の様子がおかしくなっていったそうです。
『こっちに来る』
『迎えに来ようとしてる』
『ラジオに連れて行かれる』
『あれは人間じゃない』
そんなことを言い出し、顔色もあまり良くなかったそう。
スレ主は何を訳の分からないことを、と特に取り合わなかったそうです。
なのでスレ主も彼がバイトを無断欠勤しても、初めはついに体調を崩したかくらいにしか思わなかったのです。
寧ろ、その体調でよくバイトなんか来てるなという状況だったそうで。
それが関係しているのか、まさか、そんな思いで先輩の死について店長に尋ねると、『言いたくない、聞かない方が良い』の一点張り。どうしても気になり、何度も尋ねる内に店長の方が折れ部屋で見た光景を語りました。
店長自身、聞いてほしい気持ちもあったのではないでしょうか。