第七話【完成】
「師匠!今日からお世話になります!宜しくお願いします!!」
今日から鍛錬の日々が始まる。
好きに呼べと言われたため、少し憧れだった師匠呼びを始めた。男児なら分かるだろうか。
それと、ミントについて新たに分かった事がある。
ミントの身体は【第一の点】を通らずして、謎の成長を描いている。と言う事だ。
ヘビが言うには、「精神にも影響が出ている可能性がある。」そうだ。
ミントの性格に少し、引っ掛かるところがあった様に見える。
「少し下がって、見ていてくれ。」
師匠はお手本を見せてくれるそうだ。
師匠の名前に関してだが、本名は教えられなかった。
ただ、「ヘビと同じ様に剣豪と言う偽名があるにはある。」と。
しかしこれは自ら名乗っている訳ではなく、友人が勝手に広めているだけの様で、表情こそ変わらないものの迷惑していることが見て分かった。
そのため、師匠呼びをする事にしたのだ。
(技を見せてくれるのか!)
うろ覚えではあるが、衝撃的な光景を忘れる訳もなく、緊張で強張ってしまう。
流我を気に止めることもなく、師匠は腰に差していた真剣を抜き、頭上に構える。
すると、両手に握られた日本刀は風を纏い、纏った風は師匠の全身を包み込み、巨大な風圧を発生させた。
「ミント、俺の後ろに隠れてろ。」
一般的には、風速20mもあればまともに立っていられなくなるそうで、この時の風は、それほどでは無いにしても強く、気を抜くと倒れそうになる。
両手で顔を覆い、しばらく耐えていると風は急に収まり、師匠は刀を振り下ろした。
振り下ろされた刀は風を発しており、その風は複数の刃となって簡素な的に当たる。
的と風が衝突すると、的は一切揺れることなく小さな欠片に変わっていった。
「これをやってもらう。」
刀を鞘に納めた師匠は、流我の方を向いて簡単そうに言う。
「いえ、出来ませんけど。」
思わず言ってしまったが、勿論やる気はある。ある、が、やる気だけではどうしようもない。
「分かっている。今のは最終目標の様なものだ。」
先ずは体を鍛える事から始める。
そして刀を振る。最後に技を出す。
鍛錬の主な内容はこんな感じだ。
「これを渡しておく。すぐに持てなくなるだろうが、無理矢理にでも刀を振れ。」
真剣を貰った。
かなり重いが、流我の筋力なら全然振れる。
「持てなくなるとは?」
すぐに分かる。と言われたが、本当にすぐ分かった。
受け取った刀を軽く振ると、手を離してしまった。
「ーーー!!」
腕の内側、どこから始まるのかは分からないが、腕全体の感覚を忘れるほどの激痛が走る。
「成長痛だ。」
「鍛錬せずとも、ただ日常生活を送っているだけでも、その痛みは発生する。」
強い運動を行えば尚更増し、無理に続けた者は自殺に追い込まれることがある。
師匠は、無理に戦う必要は無いと考えている。
無理に強くなる必要も。
来る者は拒まず、去る者は追わず。と言っても、命が無ければ何も出来ない。
流我の他にも弟子は居るだろうし、高い実力を有していればこそ、そういう場面も多くあった筈だ。
(…この痛み、知ってる。いや、覚えてる。)
師匠に初めて会った時、あの時感じた痛みと同じだった。
あの痛みがずっと続くのかと、考えた。
「やりますよ。俺はやります。」
俯き、腕の先、地面の先を見ながら言う。
「俺は死にませんから。強くなる時も、強くなっても。必ず。」
落とした刀を拾い、再び振る。再び激痛が走る。
歯を食いしばり、感覚の無い腕に力を込め、振り下ろす。