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流刃争記  作者: スマイロハ
開幕編
7/26

第六話【薄荷】

その後、男から詳しい話を聞いた。

家族のこと、学業について、その道に進むとして何をするのか。

「君の両親に、詳しい事は話せない。必要以上に不安を煽る事は出来ない。」

何らかの理由をつけ、引き剥がすことになる。

例えば、「碧蛇流我は死にました。」とか。あくまで一例、実際にこんな事を言う訳ではない。

下手に事を伝えれば、恐怖が伝播してしまうからだ。

「学校は退学してもらう。」

「それと、君の妹について気になることがある。出来れば、同様の措置を取ってもらいたい。」

学校は楽しかった。

部活動等をやっていた訳ではないが、学友と何も言わずに別れるのは、少し憚られる。

「ミントに、何か…?」

君の妹、碧蛇旻渡は普通で無い。

流我も分かっていた。言われずとも。

しかし認めたくなかった。

普通じゃないのは分かっていた。最初からそうだったからだ。

出会った時から普通じゃなかった。

己よりも世界を知っている目の前の男に、現実を突き付けられた。

「退院後は、私の元で鍛錬を積んでもらう。」

内容はその時に話す。そう言って、男は部屋を出る。

入れ違いになって、白衣の男が再びやって来る。

「おっと。来たの、分かってたんですか?」

呼びかけは無視して扉を閉める。

「先生。ここは何処の病院ですか?」

窓から見える景色に見覚えがない。

いや見覚えはある。誰しも一度くらいは見たことがあるだろう。

「外を見ても木と川しかなくて、何処にいるかくらいは知っておきたいんです。」

何か意味がある訳ではないが、食べている物を知りたいように、聞こえてくる曲を知りたいように、人間として自然な感情だ。

「ここは病院じゃないよ。ついでに言うと、僕も先生じゃない。」

持ってきた資料を整理しながら、答える。

「自己紹介がまだだったね。本名ではないが、【ヘビ】と呼んでくれ。」

親に良い思い出が無いそうだ。

「碧蛇流我です。好きに呼んで下さい。」

流我の両親はかなり良い人だった。

ミントを拾ってきた時も、冷静に対応してくれた。

「碧蛇君。蛇同士、仲良くしようじゃないか。」

ヘビは資料を整え終わり、流我に渡す。

怪我の内容と、状況が細かく書かれている。

「そこに書いてある通り、君はまあまあ眠っていた。それと、あと少しで死ぬぐらいには酷い怪我だったが、後遺症は残らないし、身体も完全に回復する。以前よりも良い肉体になってね。」

さっき言っていた成長のことだ。

何処かの戦士のように、「死の淵から蘇れば多大な力を得られる。」と言うことだろう。

「僕の本業は研究者なんだ。厳密には医者じゃないんだが、急患だったからね。人手不足なんだ。」

ヘビはもう一つの資料を渡して、成長の話を続ける。

そこには人体についての研究結果が書いてあった。

「人間の成長をグラフとし、誕生から成熟するまでを線として表す。」

「その線を【第一の線】と、仮に呼ぶ事にする。」

流我があの時経験した、唐突なパワーアップをグラフに記す。

すると、それは人生を模したグラフに点として、唐突に現れる。

これを【第一の点】とする。

第一の点から、ヒトの成長は元来と大きく異なり、異質な線を描き出す。

「その線が行き着く先も、点。その小さな点には、あり得ないほど大きな力が眠っている。」

「と、こういう事なんだが…分かるかい?」

正直よくは分かっていない。

鍛えれば滅茶苦茶強くなれる。という事は分かるが、それ以上は想像がつかない。

「その、【点】って言うのに到達すれば、俺もあの人みたいになれる。って事ですか?」

あの人と言うのは助けてくれた男のことだが、名前を聞いていなかった。

死んだと思ったら生きていた。

頭の処理が追いつかないのも無理はないだろう。

「あの人が僕の知っている人なら、難しいだろうが、可能ではあるね。」

「弟子入りする気になったのかい?」

今は想像がつかないが、可能と言うなら可能なのだろう。

心の何処かでは諦めていたことが、専門家に言われると、途端に信じられるようになる。

肩書きは重要なステータスだ。

「やっと覚悟が決まりました。」

本来ならば、流我の未来はあそこで途絶えていた。

が、途絶えなかった。

妹も、両親も、自分の命さえも、あそこで全てが断ち切られるはずだった。

だが切れなかった。

いや、再び繋がれたと言おう。

流我はこの日この時、見て見ぬふりをした隣の道を、歩み出すことが出来たのだ。

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