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流刃争記  作者: スマイロハ
開幕編
6/26

第五話【現実】

「おーい。」

遠くで手を振る少年がいる。

流我と同じくらいの歳だろう。

「リュー!行こうぜ。」

少年はそのまま走り出す。

「…ッ待て!」

流我は必死に追いかける。

しかし、上手く走れない。

足に力が入らず。もつれて転びそうになる。

(何で…!?)

少年はどんどん離れて行く。

(待て。動け。何で走れない??)

小さくなり、薄くなって行く。

(早く…!速く…!もっと速く!!)

流我は、届く筈もない手を必死に伸ばす。

それでバランスを崩し、転ぶ。

流我が転ぶと同時に、

目が覚める。

「おはよう。気分はどうだい?何処か、痛む所はあるかな?」

白衣を纏った男が声をかける。

病院…だろうか?

「えっと…。痛みはありません。気分も…まあ、いつも通りです。」

何があったのか。流我は思い出す。

死んだと思っていたことを、思い出す。

「それは良かった。検査結果も問題は無い。」

男はそう言うと立ち上がり、扉へ向かう。

「また後で来るよ。何かあったら…そこの人に言ってね。」

目を向けた先にはミントともう一人、見知らぬ男が座っていた。

「ミント…!良かった。元気そうだな。」

ミントは立ち上がり、ベットに来ると抱き付いてきた。

意外な行動だが、それだけ心配だったと言うことだろう。

本人が、「死ぬ。」と思っていたぐらいだ。

「少年。良く生き残ったな。」

40代後半から50代と言ったところか、その男の声には聞き覚えがあった。

「…!助けてくれた人ですか!?」

男は静かに頷く。

「有難うございます。ミントを助けて頂いて。それと俺も。」

頭を下げ、礼を言う。

だが気になる事もある。いや、気になる事しか無い。

「あの力はどの様に?」

黙ったまま、じっと流我を見つめている。

「っすみません!失礼でしたか?申し訳ありません。」

再び頭を下げる。

「いや、大丈夫だ。少しぼーっとしていたな。こちらこそ申し訳ない。」

男は深く謝罪し、話を続ける。

「まず先に、君が戦ったあの男は特殊な存在でな。普通の人間ではない。」

分かってはいたが、ハッキリと言われるとやはり信じ難い。

思い返せば、夢でも見ていた様だ。

「そして私も、普通の人間ではない。」

だから勝てたのだ。と言われても、あの場を経験していなければお遊びとしか思えない。

男は一呼吸置き、眼を真っ直ぐに見つめる。

「君も、普通の人間ではなくなった。」

それほど衝撃は無かった。

あれだけやられて生きていて、今この話を聞いていて、

何となく、本当に何となく、分かる事だった。

「俺は、何で生きてるんですか。」

唾を飲み込み、質問する。

「少し、複雑な話だが。」

「人には、成長の余地がある。」

そんなの当たり前だろと、考える間も無く答えは出る。

「君は成長し、強くなった。だから生きている。」

この全く分からない話は取り敢えず鵜呑みにするとして、知りたい事は他にもある。

「ミントは何で誘拐されたんですか?」

結局、ミントが居なくなった理由は分かっていなかった。

予想は出来る。あの化物達が攫ったのだろうとは。

「それは分からない。すまない。」

何故攫われたのかは分からない様だ。

犯人の心理など、誰にも理解出来ないと言う事だろうか。

「君の妹は、背の高い男が攫っていた。君が相対した男の仲間だろう。」

「その男から助け出し、君の元へ来た。」

遅れてすまなかったと、謝罪を続ける。

責任感が強い。助けて貰っただけで、流我にとっては最高だと言うのに。

「アイツらは、何なんですか。」

あの男達は一体何なのか。あの理解出来ない馬鹿力は何処から出てくるのか。

「あのバケモノは。」

イレギュラーはあるものだとしても、生物学上同じ場所に属するとは到底認められない。

怒りや恐怖など、湧かないほどに、奴等に対する知識が足りないのだ。

「あれは、人類の敵だ。」

語り出す。

化物と人の、関係を。

「長所はどの生物にもある。人類ならば知恵。知識を得、世界を支配するに至った。」

しかし、どの生物にも天敵は存在する。

人類とて、それは例外無く。

何時ごろか、何処からか現れたそれは、人類にとって、久々の恐怖であった。

それは人類に途方も無い憎悪を抱いており、人を殺し回った。

人類は考えた。

どうすれば勝てるのか。どうすれば奴等より強くなれるのか。

多くの時と命を犠牲に、人類は編み出した。

奴等と同等にまで鍛える方法を。

「それからは早かった。元々数が少なかった奴等は人類の急な反撃に遅れを取り、

 歴史の影へと忘れ去られていった。」

奴等は人類の敵である。

そして、その敵に対抗する力が、男のそれなのだろう。

「私は鍛えて力を得た。君も同じだ。鍛えれば私の様な力を得られるだろう。」

男は話を終える。

少しではあるが、理解出来た事もある。

「つまり…それが成長の余地ってことですか?」

男は頷く。

化物と同等の力を持つ、普通の人間ではないと言うことか。

「まだ分からないことが多いだろうが、こちらの質問に答えてくれないだろうか。」

直ぐでなくとも良いからと、質問をする。

しかしその内容は、質問と言うよりは選択肢。

流我は選ぶことになる。この先の人生を。

「君と。君の妹、恐らくまた狙われるだろう。」

「君にその気があるのなら、どうか私たちと共に来てはくれないだろうか。

 勿論強制はしない。決めるのは、君自身だ。」

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