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流刃争記  作者: スマイロハ
開幕編
4/26

第三話【起点】

暫く男が場を離れたからだろうか、流我はほんの少し冷静さを取り戻していた。

先程まで倒れていた場所には段ボール箱が数十個ほどあり、もっと大きい段ボールは畳まれ、壁に立てかけてある。

流我のすぐ隣にある鉢だが、陶器製のものが十数個、プラスチック製のものが五十個程だろうか、

積み重ねられ、置いてある。

その他、ブルーシートに覆われた何かが倉庫の床面積を減らしている。中身は分からない。

隠れ場所が多い事は、流我にとってはプラスに働くだろう。

(居ない!?)

やっと気付けた。

初め、奥に座っていた巨漢はいつの間にか居なくなっていた。

そしてもう一つ。倉庫の扉が閉じている。

巨漢が出て行った時に閉めた。

そうとしか考えられない状況だが、流我の視点では違う。

「あの大男はどこに行った?いつ動いたんだ。」

人が歩けば音が鳴る。扉を閉じても音が鳴る。

加えて、流我は扉と巨漢の間を見ていた。吹き飛ばされた時、壁から壁の間をだ。

「あのなぁ…。」

「冷静じゃねぇのは分かる。俺がやってんだから。」

冷静さを欠くこの状況は、確かに男が作ったものだ。

しかし、「やっている。」とはどう言う意味だろうか。

それでは今も尚、男は冷静さを奪い続けている事になってしまうが。

「でもさぁ。これぐらい分かんだろぉ?せっかく良い所なんだから、勘弁してくれよなぁ!?」

流我に近づき、男はそう言った。

その表情は見るに耐えないものであったが、「目を逸らせば殺される。」と思わせるものでもあった。

近づいて来た男に対して、流我は金属棒を振る。

当然避けられるが、もう一度見た男の表情は笑顔であった。

男はゆっくりと歩みを進める。

10m、5m、3、2、1…。

鈍い金属音が鳴り響く。

男は素手で殴りつけ、それを受けた金属棒は表面の鉄部分に跡が付いていた。

(バケモノが…!)

流我は直ぐに反撃する。

右下に構えた金属棒を男の顎に打ち付ける。男の脳が揺れる…筈だった。

「人間にしては強いだろ?お前。」

強いってなんだよ。

普通の人間は生き物を全力で殴打したりなんかしねぇんだよ。

歯を食いしばり、流我は攻撃を続ける。

膝、手、喉、脳天。どれも全く効かなかった。それどころか、大抵の攻撃は避けて躱される。

偶に当たっても有効打にならない。

「遊ばれている。」と感じたのはいつ以来だろうか。手加減せずに遊んでくれと言ってきたあのガキが、もし今の自分と同じ気持ちだったのなら「悪いことをしたかな。」と思ってしまう。

もっと遊びたかった。もっと遊んでやればよかった。

もっと勉強して、もっと友達を作って、もっと色んなとこに行って、もっと楽しんで、それで、それで…。

「もっとやれると思ってたんだけどなぁ。調子乗り過ぎちまったかなぁ。」

「やっぱダメだなぁ、俺は。合って無ぇ。」

左の腕から赤い液体が流れ、髪の毛は赤黒く染まり、右手の小指は真っ青に膨張し、腰から下は動かない。

「聞こえてるかぁ?まぁ、変事出来無ぇわなぁ。」

男は流我に話しかける。

死ぬ間際まで残っている感覚は聴覚だそうだ。聴きたい声も、聴きたく無い声も、それを示す方法は無い。

(痛ぇ…。見えねぇ。動かねぇ。)

このバケモノに勝つ術は無いだろう。

警察も、連れ去られた少女を忘れる事しか出来ない。

(ミント…お兄ちゃんが、助けてやる。)

漫画の主人公みたいに、海の向こうのヒーローみたいに、強い力があれば、助けられたかもしれない。いやそもそも、ヒーローなら連れ去られる事自体が無かっただろう。

(分かってたんだ。最初っから、全部。)

(最初の攻撃から、あいつが古い鉢ぐらいで死なねぇって。分かってた。)

俺は無駄に優しくて、目の前の敵を攻撃出来ない。でも頭が良いから、割り切れる。今でだってずっとそうしてきたんだ。ずっと、動きたくない身体を動かしてた。

(この状況で殺したくないだと!?甘えんな、ゴミが!!)

痛い…、死にたくない…ミントを助けたい。

父さんに会いたい、母さんも、ミントも、みんなに会いたい。

痛い、動きたい、死にたくない、痛い、逃げたい、勝ちたい、死にたくない、殺したくない。

(あークソ…もうダメだ。もう死ぬ。)

内臓いくつか終わってんな。

死にたくねぇな、生きたいな、逃げらんないな、攻撃したくねぇ、みんなに会いてー、会ってくだら無い事で笑いてぇ、痛ぇなぁ、動かせねぇなぁ、死ぬ。

「殺す!!!」

流我が叫んだ瞬間、男は床に突っ伏すことになった。

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