第二十四話【こいぬ】
2026年 4月
流我は一足先に仕事を得た。
が、有空は変わらず地下監禁の日々だ。
「人聞きの悪い。有空くんの為を思ってやってるのに。」
敵の能力や行動の傾向。人間の心理。法律。国算理社etc…。
そんなに難しくは無い。
「強くなれるって言うから来たんだぞ!?こんなとこでダラダラするより、戦った方がずっと強くなれるだろうが!!」
教室に来た受付嬢に有空は指差して吠える。
性に合わないと言うやつだ。
「せっかく良い感じの仕事持って来たのになぁー。こんなに文句言うなら、もっと聞き分けの良い子にお願いしよーっと。」
受付嬢は額に手を当て、聞こえ易い様に声を出した。
「やらせろ。」
差した指を5本にして、手の甲を下に向けて有空は言う。
「お勉強を?」
受付嬢はチラッと一瞬見て、また元に戻った。
場所は雪山。
春でも、北の高い山はまだまだ大雪が積もっている。
「………勉強するから、オレにやらせてください。」
受付嬢はニッコリ笑って了承した。
流我と同じく、有空も携帯端末を受け取り初仕事に挑む。
武器は以前のとほぼ同じ大剣を貰った。状態の良さは全く違うが…。
(これでオレは更に強くなれるな…。)
雪山を大した装備も無しにニヤニヤと自身より大きい大剣を背負って進む少年。
新種のUMAだと思われそうだが、まあ何とか人里からは離れている。
「最近、この山を中心に生き物が移動してる。逃げてるとも言うね。」
「で、猟師さんがデカい狼を見たって言うから、討伐して来て?」
そのデカい狼を組織は無視出来無かった。
調査員が調べ、やはり学名のある動物では無いとの判断で、今日討伐命令が下ったのだ。
(敵ってのは、人型だけじゃ無ぇって話だが。)
デカい狼は群れを作り、油断出来無い相手だそうだが、組織は有空の実力なら問題無いと考えている。
組織は有空の事を良く知っていた。
「お?」
代わり映えのしない景色にやっと変化が訪れる。
雪の絨毯に足跡が付いていたのだ。
犬っぽい四足歩行の動物。
雪山の奥深くに、まるで誘う様に跡は濁る。
「やっと見つけたぜ。」
足跡の主は雪色に輝く狼。
3〜4m程の巨大な身体に鋭い爪、牙を持ち、辺りの景色に溶け込んでいた。
「テメェを殺す。慈悲は無ぇ…!」
背中の大剣を抜き、一気に距離を詰めて縦にぶった斬る。
「あァ!?」
が、直前に狼は遠吠えをし、直後に木の陰から出て来た小さい狼に引っ掛かり、剣はそれを二つにするだけで終わった。
群れを作ると言う話。子分が親分を守ったと言うことだろうか。
気付けば親分は更に遠く、有空は無数の狼に囲まれていた。
先程の狼より更に小さい者も居る。
尾を含めて1mから2.5m程。親分の体躯を考えれば幼体も混じっていそうだ。
その全てが雪色で、木を使い草を使い雪を使い景色に混じって有空を襲う。
「ガキに任せてのんびりか!?力量が知れるな。」
「雑魚を狩っても糧になら無ぇ!テメェが弱ぇみてぇで、ガッカリだ!!」
親分は一向に動こうとしない。
ただ子分が斬られるのをジッと見ているだけだ。
一匹は首を落され、一匹は腹を突かれ、一匹は咬みつこうとしたところ、顎の肉から横に身体を切断される。
そうして数十匹を討伐したところで、親分が重い腰を上げた。
遠吠えが春の雪山を包む。
「いつまで殺りゃぁ良んだ、クソッ!」
山に入ってから何時間か。もうかれこれ数百匹は討伐している。
ただ死体の山は出来ていない。
下がる親分を追いながらと言うのもあるが、殺した狼を狼が食べているからだ。
そうして子分の死体は消え、親分の遠吠えと共に群れは増え、有空は返り血を浴び続けるだけで状況は変わら無い。
これが敵の能力なのか。単に数が多過ぎるだけなのか。
一体一体は弱くても、一斉に掛かられると消耗は避けられない。
雪で足下は不安定。
武器は大きく、動きは無駄ばかり。
何か決定的な方法を考えないと、体力は削られその先には死が待っている。
飛び掛かり。
噛み付き。
切り裂き。
体当たり。
雪掛け。
(同じ動きしかして無ぇ…?)
狼の動きはどれも率直で、有空は自分が重なって見えた。
「素直な行動には攻撃を置いておく。」
ついこの前、友に教わった事だ。
このままではジリ貧。やるしかない。
「めんどくせぇ。」
と言う考えは無い様だ。
有空は大剣を改めて握り、左手は拳を作った。
「いつまで湧いて来んのか知ら無ぇけどよぉ。」
「親玉殺したら、少しは楽になんだろ!!!!」
右手の剣を親分に向け、高らかに宣言し、有空は走り出す。
眼前には次々と子分が群がって来るが、殴り飛ばし、斬り倒し、踏み付け蹂躙する。
親分は吠えながら逃げ、有空は吼えながら追う。
百が五十になって、五十が十になって、十が一になって零になって近くに子は一匹も居なくなって、刃が雪色の毛を捉えたところで、雪色は雪景色に戻った。
親分は背後に居た。
「いくら強くてもよぉ、戦わなきゃただの雑魚だぜ。」
パワーもスピードも、子分のそれとは格が違う。
背後と思えば右から来て、前かと思えば左から来て、ならこっちだと決めたところで上から来る。
有空の目の前から光が消え、耳の近くから音が消え、喉元に鋭い何かが突き立った。
「雑魚に喰われてやるかよ…!」
拳も剣も捨て、有空は狼の口を掴む。
ゆっくり開き、ゆっくり持ち上げ、切り裂かんと爪を振り回す怪物を木に投げ付け、そして…
「死ねやクソ犬!!!!」
積雪に刺さる大剣を抜き、有空は走る。
両の手に剣を持ち、腹から背中にかけて怪物を両断した。
勢いのままに刃は木へ掛かり、それごと。
いつの間にか狼達は消え、残ったのは怪物の死骸と佇む少年一人。
「足跡もねーじゃん。」
辺りを探してみたが、子分の影は見つかること無く。
「面倒くせぇな。もう良いだろ。」
組織に連絡し、早々に下山した。
有空の初仕事はこうして幕を閉じた。




