第二十二話【今日中】
帰って来た両親にお帰りと言い、お帰りと言われ、組織に事を報告し、陽が落ち、陽が昇り、今日になった。
流我の両親は今日も仕事なので、今日も今日とて部室に行く。
「先輩!何か欲しいものとかありませんか?私、どうしてもあの時のお礼がしたいんです!」
「美味しいお菓子でも紹介してくれたら良い。」と言ったのだが、「それでは気が収まりません!」の一点張りで、「うちの両親と仲良くしてくれたら良い。」と言っても、「もうしてます!」と少し恐い。
物欲はあるが、現状、流我にとって暇な時間は敵のお勉強に使われている為、ゲームや本を買ってもやる時間が無いのだ。
「じゃあ取り敢えず貸しにしとくから、俺が困った時に、その時助けてくれたら良いよ。」
2年保留させて、更に先送りは気持ち良く無いだろうが、一花はひとまず納得してくれた。
「…その制服とあの名刺、それに部室も片付いてるし。お前らがやったのか?」
2年前は私服に名刺無し、いる物を置きっぱなしの雑な部屋だった。
ロゼや、他のメンバーがやったとも考え難い。
「はい、そうです。一花が『綺麗にした方が良いでしょ。その方が誠実に見えるし!』って言って、制服も名刺も、インテリアも全部考えたんです。」
恋が問いに答える。
「部長には許可取ったんですが…嫌いですか?」
恋はかなり、流我達のことを尊敬しているようだ。
「いや、俺が変化について行けてないだけだ。」
「こういう『調ってるの』は好きだし、直ぐ慣れるよ。言葉が足りなかったな。」
「部員が今何人いるのか。」も聞きたかったが、これだととんでもない答えが返って来そうで、流我は聞かないことにした。
どの道、今は流我自身も幽霊部員になっているし、いまさら部活に口出しすることなんて、流石にしない。
「自分も聞きたいことがあります。」
恋が軽く手を挙げる。
「先輩と部長はどう言う関係なんですか?幼馴染だとは聞いています。」
どうやら、流我とロゼはそう言う関係だと思われているらしい。
いや、思いたいのか…。
「幼馴染の1人で親友の1人で…。そうだな。」
「強いて言うなら、『姫と、姫に忠誠を誓った騎士。』かな?」
冗談混じりの答えはお気に召さなかったようで、「何ですかそれ?」と返されてしまう。
仕方が無いので、「信頼出来る仲間の1人」と流我は改めて答えた。
「良い関係ですね!」
一花がフォローに入ってくれるも、恋は余計納得出来ない。
「おはよー。」
部室の扉を開けてロゼが入って来た。
「今日は私が残るから、皆んなはパトロールでもして来なよ。」
冷蔵庫の来客用ケーキを吟味しながら、ロゼは「外へ行け」と急かす。
「じゃあ、私が西。恋が北。先輩が東で良いですか?」
サークルエリアは海と隣接する南側にある。
「皆んな気を付けてねー。」
ケーキの吟味を終え、ロゼはお茶の吟味に入った。
(何も起こらないな。)
流我がミントを連れ、東側を歩き出して数時間。
太陽の位置も南の方が近い。
(一花と恋も連絡無し…。敵が騒動の正体なら警戒されたか?)
恐らく、師匠でも全区画の警戒には無理がある。
それ程広いこの街で、敵がちらつく状況で、一般人2人を個々にして大丈夫だったかと、どうしても考えてしまう。
(!)
スマホが鳴る。
恋からだ。
「先輩。北側に怪しい場所があります。警察には通報しました。部長にも。一花や他のメンバーには言ってません。」
人を追って辿り着いたらしい。
今は使われていない空き家の、工場跡だ。
「妹さんは一緒ですか?連れて来ない方が良いと思いますが…。」
ハッキリ言って、恋よりミントの方が頼りになるが、そう言う優しさは大切だ。
「そうだな。ミントを置いて直ぐに行く。」
「直ぐに」と言っても、本気で走ったら都市伝説が出来る。
そこそこのスピードで、交通機関を使いながら駆け付けた。
「こっちです。先輩。」
恋は流我の目を真っ直ぐ見て言うと、流我を待たずに進んで行った。
両者の間には距離が出来る。
「そこで止まってください。」
流我は言われた通り、工場跡の中心で立ち止まる。
そして、屋根の陰から活動服の男が11人。
「先輩…。先輩が宗教に関係してるってホントですか?」
活動服の向こうで恋は話す。
「一花は…貴方が好きなんです。『先輩ならこうする。』『先輩に胸を張れる様に。』って、いつも言ってるんです…!」
恋の感情が、空気を揺るわせ流我に伝わる。
「答えてください…!貴方が悪なら、俺は一花を守りたい!」
恋は盲目。
その言葉がふと過る。
「関係してるポイントで言ったら、お前とあんま変わんねぇよ。」
見たところ、恋まで宗教に浸かってる訳では無さそうだ。
「警官ね。よく考えてみろよ。恋。」
「何でわざわざ誘き出す必要がある?接触は今日の朝か?昨日の夕方か?どっちにしろ俺は家に居たんだ。この街の警察なら深夜でも訪問するさ。そうだろ?」
恋は眼を見開いて考えた。
「拳銃も警察仕様じゃ無いしな。」
何故気付かなかったのか。何故自分は馬鹿なのか。
何故好きな女の恩人を…
いや、恩人だからこそ信じられ無かったのかも知れない。
兎に角、恋はただ後悔するだけだった。
「恋。コイツらが問題の元凶だろ。多分。」
「ブツブツと喋りこそしないが、動きは変なもんだ。呼吸も乱れてる。」
このまま放っておけば衰弱死する。と聞いている。
本当なら放置しても良い。
ただ、人はいつか死ぬ。
死ぬからと言って無視は出来無い。
「俺が取り押さえるから、恋は本物の警察にコイツら引き渡せ。」
恋は小さく「分かりました。」と応える。
11人全員、昨日の中年男性とは全く違う。
最も異なるのは…
「身体能力がおかしいな。信仰心でもこうはなら無いだろ。」
常人の数倍は高い運動能力に加えて、腰の拳銃も使ってくる。
とんでもない生物兵器が出来たものだ。
だが流我は、更に遥か上を行く。
(結束バンドも持って無いし、服で縛るしか無いか。)
弾を避けて拳を避けて、多少手荒に拘束する。
「お前は狙われないみたいだが、拘束が解けそうなら閉じ込めちまえ。」
流我は最後の1人を柱に縛り付けて恋に忠告した。
「すみません…。俺の、せいで…!」
項垂れ、涙が床を流れる。
「俺は、ヒーローじゃ、無い…!先輩達の積み上げた塔を…!俺は崩してしまうとこだった!」
ロゼの言葉が語り掛ける。
後進育成。
「そりゃ言い訳だろ。恋。ヒーローじゃ無かったら助けなくて良いのか?」
「ヒーローは助ける者だが、ヒーローじゃ無くたって人は助けられる。助けた奴がヒーローなんだ。」
恋の瞳が潤いだす。
「それにな。後悔は成長の証だ。」
「あの時がまた来たら、今度はずっと良い結果に導くんだろ?」
恋は袖を濡らし、自らの頬を両手で思いっきり叩いた。
と同時に流我のスマホが鳴る。
「親玉は西側レジデンスエリアの高層マンションに居る。最上階ね。」
ロゼが敵の居場所を突き止めた様だ。
「行ってください。先輩。」
恋がハッキリと言う。
「俺、もう大丈夫ですから…!!」
その瞳に、今までの様な曇りは無かった。




