第二十一話【再会】
2026年 3月
帰郷。
少年は母校であり、故郷であるこの場所に帰ってきた。
「近年、子供たちの関心は世界にも地元にも向けられていません。インターネットの普及によって、全てのことが簡単に調べられるからです。眼に映る事も、耳で聴いた事も、ネットの情報量に劣っている。小さく薄い機械、それと通信環境さえ与えられれば、子供たちは史上最も賢い人間になることが出来るでしょう。」
世界教育機関は、未来を担う子供たちを成長させるため、人類の進化を止めないため、世界中の教育方法を見直すことにした。
「『調べないと分からない』時代は終わりました。これからは、『調べても分からないことを分かる』時代です。子供たちは、人類は、次のステップに進むべきだ。」
そして学校は創られた。
【世界立特別教育学校】
人を育てる為に、一つの都市が丸ごと「学校」として機能している。
仕事で一番行きたくない。けど仕事で一番行きたい所。
国際色豊かなその故郷に流我は帰ってきた。仕事で。
[変な宗教が流行っているから、その正体が敵かどうか調べる。]
本来は戦闘員の仕事でないのだが、新人にいきなり戦わせる事はしない、組織の意向である。
武器等の携帯無し。戦闘は必要最低限に限る。また、必ず応援を呼ぶこと。
受付嬢に貰った携帯端末には、そんなことが書かれている。
見た目は完全に黒色のスマホなので、捕まらない限りは怪しまれないだろう。
交通費や着替え等、他にも受け取った物はあるが、持ち物を調べられても粗が出ないようになっている。
これらが詰められたキャリーケースを持って、流我は新幹線を降りた。
始発だからか、火曜日だと言うのに駅内は静かだった。
「お帰りー!!」
駅の改札口を出ると両親の姿が無かった。
代わりにニコニコ笑顔で、黒髪黒目の女性が1人。流我に手を振り呼び掛ける。
それ程距離も無いし、人も居ないのに。
「平日の朝だからね。普通にお仕事でーす。」
聞いてない事を答えてくる。
久しく感じなかった日常に、つい惹かれそうになってしまう。
「ロゼ。2年ぶりだな。一応聞いとくが元気にしてたか?」
ニックネームで呼び合うのは幼馴染だけ。
学校生まれの為、所謂クラスメイトが全員「幼馴染」に該当する。
「元気にしてたよ。」
「ミントちゃんも久しぶり。」
そんなに身長が変わらないミントの頭を撫でながら、ロゼは話す。
「ロゼって呼ばれるの久々だよ。」
「学校に残ってるメンバー、私だけになったから。」
幼馴染は殆ど、学校の外で活動している。
勿論、流我もその一人だ。
「目的を達成する時、最高の環境は最低になりやすくなる。」
「多少時間を無駄にした方が、返って効率的になるってことだね。」
私は寂しいよ。とロゼは冗談を言った。
「はい。コレあげる。」
ロゼはスマホを取り出した。
「私のは登録したから、他は自分で頑張ってね。」
黒色のスマホは丁度、組織の携帯端末と同じデザインだ。
「この時代に手紙でやり取りしてるなんて、モテないよ?」
「それに、親を心配させたく無いでしょ?」
どうせ学校に居るから必要無い。と所持していなかったそれを、数日で2つ持つことになった。
「ありがとう。」
ロゼからスマホを受け取って、内ポケットに入れる。
「家帰る前に、ちょっとついて来てよ。」
ロゼを先導に歩く。
「最近何かあったか?」
宗教のことも、ロゼなら知っているだろう。教えてくれるかどうかは別だが。
「そうだねー。」
「【恒星の上】は替わって無いしーー」
三人が駅から出たところで、スーツを着た中年の男が包丁を持ち、奇声を上げて襲って来た。
刃が天を向くように、右手で逆さに持った包丁をロゼに振りかざして走る。
直ぐに流我が男とロゼの間に入ると、男は流我の肩目掛けて包丁を振り下ろした。
流我は左手で男の包丁を持つ握り拳を上から掴み、そのまま男の両手を持って背後に回し、地面に押さえ付けて包丁を奪う。
男はブツブツと何かを言い続けていた。
「あー。これのこと忘れてたー。」
ロゼは、まるで今思い出したかの様に手を叩く。
そして、「話聞いてみたら?」と流我に言う。
「オッサン。何でこんな事したんだ?」
男を押さえ付けたまま聞く。
「カミが啓示を与えるのだ。ぼくはその啓示に従っている。それがカミの望む事だからだ!カミがぼくを必要としている!此れに勝る快楽など無い!!!」
帰郷して早々、当たりが引けた様だ。
男を警察に引き渡し、軽く事情を話してから再びロゼの先導に従う。
「今のは?」
またロゼに聞いてみる。
「オリジナルの宗教を創作するのが流行ってるんだよ。」
「信者は自分1人。自分で造った神様に縛られて、殺人事件を起こす。」
ロゼはスマホで、御神体の画像を流我にだけ見せた。
「御神体は布だったり、ペットの死骸だったり、自分自身の爪や毛を集めた物だったりする。」
ミントには見せられない。
「1人の教祖が居ると言うよりも、寧ろ麻薬の様に『概念が流通し拡がっている』。」
「と、言うのが警察の見解。」
組織が調べ上げた【敵の能力】と、「感覚的に近い所がある」と流我は思う。
「ただし、その概念も、麻薬みたいな現物も、何も押収出来ていない。」
「そして、信者本人に話を聞こうにも、散々暴れて意味不明な事を言い、そのまま衰弱死する。」
駅が静かだったのは、「犯罪者が闊歩する中外に出たく無い。」と言う事だったらしい。
組織が持つ情報もここまでだ。
「ここね。久しぶりでしょ?」
会話の終わりはビルの前だった。
この辺りのビルは殆どが部室で、【サークルエリア】と呼ばれている。
基本的に、部活動の傾向でビルごとに入る部活が分けられ、高層が殆どだが低層もある。
流我が所属する部活は高層だ。
「部室とはお前より会ってないな。」
エレベーターに乗り、その場所を目指す。
数多くの飲食店が、日々腕を磨き、料理の味を競い合う。
そんな、食関係の部活が集められた高層ビルの一画に、全く関係の無い部活が入れられていた。
「丁度空きがあった。」
何処でも良いと言ったあの時の自分を正したい。そう反省したのも、もう何年も前のことであった。
「入るよ。」
部室のドアを開け、2年ぶりに対面する。
「先輩…?」
流我が最後に助けた後輩がそこに居た。
「後進育成だよ。リュー。」
「二人とも自己紹介して?」
一応知っている後輩と、初対面の後輩。
「宮本一花です!あの時のお礼、私まだ出来てないですよね!?ちゃんとお礼したいですし、もし良ければ連絡先の交換などお願い出来ませんでしょうか!!」
ポニーテールに整った制服をきた少女が、名刺と一緒にスマホを差し出してくる。
流我はほんの一瞬断ろうと考え、直ぐにスマホを貰った事を思い出した。
ロゼはこの為に、あのタイミングで渡してきたのだろう。
友達の欄に1人増えた。
「佐々木恋です。碧蛇流我さんですよね?自分も交換させてください。」
こちらも、整った制服に名刺。
誠実そうな少年の願いを、流我は断らなかった。
「こっちが碧蛇流我で、この可愛い娘が妹の碧蛇旻渡ちゃんね。」
ロゼが流我達の紹介と、詳しい説明をしてくれる。
「今春休みだから、一花ちゃんと恋くんの二人しか常駐してなくて。他はまた今度紹介するよ。」
一花はお茶を入れて、恋は流我達に座るよう促す。
「ありがとう。」
「宮本さんに佐々木さん。」
流我はお茶に手を掛けお礼を言う。
「『一花』って呼んでください!」
「自分も『恋』と呼んでください。」
一花に続いて恋も名前呼びを強請る。
(距離近いな…。)
一花は兎も角、恋のそれは少し違うようだが…。
「二人は例の宗教を追ってるから、後進育成の一環で手伝ってあげてよ。」
お茶菓子を吟味しながらロゼが言う。
「じゃあ、一花。恋。よろしく。」
両親が仕事を早めに切り上げるとのことなので、今日はこれで解散して、流我とミントは我が家へ帰るのだった。




