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流刃争記  作者: スマイロハ
試験編

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20/26

第十九話【入り口】

島の表側、流我が入った場所へ行くと、対岸に師匠の姿があった。

「お!あのオッサン強そうだな。知ってんのか?戦ってくんねぇかな。」

今にも跳びそうな声色で有空が言う。

有空では戦いにならないだろうし、経験にもなるかどうか。

「俺の恩師だ。」

喧嘩を売るのは止めとけと言って、二人は対岸へ渡る方法を模索する。

「ボート無いよな?やっぱ泳がなきゃ駄目か。」

合格したからと言って、それなりの待遇が受けられる訳では無いのだろう。

二人は諦めて泳いだ。

湖に入った途端、有空はやけに張り切って泳ぎ出した。

「勝負だ流我!!」

そう叫んで有空はペースを上げ、流我は理不尽に従うしかなかった。

「よっしゃ!オレの勝ち!」

相手にその気が無くても勝手に競い出す。

そして勝手に勝つのだからタチが悪い。

「言っとくけどな?一週間寝てないからな?万全だったら俺の圧勝だからな?」

流我の言葉に、有空は負け惜しみだと笑い出す。

実際負け惜しみでもあって、単純な遊泳能力なら有空の圧勝。ただ流我には奥の手がある。

殆ど使う機会は無いだろうが、その内見られる時が来るかも知れない。

「やっぱ服あると泳ぎ難ぃな。」

衣服を脱いで絞ったり、剣を上下に振り回したり、有空は装備を乾かそうとしていた。

「有空、ちょっと止まってろ。」

そう言った流我は抜刀し、有空の静止を待って自身と有空の周りを斬りつけた。

直後、流我の刀から水が溢れ落ちて行く。

「いーなー!オレもやりてぇ!」

一応誰でも出来る技術だが向き不向きはあるもので、有空が使える可能性は先ず無いだろう。

乾かし終えた二人は師匠の元へ行く。

「オレは楓黄有空。ヨロシク!」

有空は師匠に自己紹介をし、師匠もそれに応える。

「君の事は組織から聞いている。先ずは二人とも。一週間、良くやったな。」

流我と有空、両方の顔を見て労いの言葉を掛ける。

流我はお礼を言って頭を下げた。有空はドヤ顔で頭を上げた。

「二人とも車に乗れ。これから本部に向かう。」

ミニバンの3列目はシートが倒されており、そこに武器を置いて、有空は助手席に、流我は後部座席に乗り込む。

その後部座席には、よく知った顔が行儀良く座っていた。

「誰?」

有空が後部座席の人物を見て流我に聞くと、流我は「妹。」と答える。

その答えを聞いて有空はまた挨拶をするが、ミントは小さく頷くだけに留める。

「似てねー。」

有空は素直で良い奴だが、それは時に短所にもなる。

良い奴と言うよりも、気持ちの良い奴と言った方が正確だろう。

「血は繋がって無いからな。」

シートベルトを締めながら流我は答えた。

「へー。」

有空は興味無さそうだ。

「キョーダイだったらオレにもいるぞ?妹はいねぇけど。」

いつか会ったら「似てねー。」って言ってやろ。と、流我は固く誓った。

と同時に車は動き出した。

一同が乗る車は順調に進んで行く。

島から街、街から本部へと向かう訳だが、当然途中には赤色が行手を遮り、青色を待つ必要がある。

「おせぇ。」

不満そうに、腹立ちを感じさせる声を零す者が居た。

「走った方が速いだろ?」

有空は40〜50km/h程度簡単に出せる。イライラする気持ちは分かるし実際、流我や師匠も遅いと思っている。

「場所知ってる師匠が『乗れ。』って言ったんだ。少しだから我慢しろ?」

流我は有空を見て言う。

「分かった!」

有空の素直さは長所でもある。それは間違いない。

それから暫く経って、車は一つの建物…と言うより施設に着いた。

高く、厚い壁に囲まれたその施設は、多くの人から注目を浴び続けている。

石で造られた看板と、金属で造られた正門が、流我の興味を逆撫でて行く。

【株式会社 井口ライフリサーチ 第二研究所】

看板にはそう彫られていた。

井口ライフリサーチは非常に有名な会社で、「その業績は世界一である。」と主張するジャーナリストもいる程だ。この国で最も古い会社であるとされており、創業は400年前とも500年前とも、それ以前であるとも言われている。

どの家庭にも必ず一つ、この会社の製品はあると言える。流我の実家にもあった。大体が医療関連の製品だが事業内容は幅広く、「調べたら井口ライフだった。」と、この国に住むものなら誰もが経験している。

それ程有名な会社なのだ。

「お?着いたんか?」

有空に興味は無いようで、流我とは別の理由でテンションが上がっていた。

有空のこと、知らない可能性も無くはないかと考え、流我もあまり気にならなかった。

裏口の門を開け施設に入り、地下駐車場へ車を停める。

車から降りた一同は装備を持って中へ入り、エレベーターに乗る。

地下四階で停まったエレベーターのドアが開くと、多くの人が忙しそうに働いている。

「うぇ〜い。」

その中の1人、特に、全く、忙しそうに無い金髪の男が「ハイタッチ!」と、流我に目で訴え掛けて来た。

「うぇ〜い。」

流我が素直に応えると男はたちまち笑顔になり、次は有空と同じやり取りを繰り返す。

そして、傍目で見ていた師匠に視線を向けた所で、

「この男は工房の責任者で、私の友でもある。」

紹介を始められた。

「イヤ〜、どうもどうも。カミチャンの弟子にしてはノリイイネ?」

「あー、ユアチャンは違うんだっけ?」

師匠の友は、流我達のことをよく知っているようだ。

「オレはジョージ。気安く呼んでくれヨ?」

一応、流我達も自己紹介をして本題に入る。

「で、装備ネ?二人共武器だけで良いよな?リュウチャンは太刀。ユアチャンは大剣ネ。」

「ああ、今持ってるヤツそこら辺置いといて。」

勝手にあだ名を考えて、書類を眺めるジョージは一旦無視して、二人は空いている机に武器を置く。

「オレは造れないんだよネ。意外と忙しいのヨ。」

ひたすら続く早口の喋りを、一同はただ聞くしかなかった。

「二人の武器は私が造る。」

ジョージの喋りを遮る声は、いつの間にか流我の刀を手に取っていた少女から発せられた。

「ユナ。よろしく。」

「綺麗に使ってる。綺麗過ぎるくらいに。」

歳は流我と同じくらいに見える。間違いなく、この工房最年少は彼女だろう。

師匠と話すジョージを置いて、彼女は次に有空の剣を手に取った。

「こんなの、どこで手に入れたの?」

大剣は有空が昔貰った物らしい。かなり昔のようで、手入れらしい手入れもされていないので、刃毀れが酷く最早刃物とは呼べない。

「ユアは雑だね。ほぼ鈍器だよ?これ。」

「斬るって言うか、腕力で無理矢理裂いてる感じでしょ?」

思い返せば島の時も、有空だけ爆音を量産していた気がする。

「リュウの一ヶ月貰って良い?綺麗に使う人みたいだし、良いの造んなきゃ。」

「綺麗に」がよく分からないが、急ぎではないので断る理由はない。

「ユアのは後回しね。」

有空を見ると、何故か気を落としている。

「流我…オレの負けだ……。」

ディスられたのと、後回しにされたので負けたらしい。

「…。」

流我も流石に言葉が出なかった。

「何か質問ある?籠るから、今言って欲しんだけど。」

作製に集中したいユナは二人に問いかける。

「綺麗過ぎるって何だ?手入れし過ぎってことか?」

師匠に教えられたタイミングと方法で行っていたため、ダメ出しされるとは思っていなかった。

「手入れは良いよ?」

なら何が?と、次の言葉を待つ。

「綺麗過ぎるって言ったのは、刀に負担が掛かってないから。」

「信用してないんでしょ?刀も。他のことも。」

少しぐらい任せても良いと、その鍛治職人は瞳を向ける。

「この刀はそうじゃないかも。でも私の刀は信頼に値するよ?」

「必ずね。」

自信そのままでユナは発する。

どうやら、歳が近くても似る訳ではないらしい。

「漢字だろ?名前教えてくれよ。」

先程のことをもう忘れている様だ。

いや、名誉の為に「気にしていない」と言っておこう。

「カタカナで良いよ。そんなの。」

ユナの表情が変わった。

「名前なんて、個体識別番号でしかないんだから。」

「『数字だと覚えにくい。だから【字】を使おう。』それが名前でしょ?その人に思い入れがあるなら、数列でも覚えられるはずなのに。結局みんな、他人に興味なんて無いんだよ。覚えやすくしないと、名前も覚えられないくらいね。」

その後有空の顔を見て、目を逸らして、もう一度見てから謝って、今度は刀を見て、

「そのうち教えるから。…安心して?これくらいで震える様な、素人じゃ、ないから…。」

用事が済んだ流我達は工房を離れた。

2階下がって地下6階。そこには大浴場がある。

他にも仮眠室や図書室があり、日々の疲れを癒す設備が整っているのだが、流我達の目当ては疲れよりも汚れである。

「久しぶりの風呂だな!一ヶ月くらいは入ってないだろ!多分!」

有空は自慢した。

「マジか?最初会った時全然感じなかったぞ。」

流我は多分、有空より鼻が効くので、良い消臭剤使ってるみたいだ。

「…俺先に出るわ。」

汚れは落ちたし、音が聞こえたのでもう上がることにした。

そして風呂から出ると、脱衣所の前に人が立っているのが分かる。

よくは知らないが知っている人だったので、急いで脱衣所を出ると、その女性はまず謝った。

「ごめん。忘れてた。」

ユナは出てきた流我に声を掛けて、忘れていた物を取りに来ていた。

「首飾り持ってるよね?さっき受け取れなくて、ごめん。」

そう言えば師匠が、後で必要になるとか言っていた気がする。

流我は首飾りを渡して、ユナの話を聞いていた。

「これさ、武器作るのに必要なんだよ。この石のことね。」

石を光に透かして何かを確認している。

「『忘れるぐらい』ってなるだろうけど、今はホントに気にしないで?」

「さっき言った様に、ちゃんと折り合い付けてるから。」

正直、流我自身はどうでも良いと思っていた。

「それぐらいで変わらない」と言われたのだから、変わらないのだろうと思っていた。

悩みを取り除けるなら助力するが、本人が望んでいないなら手を出すことは出来ない。ましてや、初対面の人殺しに心を許す女の子など存在しないだろう。

「気が向いたら話してくれ。」この言葉を発する権利は随分昔に捨ててしまった。

「石に関しては完成した時に話すから…それで良い?」

流我がずっと黙っているので、流石に怒らせたかとユナは後悔を重ねる。

「ああ、勿論。」

かなり強くなったはずなのに、演技だけは器用にこなせなかった。

「よう!行こうぜ!次は何階だ?」

有空には見えてないみたいだった。

「次は地下三階だ。」

図書室で調べ物をしていた師匠が戻って来て、有空の質問に答える。

「井口社長と面会をしてもらう。」

解答の後、ユナは地下4階の工房へ戻って、流我達は地下3階の会議室へ行く。

扉を開けると、綺麗なスーツを着こなす男が立っていた。

「初めまして。碧蛇流我さん。楓黄有空さん。私は井口ライフリサーチの代表取締役社長をしています。井口広輝と申します。これから、どうぞ宜しくお願い致します。」

丁寧な挨拶と、名刺を渡して自己紹介まで済ます。名刺には当然「いぐち こうき」と書かれていた。

「「宜しくお願いします。」」

流れる様な挨拶に、流我と有空二人の声が揃ってしまう。

「どうぞ座って下さい!お二人とも、私に気を使わなくて良いんですよ。何でも聞いて下さい!」

「因みにお昼はきつねうどんです!」

そんな事は気にならないし、気になっても聞くわけないし、今の発言を聴いてしまうと気を使えなくなってしまう。返に困る発言を社長自ら行わないで頂きたい。

そう考える新入社員を横目に、社長は「水しかなくて…。すみません…。」と、紙コップに注ぎだす。

「では本題に入りますね。」

水を注ぎ終えた社長は座って、机の上に置いてある書類には目を向けず、流我達に目を向けて話し始める。

「お二人は、今日から井口ライフの社員です。お金もお渡ししますし、衣食住の提供に加えて、この施設地下3階から地下6階の設備も自由にお使い下さい。具体的な事はこちらに記しておりますので、お時間のある時にでも是非目を通して頂ければと思います。」

社長は慣れた手つきでパンフレットを渡す。

「碧蛇旻渡さんについても、役職以外は同様です。」

パンフレットには具体的なシステムと、流我達自身の個人的な事柄が詳しく記載されていた。

「質問は?」と聞く社長に「何故事務仕事を社長がするのか。」と、気を使わない質問をしてみる。

「こうでもしないと、話す機会ありませんからね。」

社長は書類を片付けてそう答えた。

「ここからは個人的な話です。」

そう言うと、社長は一呼吸置いてからまた話し始めた。

「皆さんがどんなことをしても、全ての責任は上司である私にあります。皆さんは私の命令に従っただけ。」

「いつか悩むことになった時、この言葉を片隅にでも思い出して欲しい。綺麗事ですが、皆さんには多くの人を救って欲しいと、そう、思っています。」

少し考えてから、

「『少しは汚い方が良い。』と言っても、やっぱり僕は、綺麗な方が好きなんですよ。」

井口広輝はそう言った。

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