第十八話【得られたものは】
「助かるけど、ホントに良いのか?」
一週間のサバイバルの後、ボスを倒した有空は既に試験を合格している。
例のデカい擬似敵を戦闘不能に追い込んだ際、島内には放送の音が鳴っていた。
「オレはゲンキだからな!」
大剣を振り回して元気そうだ。
実際有空にとって、一晩寝れば回復する程度の相手だったのだろう。目立った傷も無い。
「それと!」
流我を指差すその瞳は満天の青空を写し出す。
「オレも手伝って貰ったからな。オレも手伝うぜ。」
デカい擬似敵が呼んでいるっぽい雑魚敵は、流我が殆ど引き付けて無力化していた。
そのおかげで一体に集中出来たため、その礼はすると言うことらしい。
「ありがとう。」
「もう少しで来る筈だ。」
島内に時計は無く、正確な時間は分からない。
時間は最悪数えるとして、装備の重量を軽くする為、携帯も腕時計も持っていない。
勿論、刀一本の侍と言う訳でもないので、幾つか細かい装備品はある。ただ、実戦では無くあくまで試験である為、モノに頼ることは避けた方が良いだろうと考えていた。
「来たぞ。」
前回と同じく、島の中心に現れる。
同じ大きさ、同じ形で、違うのは武器だけ。
「太刀だな。」
体の大きさに合わせた結果、武器も大きくなったと見るべきだろう。
後は戦って動きを見る必要があるが。
「やっぱり真っ直ぐこっちに来る。」
「俺が相手する。取り巻きは任せるぞ。有空。」
有空はサムズアップで答え、敵の元へ向かう。
デカい擬似敵のスピードは変わらない。
おそらくパワーも変わらない。
どう言う動きをするのか、方向性は掴めている。
流我が戦場に選んだのは林の中。
木々に隠れ、隙を伺う。
すると、敵は木を切り倒し始める。
数瞬後には倒木並ぶ広場が出来上がっていた。
流我は倒れた幹の上に立つ。
目標の位置を確認した敵はその大太刀で斬りかかるが、目標はこれを後ろにかわす。
敵の勢いは衰えず、再び斬りかかり今度は受けさせることに成功する。
火花散らぬ金属音が鳴り続ける。
(やっぱ力じゃ勝てんか。)
まともに打ち合えば流我が不利になる。
(…距離取ってみるか。)
敵の動きを見て九割程理解した。
後方に大きく跳び、追ってくる敵に向かって裂風を放つ。
敵は対応出来ていない。
(やっぱりだ。コイツら動きを真似てるんだな。多分一週間でデータを取って、それをこの擬似敵に学習させてるんだ。)
(なら、そうだよな。真似出来ねぇよなぁ?剣術までは…!)
流神流剣術は、人間が持つ力を引き出したもの。当然ロボットには使えない。
太刀筋や立ち回りが同じでも、雲泥の差がそこにはある。
擬似敵なんて便利なモノが実戦で使われない理由には、敵と言う強大な力を持つ存在に、ステータスだけの戦いを強いられるからだ。
(そんなんで殺せる程、敵は甘くないんだよ。)
流我は修行時代、高度な人工知能を有する戦闘ロボットと、データを取るための模擬試合をした事がある。
結果は言うまでもなくロボットの圧勝。ルールで縛られた状態なら、勝てるわけないと思っていた。
当時はまだ、鍛錬を始めて数ヶ月。激痛と言うハンデを負って戦える相手では無かったのだ。
「こんなのが、データに、なるんですか?」
流我は息を切らしている。
「人間と同じで、経験を積むことが大切なんだよ。」
ロボットを連れて来た研究者は、優しさに溢れた声でそう言うと、今度は師匠に対戦相手の申し込みをしていた。
(師匠があっさり勝ったんだよな。今やったら、俺も勝てんのかな。)
空中で裂風を受け、体制を崩した敵に追い打ちをかける。
(風圧ノ構エ)
深く息を吸い、深く息を吐く。
刀を首の後ろに回し、左足は前。腰を深く落として集中する。
ーーー郭公ノ戯レーーー
風と空気が擦れる音は囀りの様にも聴こえ、撃ち放たれた風の鳥は敵と重なる。
敵の体は乱雑に啄まれ、腕は点で繋がり、脚は肉で繋がり、腹の中から機械部品が零れ落ちている。
(これも使って行かなくちゃな。)
刀を鞘に納め、有空を呼び行く。
「碧蛇流我さん。合格です。島を出て担当の指示に従って下さい。以上です。」
有空の時と同じ放送が流れる。
担当と言うのはおそらく師匠のことだろう。
有空も同じだろうか。
「おっしゃ!島出ようぜ!」
流我が呼ぶまでもなく、有空は砂浜へ向かう。
島の裏側に当たる砂浜へ。
「おい待て!こっちだこっち!お前反対側から入ったのかよ…。」
愉快な友達のせいで楽しくなりそうだ。




