第十六話【愛すべきバカ】
「オレは強くなるためにこの島に来た。お前の言う試験を受けに来たんじゃ無い。」
島を含めた辺り一帯は、組織の管理下にある。
しかし、見張りを置く余裕は無い為、監視カメラが設置してある程度のセキュリティだ。
湖にボートは浮かんでいないし、持ち込むのは現実的でない為、島に入るには泳いで行くか空を飛ぶ必要がある。
そして、人間に泳いで行ける程甘い波は立っていない。
更に部外者が立ち入った際は、それとな〜く追い出すことになっている。
「柵があったろ?」
乗り越えた。
「危険!素人は泳がないで下さい!とか、書いてなかったか?」
泳ぐのは好きだ。
「…島に入った時、何か放送があったか?」
あったな。一週間とか、何とか?
(受験者として認められたんか?コイツ。)
質問には真面目に答える。
信じるのも良く無いだろうが、悪い人間の気がしない。
「いつ島に入った?」
一週間後に何が起きるのか。何も起きないのか。
取り敢えずは分かりそうだ。
「昨日の昼だな。良い天気だった。」
取り敢えず、分からないことが増えただけだった。
島の擬似敵は殆ど破壊されており、補充には少しの猶予がある。
「…俺は碧蛇流我。お前は?」
組織が認めたなら信じてみよう。
自分自身も、信じたいと思う。
「楓黄有空だ。ヨロシクな!リューガ!」
有空は右手の拳を突き出し、笑顔で何かを待っている。
「フウコユア?まあよろしく。」
流我も拳を突き出す。
少年は満面の笑みを向け、楽しそうにしているのが少し、何故か少し幸福に思えた。
それから何度か、強めの敵と戦うこともあった。
雷鳴を使えば、電気で動く擬似敵は簡単に倒せ、有空から尊敬の眼差しを向けられることもあったが、流我は見なかった事にした。
「お前バカなのに、名前覚えられるんだな。」
有空の動きを見ていると、とても知性を感じられない。
ただ、意外と直ぐに距離は縮まった。
流我がアクションを起こす度に、「何だそれ!?」「教えてくれ!」と、有空は質問攻めをする。
聞いてくるだけで、イマイチ才能は無い様だが。
「親友の名前だぞ?当たり前じゃねぇか!」
本当に、本当に最初はヤバい奴だと思っていた。いきなり斬り掛かってくるから。
まぁ何と言うか。素直な奴だと思う。
流我が抱いていた不信感も直ぐ消えた。
色々あって、有空が島に来てから一週間が経った。
色々の中身は、9割有空の暴走だったが。
「楓黄有空さん。島の中心に現れた擬似敵を討伐して下さい。」
放送だ。
島の中心には確かに一体居る。
「有空。真っ直ぐそっちに向かってる。」
今までの機械とは明らかに違う。
多分、対象者を追うようになっている。
向かって来るスピードが、有空と同じレベルだ。
「任せろ!ぶった斬ってやるぜ!!」
有空は大剣を握り締め、敵に合わせて振り下ろす。
「強ぇなぁ!?お前!!」
敵も有空と同じく大剣を持ち、攻撃を受け止める。
受け止めても勢いは衰えず、有空を押して突き進んで行く。
地面には2本の線が出来ていた。
「俺は手伝わないからな!」
これが有空に課せられた試験なら、ルール上問題無いとしても、手を出すのは不粋と言うものだろう。
有空には有空の、流我には流我の戦いがあるのだ。
(俺もアレとやんのか…?気乗りしねぇ〜…。)
明日の朝何が来るのか。完全に分かった訳では無いが、もしアレが来るならちょっと辛い。
この一週間で有空のステータスは大体分かった。
典型的なパワータイプで、そのパワーとスピードは流我を大きく上回る。
その小さな身体から、考えられない出力が圧倒的な手数でやって来る訳だ。
アレが有空を上回るパワーを持ってるなら、流我には合わない相手になるだろう。
「りゅ〜が〜〜!!」
有空が走って来る。アレを引き連れて。
手札が少ない有空にとって、ステータスで上回られたらどうしようもない。
そう悟って仲間に助けを求めに来たのだ。
アレと、その他大勢の擬似敵を引き連れて…。
「おい有空!俺はもっと慎重に行動しろって言ったよなぁ!?」
アレを相手しながらだと、流石にこの数は捌き切れない。
一応数を数えてみよう。1、2、3、…たくさん!
こうなったら逃げるしか無い。
憎めないし、何ならちょっと、結構、楽しい。
何か悔しいけど、楽しいんだよ。こう言うの。
流我にとっては数年振りの友達、だからかな。楽しい。




