第十話【理想】
「流我。きっかけは見つかりそうか?」
久々に修行を見てもらっている。
「すみません。」
刀を止める。
「色々やって見てるんですけど、全く。」
「俺の【本質】が何なのか。何が足りないのか。全く分かりません。」
本質はゴール。成長の先にあるものだ。
成長限界という見方もある。これ以上の力を得るなら避けては通れないものだ。
「街に出てみよう。この小さな道場では、無理も無いだろうからな。」
思えば、初めてくる街なのに散歩の一つもしていなかった。
熱中していたと言うよりも、余裕が無かった。
「良いんですか?」
ひたすら鍛えてきたのに今更観光だなんて、何となく、努力を裏切られた気分になった。
「これ以上走り回ったとして、流我が強くなる事はないだろう。成長限界が来たんだ。」
ここ最近は色々試すだけで、確かに強くなってはいなかった。
強いて言えば、身のこなしが少し洗練されたくらいだ。
それくらい、流我自身も限界を感じていた。
商店街に来た。
通りに店が集まっている様な商店街では無いが、噴水の広場を中心として多くの店が並んでいる。
思う所はあったが、来てみれば良い気晴らしになる。
変化はあれど同じ生活の繰り返し、見えるものも見えなくなっていた。
余裕を生む経験が無かった。
「あれはこの辺りの名物だ。昼食はあの店にしよう。」
噴水の先にはパン屋があり、誰でも感じる良い匂いがしていた。惣菜パンが売りの店だ。
修行も言うなれば三段階目、上中下の下の部分、佳境に入っている訳で、肉体造りの地味な御飯を食べる必要が無い。
広場のベンチに腰を掛け、ゆっくりと流れる時間を楽しむ。
きっかけは見つかりそうに無い。ただ、平和が良いスパイスになる。
慣れてなければ、何だって新鮮に感じるし、何だって魅力的に見えるものだ。
物事の本質を見極める目は、物事を楽しむ感情と引き換えにしか得られない。
(今までの事が全部夢みたいだ…。夢だと…想い…たい……。)
流我自身も気付かない、深い、深い眠りに堕ちて行く。
(何処だ、ここ。)
辺りを見回してようやく気付く。
誰一人として、街に影がないことに。
(違う、同じだ…!雰囲気が違いすぎて分からなかった。俺は一歩も動いてない。)
消えた影の中にはミントと師匠もある。
師匠は心配無いとして、ミントが気になる。あの時と同じ気持ちになる。
「ミント!ミント!!」
呼び声は、街の中へと溶けて行く。
「お兄ちゃん!」
振り返ると、座っていたベンチだけを残して噴水達は消え、妹の姿が浮かび上がる。
同時に、ミントの左後ろに男が立っている事を知る。
男は持っていた日本刀を振りかぶると、ミントの首を切り落とそうと振り下ろす。
「止めーーー」
「ろ…?」
気付くと男も妹も消え、噴水は背後に、自分はベンチに座っている。
(夢…なのか?)
辺りを見回すとやはり影が無い。
(取り敢えずミントを…。)
先ほどと同じ様に、ミントの名前を言おうとする。
「お兄ちゃん!」
やはり噴水は消え、ミントの後ろに居る男は日本刀を振り下ろす。
「ミント!!」
さっきよりも速く駆ける。
速く駆けて目を覚ます。
(夢…!?また?またミントが…!)
直ぐに振り返る。
男は日本刀を振り下ろす。
首に刃が当たる瞬間、目を覚ます。
(また…!また、俺は…ミントを…!!」
声が出ている事実に気付き、師匠の言葉を思い出す。
「敵に情報を与えるな」
(落ち着け!落ち着け俺。冷静になって考えるんだ。)
(声に出すなんて論外。焦っている証拠だろう?敵はそれを見逃さない。)
ベンチに腰を預けたまま、今起きている事を考える。
(敵の中には、特殊能力を持つ奴もいるらしい。)
これだけはっきりした意識を持ち、尚且つ夢の様な事が起きる。
敵の能力によるものだろう。
(ミントも幻か?とにかくあの男をどうにかしないと。)
これが夢で、他に人がいないなら実力を発揮出来る。
背負っていた刀を取り出し、腰に当てる。
(奴の刀を弾く。いきなり切るのはダメだろ。)
一度呼吸をし、振り返る。
男との距離を一気に詰め、刀を弾き飛ばす直前に気付く。
男が自分と同じ見た目をしていることに。
(何…で……?)
表情に出ない動揺が、夢の世界を弾き飛ばす。




