第九話【剣士】
流神流剣術それは自然の力。
流の神に力を借り、その力を適切に発揮する為の技術である。
「流の神って何ですか?初めて聞いたんですけど。」
会ったことも無い、居るかも分からない神様に自分の命運を託すなんて、追い込まれた時しかやらない。
実際追い込まれればやるし、追い込まれれば、神も鰯の頭も大して変わらない。
胡散臭い宗教勧誘のモノマネでも始めたのかと、心の中ではツッコんでいた。
「流神の事は忘れろ。前に言っただろう、何処からきたのか分からないと。」
もし本当に神様からの贈り物なら、師匠がこう言う筈は無い。
流神流剣術自体は存在し、しかしその起源は分からない。資料も残っていない。
「初代が居たのは聞いている。ただ初代が何処から来たのかは知らない。」
興味が無い訳では無く、そんなことを調べるよりも、やるべき事があると、ハッキリ言い切る。
「話を戻そう。」
「流神流剣術は、火や冷気、水や風を集め刀に纏わせ、それぞれの力を発揮する。攻守に優れた技術だ。」
流我は風だけだと思っていた。風を起こす力だと。
実際には、空気を刀に絡ませ、引っ張る。風を起こす事など出来ないのだ。
「まだ先の話になるが、流我の【本質】次第では、大幅に強化されるだろう。」
「今までとは違った鍛錬も要求される。」
的当ては暫くやらない。
ある程度技を扱える様になれば、良い訓練になる。
それまでは自然と触れ合う訓練を行う。
流神流剣術は、まず構え、自然を集め纏わせる。次に、纏った自然で技を放つ。これで完結する。
普通に考えれば、自然を纏わすなど出来る筈が無い。
出来る筈が無い事が出来る。これは成長によるものだ。
的当ての他に、師匠と木刀で、刀の扱い方を学んだ。
師匠は度々ワザを使い、どうにか自分も出来ないかと日々刀を振るった。
そうして、見て、感じたものが成長へと繋がった。
人間には、自然と一体化出来る可能性があると言う事だ。
「流神流剣術において、最も使いやすいものが風。【風圧ノ構エ】だ。」
空気さえあれば何処であろうと使える。
「次に【雷鳴ノ構エ】。電気を扱う。」
現代社会において、電気エネルギーは至る所にある。
風が使えなければ、真っ先に選択肢に上がるだろう。
「【流水ノ構エ】。水は重く、難易度が高い。電気が使えるならリスクを負う必要は無い。」
水辺は勿論、雨でも使え、蛇口を捻れば供給は容易い。
一見使いやすそうだが、師匠の言う様に水は重い。相当の練度が無ければ上手く扱えず、纏える水は少量になる。
「取り敢えずは、風を扱えるようになれ。雷はその次、水は最後だ。」
風圧ノ構エは習得難度も低く、言ってしまえば、刀を振り回しているだけで身につく。
今まで、風を出すイメージで行なっていた事を、風を集めるイメージに変えれば直ぐに身ついた。
身についたが、師匠の技を出す事は出来なかった。
技は出せているのだが、師匠の様な威力が無い。
簡単にやってのける師匠の凄さを再認識した。
一つ身につき、コツを掴めたのか、他の構えも直ぐ扱える様になった。
直ぐと言っても一年以上かかっているし、基本が出来ただけで、技の威力は使えないほど低い。
基本が出来たら、また的当てが始まる。
今度は技ありきの数になっており、より集中力が求められる。
肉体的な疲れよりも、精神的な疲れが流我を襲う。
いつもそばで見てくれている妹の姿が無かったら、どうなっていたか分からない。
進み難いのか、進み易いのか、はたまた全く進まないのか。分からない。
「ただ一つだけ言える事は、ミントの存在が、お兄ちゃんに勇気を与えてくれるってことだな。」
ヘビが知り合いに頼んでくれたお陰で、ミントは医療知識を学べていた。
物覚えが良く、薬の種類から包帯の巻き方まで、数ヶ月に一回訪れる看護師の先生からたった数時間の教授で、流我の火傷に包帯を巻く位成長していた。
流我に教える余裕は無いし、文字はまだ勉強中で、複雑な日本語を覚えるのには時間がかかっている。
師匠は初め流我の様子を見ていたが、だんだん外出が増え、今ではほとんど居ない。
流我自身、少し寂しくはあったが、言葉で教えられることももう無いし、何より、師匠のやっている事を考えると、文句の言いようが無かった。
「そろそろ、免許皆伝かもな…。」
痛まないし、直ぐに癒えるだろう傷がやけに気になり、その日はいつもより早く布団に入った。




