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恋のハットトリック

「ダサっ!何、このタイトル」


 放課後の理科室に、俺の声が響く。


「どうしたの、ユイ。恋愛漫画なんて」


 原稿用紙を頑なに捲ろうとしない俺の前で、ユイは険しい顔をしている。


「らしくないよ。お前の描くファンタジー、めちゃくちゃ面白いのに。ジャンル変えるとか」

「……」

「賞レースに引っかからないからって」

「もういい!」


 ユイは、乱暴に原稿をかき集めてカバンに突っ込み、理科室を飛び出していった。


「……バカか、俺」


 俺は、ポツリと呟いた。

 そして、”後悔先に立たず”という言葉を、俺は身をもって知ることになる。


 ユイが初めて描いた恋愛漫画である”恋のハットトリック”が、漫画賞を獲得したのだ。



 俺は、いつだってユイの作品の”第一読者”だった。


 きっかけは、アクシデントだった。

 ユイが体調を崩して中学を早退することになったとき、先生が幼馴染の俺を随行者として指名したのだ。

 彼女の荷物を整理していた時、俺は描きかけの漫画を見つけてしまった。


「誰にも言わないで」


 そう口にしたユイの蒼白な顔は、体調のせいだけではなかったのだと思う。


「言わない。でも」


 俺は、目を輝かせてユイの顔を見た。


「読ませてよ、漫画」



 ユイの描くファンタジーが好きーーそれは本当だ。

 でも、彼女が初めて描いた恋愛漫画を俺が読む気にならなかったのは、怖かったからだ。

 彼女の”恋愛観”に触れてしまう気がして、怖かった。


 ユイとは、あれから話をしていない。

 単純に気まずかったし、漫画賞を取った彼女の周囲は、とても賑々しかった。

 その日も俺は喧騒を離れ、いつもユイの漫画を読ませてもらっていた理科室にいた。


「駿ちゃん!」


 突然の声に振り返ると、ユイが漫画の原稿を掲げて仁王立ちしていた。


「読んでくれる!?デビュー作、ファンタジーだよ!」

「……何で」

「だって、駿ちゃんは私の”第一読者”でしょ?」


 ーー1本目。


「読んでくれる人がいたから……駿ちゃんがいたから、頑張れた」


 2本目。


「あのね」


 ーー3本目の気配がして、俺は歩き出す。


「私、駿ちゃんのことが好ーー」


 俺は、ユイを抱きしめた。


「……何これ、漫画?」


 ユイが、掠れた声で呟く。


「……3本目まで、入れられてたまるか」

「え?」


 腕を緩め、俺はユイの顔を見た。


「俺がユイのこと、好き……って話」


 ユイが、唇を横に引いてニッと笑った。


「私のこと好きなら……読めるようになってよね、恋愛漫画も」


 う、と言葉に詰まった俺を見て、ユイは声を立てて笑った。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。この作品は、『第3回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。

「なろうラジオ大賞3」へは、他にも幾つか作品を投稿しています。もしご興味がありましたら、ぜひ覗いてみてくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁ。好きです。 恋のハットトリック、単なる漫画の題名と思いきや、素敵な仕掛けがありましたね。 「私の、第一読者」、「三本目まで入れられてたまるか」にキュンキュンしました。
[一言] 初めてお邪魔させていただきます。 なろう投稿作者様と重なるような。 ファンタジー書いていたのに、恋愛って…あなたの嗜好が分かるのかもってもだもだが分かります…! 実際どうなのかと言われても…
[良い点] 甘酸っぱい青春にキュンとしました♡ 物語の展開の仕方が、自然でするーっとその世界に入っていくような感じが、すごく好きです。 文字数はしっかり抑えられているのに、ユイちゃんと駿ちゃん、二人…
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