第62話「初登校」
月曜日。
つまりは、俺と有栖川さんが付き合うようになって初の登校日がやってきた。
まだ俺と有栖川さんが付き合い出した事は、誰も知らないだろう。
だからこそ、この関係がバレればそれ相応の反応はされるのは間違いなかった。
だから昨日、帰る前に一緒に晩御飯を食べている時に、今日からの事を有栖川さんとは事前にどうするか相談をしている。
その結果、俺達の出した答え、それは――、
「おはようございます! 健斗くんっ!」
「うん、おはようれーちゃん」
――普段通り、俺達の思うように。
遅かれ早かれどうせ知られてしまうのだ、だったらもう、周囲の事など気にしないだった。
だからこうして、一緒に登校するため有栖川さんは俺の家まで迎えに来てくれているのであった。
こうして大好きな彼女が家まで迎えに来てくれる、そんな掛け替えのない幸せ。
その前で俺のすべき事は、何があっても彼女の事を守る事であり、そして彼女を幸せにする事だと思っている。
……なんて、初めて彼女が出来たばかりの俺が語るにはまだ早いのかもしれない。
でも、まずは気持ちだけでも、そうあるべきだと思うから――。
「行きましょうか」
俺の顔を見て、有栖川さんは嬉しそうに微笑んでくれる。
そんな天使のような微笑みを前に、俺も自然と顔が緩んできてしまう。
こうして、いざ登校する事に対してちょっとした緊張感を抱きつつも、俺は有栖川さんの手を確かに繋ぎながら一緒に学校へと向かうのであった。
◇
学校に近付くにつれ、感じる視線。
理由は言うまでもない、俺が有栖川さんと一緒に手を繋ぎながら歩いているからだ。
同じ学校の人は勿論、他校の人まで驚いてこっちを見てくるのは少し意外だったが、きっと日々の登下校の中で有栖川さんを見かけていたりとかしたのだろう。
だから向けられる視線の多くは、驚愕だったり落胆の色が濃く現れていた。
「……あはは、やっぱり、目立ってしまってますかね」
「そりゃね、れーちゃんだもの」
俺の言葉に、顔を赤く染めて恥ずかしがる有栖川さん。
俺の方をじっと見ながら、それは自分だけじゃないと言いたげなその表情は、恋する乙女のそれだった。
だからこそ、そんな有栖川さんの仕草に周囲の人々はまた落胆の色を強めていく。
そんな、まるで有名人がごとく、朝の登校だけで周囲から注目を浴びてしまう有栖川さん。
こうなる事は予想していたけれど、いざ実際に注目を浴びてみると予想を超える反応が待っていたのであった。
◇
教室の扉を開ける。
そこには、いつもの教室にいつものクラスメイト達。
しかし、そんな変わらないクラスメイト達の視線が、一斉にこちらへと向けられる。
それは勿論、俺と有栖川さんが手と手を繋ぎ合っているからだ。
流石にクラスメイトにもこんなリアクションをされてしまうのは恥ずかしいのだが、これには有栖川さんも同じだったようだ。
ほんのりと頬を染めながら、こっちを向いてはにかむ有栖川さんに俺も笑って応える。
しかし、笑って見せたものの、こういう場面をどう切り抜ければいいのかなんて、残念ながら経験のない俺には持ち合わせてなどいなかった。
向けられる視線が痛いと感じていると、そこへ近付いてくる人達――。
「え!? なになに!? 二人付き合ったの!?」
「やっぱり、そういう事だよね」
それは、以前から仲良くしてくれる橘さん達。
そして、土曜日にショッピングモールで会った矢田だった。
そんな、このクラスの中心人物達が気さくに話しかけて来てくれたおかげで、俺達は気まずい空気から救われる――。
「……まぁ、そういう事だね」
「……はい」
照れつつも、俺と有栖川さんが答えると、橘さん達も矢田も笑って受け入れてくれた。
教室内のみんなに聞えるように、わざわざそうして話しかけてくれているのは、きっと俺達の事を思っての事なのだろう。
だからこそ、そんな気遣いが嬉しくて有難かった。
そのおかげもあって、相変わらず注目は浴びてしまっているものの、先程よりは気が楽になった。
それは、こうして受け入れてくれている人達がいるという安心感があるが故だろう。
分かってくれる人達がいるというのが、こんなにも心強いとは思わなかった。
「ていうか、なに? 矢田も気付いてたの?」
「ん? まぁ、そうだね。そういう橘さんも気付いてたんだね」
「そりゃまぁ、うちらマブだし?」
橘さんと矢田が笑い合う。
あまり絡んでいるところを見た事は無かったが、お互いに俺達の事に気付いていた事がおかしいようだ。
こうして、みんなのおかげで朝は大きな問題なく登校する事が出来たのであった。
「えへへ」
朝のホームルームが始まる前、隣の席の有栖川さんが嬉しそうに笑い声を零す。
「どうした?」
「……えへへ、授業中も隣り合わせでいられて、嬉しいなって思って」
どうしたんだろうと笑う理由を聞くと、有栖川さんからはそんな何とも可愛らしい答えが返ってきた。
その言葉に、俺もそうだねと笑う。
こんな風に大好きな彼女の隣の席で居られる事に、改めて喜びを感じずにはいられなかったから。
理解者がいてくれるだけで、救われますよね
誰かが困っている時には、自分もそうありたいなと思います