第57話「目撃」
二人で横になって、どれぐらい時間が経過しただろうか。
時間こそ分からないが、あれから俺達はずっと一緒に横になっている。
すぐ隣からは有栖川さんの甘い香りが漂い、それだけで俺は何とも言えない充足感を感じてしまう。
このまま時が止まってしまえば良いとすら思ってしまう程、大好きな彼女の香りや温もりを感じられる事が、こんなにも嬉しい事なのかと喜びを噛みしめる。
しかし、そんな幸せな時間から現実に引き戻されるように、突然部屋の扉がノックされる。
「ねぇお兄ちゃん、この前借りた漫画なんだ……けど……」
そして、俺が返事をするより先に勝手に扉を開けて入ってきたのは、妹の瑞樹だった。
昨日は友達と遊びに出掛けていたせいだろうか、今朝は珍しく起きて来なかった瑞樹。
だからこうして、今日も有栖川さんがうちへ遊びに来ている事なんてわざわざ報告もしていないため、寝間着姿で完全に気を抜いている瑞樹は、何故かここにいる有栖川さんの姿に驚いて固まってしまう。
そんな瑞樹に対して、有栖川さんは有栖川さんで戸惑ってしまったのだろう、こうして一緒に横になっているところを人に見られたのが恥ずかしいのか、慌てて起き上がるとベッドの下にちょこんと座った。
しかし、もう既に瑞樹にはしっかりと見られてしまっているため、今更取り繕ったところでもう遅い。
「瑞樹、人の部屋に入る時はちゃんと返事を――」
「お、お邪魔しましたぁっ!!」
とりあえず、自分の今の状況は完全に棚に上げつつ注意しようとするも、瑞樹は俺が言い終えるより先にまるで見ちゃいけないものを見てしまったかのように、耳まで真っ赤にしながら慌てて部屋から出て行ってしまったのであった。
そんな妹の初心な反応は、さっきまで読んでいた漫画の世界に出てくる妹キャラのようで可愛いかったのだが、生憎これは架空ではなく現実の世界の話だ。
とりあえず、確実に変な勘違いをしているに違いないであろう我が妹には、あとでちゃんと弁解をしなければならないだろう……。
「へ、変なところ見られちゃいました、ね」
そして有栖川さんは有栖川さんで、やっぱりこちらも見られた事が恥ずかしかったのだろう。
膝を抱えて座りながら、うぅーとうめき声をあげつつ耳まで真っ赤に染めてしまっているのであった。
◇
瑞樹が出て行ってからというもの、やはり恥ずかしかったのかすすすっとまた人を駄目にするクッションのもとへと行ってしまった有栖川さんは、そのままクッションに座って漫画の続きを読みだした。
けれど、今更ながらさっきまで一緒に横になっていた事、そしてそんな姿を妹に見られてしまった事が恥ずかしいのだろう。
やっぱり耳まで真っ赤にしており、何だか動きもガチガチに固まってしまっているのであった。
そんな、ある意味挙動不審な反応を見せる有栖川さんは、見ていて可愛かった。
平凡な俺ではなく、美少女の方がそこまで意識してしまっているというアンバランスさに、思わず笑ってしまう。
本当に、自分の彼女はまだまだ知らない魅力に溢れているようだ。
「あ、あの! 健斗くん!」
「ん? どうした?」
すると、突然有栖川さんは俺に呼びかけてくる。
その声は少し上ずっていて、やっぱりまだどこかぎこちない感じだった。
「お、お昼は、ど、どうしましょう!?」
何事かと思えば、お昼をどうするかの相談だった。
時計を見ると、十二時を少し回っており、確かにもういい時間だった。
昼ご飯と言えば、昨日は一緒に近くにある喫茶店で済ませたのだが、そんな昨日の出来事だけれどあの時の自分はまさかこうなるなんて思ってもおらず、この一日で劇的に変わり過ぎている状況に、我ながら進み過ぎじゃないかとまたクスリと笑えて来てしまう。
「健斗くん?」
「あ、ああ、ごめん。そうだね、じゃあ今日もちょっと出かけてみる?」
笑い出す俺に、有栖川さんは不思議そうな顔をしながら小首を傾げる。
そんな有栖川さんに誤魔化しを入れつつ、俺はそんな提案をしてみる。
昨日はショッピングモールへ遊びに行ったのだが、せっかくこうして一緒に過ごしているのだから、今日はもう少し遠出をしてみようと思ったのだ。
「それは別に構いませんが、どこに行くんです?」
「それは、ついてからのお楽しみって事で」
そう言って悪戯に笑って答えると、有栖川さんも笑って頷く。
これから一体どこに連れて行って貰えるのか楽しみなのだろう、期待するようにニコニコと微笑んでおり、そんな子供のような姿もやっぱり可愛らしかった。
だから俺は、そんな有栖川さんの期待にはしっかり応えないとだよなと思いつつ、こうして今日も午後は一緒に外へと出掛ける事になったのであった。
ちなみに向かう先は、俺が休日たまに行っている場所なのだが、趣味の合う有栖川さんならきっと楽しんで貰えるだろう。
本日もお出かけ決定しました!
こうして今日も世に放たれる、まるで異世界系美少女の活躍に期待しましょう!