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第43話「土曜日」

 急な有栖川さんからの電話に驚きつつも、通話ボタンを押す。


「あ、おはようございます」

「おはよう有栖川さん、早いね」

「はい、実はですね……」

「う、うん?」

「その……早く漫画の続きが読みたくなってしまいまして……それで、午前中はお暇でしょうか?」


 改まって一体何を言われるのかと思えば、それは何てことは無い漫画の続きが読みたいという話だった。

 何だか、ここ最近の有栖川さんは俺以上に漫画にどっぷりと浸かってしまっているように感じるのは、全くもって気のせいなんかじゃないだろう。


 だから有栖川さんをこんな風にしてしまった事に若干の責任感を感じつつも、それでも俺はこうして有栖川さんが好きなものを共有して楽しんでくれている事が嬉しかった。


 だからもう、俺にはそんなお願い断る理由なんてどこにも無かった。



「暇だよ、うちにくる?」

「いいですか!? じゃ、じゃあその……これから向かっても……?」


 申し訳なさそうに聞いてくる有栖川さん。

 そんなに読みたいんだねと、俺は思わず笑えて来てしまう。


 そして俺がいいよと返事をすると、大喜びの有栖川さんがこれから家へとやってくる事になったのであった。



 ◇



「着きました!」


 瑞樹のあとに俺も歯を磨き、顔を洗い終えた所で、早速有栖川さんからそんなメッセージが届く。

 本当にあれからすぐ来たんだなと思いつつ、俺は慌てて服を着替えて玄関へと向かう。

 まぁ着替えると言っても家で過ごすわけだし、いつものスウェットにパーカーというラフな格好だから着替えはすぐに済んだ。


 そして玄関を開けると、そこには本当にニッコリと微笑む有栖川さんの姿があった。



「あ、おはようございます一色くん!」

「うん、お、おはよう有栖川さん……」


 しかし俺は、そんな有栖川さんの姿に思わず困惑してしまう。


 何故なら、今日は土曜日。

 つまり今日の有栖川さんは、制服やラフな服装ではなく、私服姿でしっかりとお洒落をしてきているのであった。

 淡い青色のシャツワンピースに、白のパンプス、たったそれだけの違いのはずなのに、普段より随分大人っぽく見える有栖川さんの姿は、本当に天使のようだった。


 ――それに、あれ? もしかして化粧してる?


 元々超が付く程の美人だし、その違いというのはもしかしたら微々たるものなのかもしれない。

 それでも、いつも以上にはっきりした目鼻筋に、何よりリップを塗っている事でよりぷっくりと潤っているその唇は、一目見ただけでまるでどこかの掃除機ばりに吸引力が半端なかった。



「一色くん?」

「あ、ああ! ご、ごめん! じゃあその、入って!」


 そんな姿に見惚れる俺に、不思議そうに首を傾げる有栖川さん。

 それでようやく気を取り直した俺は、慌てて部屋へと案内する事にしたのであった。



 ――そして、玄関をくぐるとそんな俺達の元へ早速一人の人物がやってくる。



「あ、有栖川さん初めまして! わ、私お兄ちゃ――じゃなくて、健斗の妹の瑞樹ですっ!」

「あ、こ、こちらこそ初めまして! 有栖川玲と申します!」


 それは勿論、洗面所で有栖川さんを拝んでいく宣言をしていた瑞樹だった。

 恥ずかしいのか、瑞樹は顔を真っ赤にしながら緊張した様子で有栖川さんへ挨拶すると、有栖川さんも緊張している様子で挨拶を返す。


 有栖川さんが綺麗なのは勿論、瑞樹も中学時代男子から人気があった程度には俺から見ても可愛い妹なのだが、そんな二人が顔を赤く染めながら頭を下げ合っている光景は、何だか見ているだけで少し笑えて来てしまう。


 そしてどうやら、そんな人並み以上にはモテる人生を歩んできた瑞樹であっても、今日の有栖川さんの姿には驚いているようだった。

 それもそのはず、元々美人な有栖川さんが今日は私服姿で大人なお洒落をしているのだ。

 そんな可憐な姿に、同性の瑞樹であっても見惚れてしまっているのは最早仕方が無い事なのかもしれない。



「えっと、瑞樹さん?」

「はっ! あ、いや、すみません!! で、では私はこれで!!」


 そんな見惚れる瑞樹の様子に困った有栖川さんが声をかけると、ようやく我に返った瑞樹は慌てて頭を下げるとそのまま自分の部屋へと帰って行ってしまった。

 こうしてちょっとした一波乱? が過ぎたあと、俺は有栖川さんを部屋へと案内する事にした。


 その間、リビングの扉の隙間から父さんと母さんが「天使だ……」と呟きながらこちらの様子を伺っていた事には気付いていたのだが、声をかけてもきっと面倒な事になるに違いないため、俺は見て見ぬ振りしておく事にしておいたのであった――。



 ◇



「すみませんね、午後からの約束だったのに」

「いや、大丈夫だよ」

「えへへ、なら良かったです!」


 そんな会話をしつつも、漫画の続きが読めるのが嬉しいのかご機嫌な様子の有栖川さんは、これまた嬉しそうに人を駄目にするクッションに座りながら早速お目当ての漫画の続きを読みだした。


 もうあのクッションが、すっかり有栖川さんの定位置になってしまっていた。


 まぁ何て言うか、今日は私服姿でいつも以上に美少女っぷりに磨きがかかっていても、やっぱり有栖川さんは有栖川さんなのであった。

 クッションに座りながら、「やっぱりこれは最高ですねぇ」と満足そうにふやけた表情を浮かべながら、早速駄目になっている有栖川さん。


 そんな今の有栖川さんなら、きっとゆるキャラグランプリでも良い順位を取れるに違いないだろうというぐらい、ゆるキャラしていた。


 だから俺は、早速ゆるゆるなご様子で漫画を読む有栖川さんを横目に、俺は俺で暇だしいつも通りパソコンをいじる事にした。

 つまりは、有栖川さんが居ても俺がやっている事はいつもと何も変わらないのである。


 しかしそれでも、同じ部屋に有栖川さんが居てくれているだけで、不思議と気持ちが満たされている自分が居るのであった――。



きっとまた何かやってくれる気しかしない、土曜日の有栖川さんに乞うご期待!!

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― 新着の感想 ―
[一言] やってくれる……。 やらかしてくれる? 期待。
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