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第39話「似てる」

 人を駄目にするクッションに座りながら、漫画を読みながら早速駄目そうになっている有栖川さん。


 そんなゆるキャラも真っ青な程にユルユル具合な有栖川さんを眺めながら、俺はこの状況にどうしたものかと自分のスマホをいじりながら悩んでいた。


 普段ならば、ベッドで横になりながら適当に読みたい漫画を読み直したりするのだが、あの有栖川さんが一緒にいる場所でそこまで気を抜くのは何だか気まずいというか恥ずかしいというか、普段通りに振舞う事が出来ないでいる自分がいた。


 そして、特に会話の無いまま時間だけが過ぎてゆく。

 ちなみに有栖川さんにオススメした漫画なのだが、内容としては異世界転生した主人公がその世界で出会った銀髪の美少女とペアを組み冒険者となると、それから所謂異世界チートの力を駆使して無双する感じのお話だ。

 だが言い方は悪いが、特に目立った長所のある内容では正直無いのだが、それでもその漫画を選んだのには勿論理由がある。


 ――それは、出てくるヒロインのキャラが有栖川さんのイメージにピッタリだからだ


 銀髪の美少女で、オマケに実力もその世界基準では物凄く強いとされる優秀なヒロイン。

 しかし、普段はポンコツなところも多くて、そんな魅力あふれるヒロインが人気を集めている事で今結構売れている作品なのだ。


 そんな自分と似たキャラの登場する作品を読んで、有栖川さんが一体どんな反応を示すのか興味があった俺は、こうして読んで貰う事に成功したのである。

 その事が気になってしまっているのもあって、俺はどうにも落ち着かないでいたのであった。



「一色くん、この漫画に出てくる子ですけど……」


 そして有栖川さんは、漫画の半分程読んだところでついにその口を開く。

 漫画に出てくる子とは、十中八九そのヒロインの事だとみて間違いないだろう。


 ――自分に似てると思ったか、それとも気付かずに関係ない感想を言い出すか……


 そんなこれから言われる事をよそうしながら、俺は有栖川さんの言葉の続きを待った。




「……この子、大丈夫ですか?」




 だが、有栖川さんの口から発せられたその言葉は、俺の全く予想しない言葉であった。


 ――この子、大丈夫ですかって


 確かに有栖川さんの言う通り、ヒロインの子の普段のポンコツっぷりには大丈夫? と言いたくなるレベルだった。

 しかし、そこが有栖川さんに似てると思っていたため、その本人である有栖川さんの口からストレートに大丈夫かと言われた事に、俺は込み上げてくる笑いを堪えるので必死だった。



「まぁ、そこが可愛いポイントだと思うよ」

「そうなんですか、男の子はこういう子が可愛いって思うんですね」


 うん、全くもって有栖川さんそのものなんだけどね。

 だが無自覚な有栖川さんは、腑に落ちないような表情を浮かべながら首を傾げていた。



「私だったら、こういう子がいたら疲れちゃいそうですけど、難しいですね……」

「ははは、まぁそうかもしれないけどさ」

「違うんですか?」

「うん、上手く言えないけどさ、このヒロインの子はそういう部分も含めて可愛いんだよ。自分が傍に居てあげなくちゃって思えるっていうか」

「成る程――そういうものなんですね」


 俺が返事をすると、今度は何故か少しだけ不満そうな表情を浮かべる有栖川さん。

 そんな風にころころと変わる有栖川さんの表情に、俺の理解は当然追い付かない。



「……私もこういう子になれば、良いんでしょうかね……」


 そして更にはちょっと落ち込んだ様子で、そんな言葉を呟く有栖川さん。

 何故今ので落ち込むのか、やはり全然その理由が分からない俺は、とりあえずそんな事ないと慌ててフォローを入れる。



「いや、なんていうか、有栖川さんなら大丈夫だよ!」

「……大丈夫って?」

「まぁ、その……正直に言うとさ、その漫画のヒロインがちょっと有栖川さんに似てるなぁーって前から思ってたんだよね。だから、有栖川さんがそれを読んだらどう感じるんだろうって少し興味があったんだ。だから、有栖川さんが成れてるか成れてないかで言えば、もう成れてると俺は思うよ!」


 そんな俺のフォローの言葉に、てっきりいつもみたいに喜んでくれるかなぁと思っていたのだが、何故か目を丸くして驚く有栖川さん。


 そして――、





「……じゃあ私も、このヒロインの子みたいに、その――可愛いって事ですか?」





 漫画で口元を隠しながら、恥ずかしそうに確認してくる有栖川さん。

 そして俺はその言葉に、たった今自分がしでかしてしまった事の重大さを完全に理解した。


 何故か落ち込む有栖川さんをフォローしたつもりが、間接的に可愛いと伝えてしまったのだ――。


 だがもう、言ってしまった手前引く事は許されない。

 ここで否定をしたら、そうじゃないと否定する事になってしまう。


 だったらもう、俺がここでするべき回答は一つだけだった――。





「うん、その……可愛いと思うよ……」



 恥ずかしさで全身熱くなるのを感じながら、俺は素直に返事をした。

 そして、恐る恐る有栖川さんの様子を伺うと、そこには漫画で顔全体を覆っている有栖川さんの姿があった。


 しかし、漫画からはみ出して見える有栖川さんの耳は、真っ赤っかに染まってしまっているのであった――。




策士策に溺れる……

続きます!!

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[一言] イチャイチャ。 ……いいと思います。
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