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第38話「寄り道」

 無事解放された俺は、なんとか教室から離脱する事に成功した。

 それも全てイケメン過ぎる矢田のおかげだから、今度またお礼でもしておこうと思う。

 まぁ冷静に考えれば、アイツ自身俺を取り囲んでいたうちの一人ではあるんだけど……。


 こうして無事帰宅できた俺は、家の前の通りまでやってきた所でその足を止める。

 何故なら、家の前に何故か有栖川さんが一人立っていたからだ。



「え、有栖川さん?」

「あ! 一色くん!」


 俺が声をかけると、それに気付いた有栖川さんは安心したように満面の笑みを浮かべる。

 何か用事があるなら普通に連絡してくれればいいのに、家の前でどうしたというのだろうか。


 そして大きくこっちに向かって手を振る有栖川さんの姿は、控えめに言ってめちゃくちゃ可愛かった。



「ど、どうしたの?」

「え? だって昨日、帰りに寄ってってと言われたので」


 ああ、そう言えばそんな話したっけ。

 すっかり忘れていたというか、今日はぶっちゃけそれどころでは無かったのだ。


 しかし、漫画の続きが読める事がそんなに嬉しいのか、ワクワクとした様子の有栖川さんを見ていたら何だかどうでも良く思えて来てしまうのだから凄い。


 ――成る程、だから有栖川さんは帰り際あんな顔していたのか


 帰り際のあの表情の理由も無事に判明した事で、俺は思わず笑ってしまう。


 本当に有栖川さんは、良くも悪くもマイペースと言うか自由と言うか、俺はそんな有栖川さんをとりあえずそのまま家へと招き入れたのであった。



 ◇



「これです! これが読みたかったのですっ!」


 俺の部屋に入るなり、途中まで貸している漫画が並べられている棚へと向かい喜ぶ有栖川さん。

 どうやら、もうすっかり俺の本棚の並び順とかも把握してしまっているようだ。


 うちへ上がるのは今日で三回目だろうか? 招き入れる事への抵抗みたいなものはもう無いのだが、それでもこんな美少女が自分の部屋にいる光景というのは何度見ても慣れないのであった。


 まるで異世界からやってきたような、この世のものとは思えない美貌。

 そんな美少女が、嬉しそうに部屋の漫画を眺めているのだ、そんな光景慣れるはずも無かった。



「あ、そうだ有栖川さん。これも読んでみない?」


 そう言って俺は、一冊の漫画を取って渡す。

 ちなみにその漫画とは、所謂異世界転生系の漫画である。

 理由は本当にただの興味本位で、まるで異世界な有栖川さんに本当に異世界の漫画を読ませたらどういう反応するのか、少し気になってしまったのだ。



「え? 一色くんのオススメなら是非読んでみたいです!」

「うん、じゃあお試しに一巻だけでも持って帰ってよ」

「はい! ありがとうございます!」


 目の前で嬉しそうに微笑む有栖川さんの笑顔に、俺は恥ずかしくなってしまいつい目を逸らしてしまう。



「一色くん?」

「あ、ああ、いや、ごめん何でもない」


 こうして、今日も無事に漫画を貸すという要件が済んだため、俺は有栖川さんを玄関まで見送る事にした。

 しかし、そんな俺に対してさっきまで微笑んでいた有栖川さんは、少しだけ不満そうな顔をする。

 そんな風に様子が早変わりする有栖川さんだけど、この短時間で何故そうなるのか残念ながら俺には全く分からなかった。



「ど、どうかした?」

「むー、一色くんはその、そんなに早く私に帰って欲しいのですか?」

「え? いや、そういうわけじゃ……」

「今日は金曜日ですよ? わ、私だって、その……お友達と一緒に寄り道とかしたいんですよ……」


 恐る恐る確認すると、有栖川さんは恥ずかしそうに不満げにしている理由を教えてくれた。

 成る程、用が済んだからすぐに帰すのは確かに良くなかったかもしれない。

 そしてそれはつまり、有栖川さんはもう少しここでゆっくりしていきたいという事でいいんだよな……?



「有栖川さんがいいなら、まぁ……」

「えへへ、やった! 実は私、やりたい事があったんですよ」

「やりたい事?」

「はい、ここは漫画の天国とも言える場所です! そして、そこに置いてあるのは人を駄目にするクッション!」


 本棚とクッションを交互に指さす有栖川さん。

 そして、先程俺が渡した漫画を手にしながら「えいっ!」という掛け声と共に人を駄目にするクッションへ座った有栖川さん。



「わっ!? なんですかこれ!? 本当に駄目になってしまいそうです!!」


 そして初めて座ったのか、クッションに一人感動している有栖川さんの姿は普通に面白かった。

 この世のものとは思えない美貌を持つ一見クールな美少女が、駄目になってしまいそうと言いながら既に駄目になっているのだ。

 こんな面白過ぎるギャップ、中々見られるものでもないだろう。



「要するに、そのクッションに座って漫画を読んでみたかったと?」

「その通りです!」


 グーポーズをしながら謎の良い表情を向けてくる有栖川さんに、俺はやっぱり笑ってしまう。



「でも有栖川さん、さっき寄り道って言ったけどさ、もう橘さんとかとしてるでしょ? 今日は行かなかったの?」


 そして俺は、さっきの有栖川さんの言葉に気になっていた事を聞いてみた。

 寄り道なら、橘さん達ともう既にしているでしょと。



「それはそうなんですけど、今日は申し訳ないんですけどお断りしてきたんです」

「え? どうして?」

「だって今日は、一色くんに漫画をお借りするって決めてましたから。それに――」


 そう言って有栖川さんは読んでいた漫画から顔を上げると、こちらへ顔を向けて微笑む。

 そしてその表情は、恥ずかしいのか少しだけ赤く染まっていた。




「――それに私は、一色くんとも寄り道したかったんです」




 一体何を言われるのかと思えば、それは全く予想だにしていない言葉だった。

 そしてその言葉に、俺も有栖川さんと同じく顔を真っ赤に染めてしまったという事は、最早言うまでもないだろう――。

橘さんと遊んでいるからいいじゃないよね。


面白い!続きが気になる!と思って頂けましたら、良ければブクマや評価など頂けるととても励みになります!

(日間ギリギリです。。せめて日間には残りたいのでよろしくお願いします!)



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― 新着の感想 ―
[良い点] GYAAAAA!! 可愛すぎる!!!
[良い点] 作者様の書く小説のヒロインちゃんはみんな甘え方が可愛いですね! 絶妙なポンコツ具合も可愛いですw [気になる点]  無事解放された俺は、無事教室から離脱する事に成功した。 ↑ 【無事】が…
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