表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/64

第34話「ワンシーン」

 ざわつきだす教室内――。


 それもそのはず、たった今あの『難攻不落の美少女』と呼ばれるあの有栖川さんが、ニッコリと微笑みながら異性に向かって自ら挨拶をしてみせたのだ。


 そのまさかの光景に、周囲の人達が驚くのも無理はなかった。


 これまで近づいてくる人全てに付け入る隙など一切与えず、いつも無表情でクールに振舞っていた難攻不落の有栖川さん。

 そんな有栖川さんが、一体何を思ったのかいきなり百八十度違う振舞いをしている事に、クラスメイトのみならず俺や橘さん達までも驚いてしまう。


 そんな、まるで漫画の世界のような劇的な展開が、たった今リアルでも起きてしまっているのであった――。


 ――ん? 漫画? そういえば似たような……


 たまたま思い浮かんだ漫画というキーワードで、俺はとある漫画のワンシーンを思い出す。

 そしてそれと同時に、有栖川さんは鞄から一冊の本を取り出すと、それから俺にだけ見えるようにその本を机の下で広げて見せてきた。


 隣の席と言っても、書かれている文字までは小さすぎて流石によく分からない。

 けれどその本は俺が今貸している漫画で、その開かれたページに描かれているそのシーンこそ、俺が今さっき思い出したワンシーンなのであった――。


 こうしてそのシーンを見せてくるという事は、確実に有栖川さんはそのシーンを意識しているという事は間違いないだろう。


 ちなみにそのシーンとは、いつも寡黙で孤独な美少女ヒロイン女の子が、それまで自分によくしてくれていた隣の席の男の子に思い切って自分から声をかけるシーンだった。

 それこそ、今さっきの有栖川さんと同じように、それまで寡黙だったヒロインがたった一言男の子に挨拶をした事で、教室内が驚きに包まれてしまう見せ場のシーンだ。


 そんな、漫画の展開を現実でもやってみせた有栖川さんはというと、それはもう満足そうに微笑んでいた。


 ――いや、影響されるのはいいけど、これはやりすぎじゃ……


 本人は満足しているようだが、今の行為は完全にこれまで有栖川さんが築き上げてきたキャラというか壁を自ら壊す行為に他ならないだろう。

 だからこそ、いくらなんでも漫画に影響されたでは済まされないのではないかと思ったところで、俺はある事に気が付く――。


 ――いや、でも待てよ。冷静に考えて、有栖川さんは隣の席の俺にただ挨拶しただけだよな


 そう、別に有栖川さんは何か特別な事をしたわけでもなく、ただ挨拶をしただけなのだ。

 それってそんなに問題な事だろうか? いや、そんな事はないよな……。


 それでも、普段誰とも接して来なかった有栖川さんだからこその驚きではあるわけだけれど、それも橘さん達のおかげで徐々に変わってきているわけだし……いや、でも俺は異性だからまた意味も変わってくるのか……。


 ……駄目だ、考えてももう今の俺にはすぐに処理しきれない。

 とりあえず、周囲が驚いてしまっているのは事実であり、そして有栖川さんは自身で自身の在り方が変わってしまうかもしれない選択をしたという事は間違いないだろう。


 うん、そこまでは理解できた俺は、じゃあ次にこの場をどう処理したら良いのかを考える。


 ――とりあえず、挨拶をされたら挨拶を返さないとだよ、な


 そう思った俺は、我ながらぎこちない笑みを浮かべつつ、そんな有栖川さんに遅れながらも返事をする。



「――うん、おはよう有栖川さん」


 すると、俺の返事が返ってきた事が余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる有栖川さん。

 大変な状況だというのに、俺は思わずその笑みに見惚れてしまう――。


 そして――、





「うふふ、はい! 今日も一日頑張りましょうね!」




 本当に嬉しそうに微笑んだまま、有栖川さんはそんな言葉を返してくれたのであった。

 その光景は、やっぱりさっき見せてくれた漫画のワンシーンと酷似しているのだが、だからと言って有栖川さんがそれを模しているだけかというとそんな事はなく、それは本当に有栖川さん自身の自然で可憐な笑みなのであった――。



「有栖川さんおはよー!」

「なになに? 今日は随分ご機嫌な感じ?」

「笑うとやっぱ可愛いわーちくしょー」


 そして、そんな有栖川さんの元に橘さん達三人がやってくると、いつものように朝の挨拶をする。

 そのおかげで、教室内に生まれていた何とも言えない空気は次第に散っていっているのが分かった。


 それもきっと、橘さん達は分かっていてやってくれているのだろう。

 自ら一歩踏み出した有栖川さんの事を、こうしてさり気なくフォローしてくれているのだ。


 三人が俺に向かってウインクで合図を送ってくれた事で、それは確信に変わる。

 本当にこの三人は、見た目こそ派手だが俺がこれまで出会ってきた中でも一番信用できるというか頼りになるというか、凄く格好いいなって思う――。


 こうして、橘さん達が有栖川さんと他愛の無い会話をしてくれたおかげで、無事朝のホームルームをそのまま迎える事が出来たのであった。



キッカケは漫画。でも、選んだのは自分自身。

大胆な行動にも、そこにはきっと意味や理由があるのです。

続きます。



いつもありがとうございます。

頂ける感想や、それから評価やブクマ本当に励みになっております。

笑いあり可愛いありポンコツありのラブコメを書けているかな?と思っておりますが、皆さんに楽しんで頂けていれば幸いです。


そして、そんなこれからの有栖川さんを応援頂ける方は、良かったら評価やブクマ、それから感想など引き続きよろしくお願いします!


他の作家様の生み出す数多の素敵ヒロイン達に、うちの有栖川も負けてられないよなという一心です!笑


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ