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第33話「始動」

 有栖川さん曰くいつもの散歩コースを一周すると、また有栖川さんの家の前へと戻ってきた。

 時間にしてみて三十分と少しぐらいだろうか? これにて今日の散歩も終了である。



「それじゃ、また明日」

「はい! 今日は本当にありがとうございました!!」


 まぁここで立っていても仕方ないため、俺が帰ろうとすると有栖川さんはペコリと頭を下げてから小さく手を振って見送ってくれた。

 だから俺も、そんな有栖川さんとケンちゃんに向かって手を振り返す。


 こうして俺は、何だかあっという間だったなと思う反面、この散歩の中では色んな事があった事を思い出しながら家に向かって歩き出したのであった。



「あっ! 一色くん待ってください!」


 すると、帰ろうとする俺を慌てて呼び止めてくる有栖川さん。

 だから俺は、何だろうと思いながら立ち止まって後ろを振り返る。



「一つお話し忘れてました!」

「ん? 何かあった?」

「いえ、その、一色くんに言われた通りにですね、今日はこのあとすぐ眠ろうと思っています。なので、明日その……漫画の続き、借りに行ってもいいですか?」


 もじもじと恥ずかしそうに、そんなお願いをしてくる有栖川さん。

 一体何事かと思ったが、それはまさかの漫画を貸して欲しいという頼み事だった。


 あぁ、そう言えば漫画貸さない宣言してたっけと、言われて初めてその事を思い出した俺は思わず笑ってしまう。


 ――有栖川さん、そんなにもあの漫画の続きが読みたいんだね


 まぁそれは、漫画を貸している俺としては嬉しい事だった。

 散歩の中で有栖川さんの言っていた、好きな物を共有できるというのは勿論俺からしても嬉しい事だから。



「――うん、いいよ。じゃあ明日の学校終わりにでも、寄ってってくれたら」

「本当ですか!? やった!」

「ただし、今日は言った通りすぐ寝る事が条件だよ? 守れる?」

「勿論ですっ! イエッサー!」


 俺の言葉に、ビシッと敬礼しながら元気よく返事をする有栖川さん。

 有栖川さんってそんなキャラだっけ? と思わなくも無いが、もしかしたら漫画の中のキャラに影響されているのかもしれないな。


 まるで漫画の中から飛び出してきたような、あまりにも特別な容姿をした有栖川さん。

 だけど、そんな有栖川さんは今、読んでいる漫画のキャラに思いっきり影響されてしまっているようで、なんだかもう訳の分からない話になってるよなと少し笑えてきてしまう。


 ――まぁ、今ではこんな風に普通に有栖川さんと接している俺も、客観的に見れば十分おかしいか


 そんな、変わりに変わった状況に順応してきている自分もおかしくて笑えてくるのであった。


 とりあえず俺は、そんな嬉しそうな有栖川さんに俺も敬礼をお返ししておく事にした。



「じゃ、また明日」

「はい、また明日! お気をつけて!」

「うん、それじゃ」

「あっ! 家についたらちゃんと帰ったってメッセージ下さいねー!」

「あはは、分かったよ」


 ちょっとだけ過保護になりながらも、今度は両手をパタパタと一生懸命振って見送ってくれる有栖川さん。

 そんな、さっきより一生懸命だけど嬉しそうな有栖川さんの姿に、俺は謎の満足感を覚えつつ家に帰ったのであった。



 ◇



 そして次の日。


 俺はいつも通り登校すると、自分の席でスマホをいじって時間を潰す。

 ちなみに隣の席は、今日もまだ空席のままである。


 そして、今日も朝のホームルーム開始ギリギリの時間になって、有栖川さんが教室へと入ってきた。


 どうせまた寝坊でもしたのだろう。

 しかし、教室へ入ってきた有栖川さんはいつもの無表情でクールな雰囲気を放つ『難攻不落の美少女』だった。


 今日も周囲からの視線を集めつつ、遅刻スレスレに来たというのに涼しい顔で自席へとやってきた有栖川さんは、そのまま椅子を引いて着席する。


 その表情は、昨日とは大違いで疲れている様子も無く、どうやら寝不足でも無さそうなためちゃんと言った通り寝てきたんだなという事に俺は一人満足していた。


 ――宜しい、じゃあ漫画を貸してあげないとだな


 そんな事を思っていると、隣の席の有栖川さんは顔をこちらへと向けてきた。

 そして、そのまま顔だけでなくその身体もこちらへ向けたかと思うと、先程まで浮かべていた『難攻不落の美少女』の仮面を外し、ニッコリと満面の笑みで微笑みかけてくる。


 ――え? いやいや、ここ教室の中だけど!?


 当然俺は、教室の中だというのにそんな表情を浮かべる有栖川さんに、ただただ戸惑うしかなかった。


 しかし、有栖川さんは戸惑う俺の事を気にする素振りも見せず、嬉しそうに微笑みながらその口を開いた――、







「おはようございます、一色くん!」







 そして有栖川さんは、何を思ったのか満面の笑みを浮かべたまま、俺に対して普通に朝の挨拶をしてきたのであった――。





そして物語は、大きく動き出す――。


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― 新着の感想 ―
[一言] こっちも読破です!ちょうどここから、ですね!続き、楽しみにしています!
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