第29話「3の法則」
今日も全ての授業が終わった。
隣の席の有栖川さんは、ようやく一日乗り切ったという感じでいつもの無表情の中にも喜びが滲み出ているのであった。
そんなやりきった有栖川さんに、俺は心の中で拍手を送りつつ鞄を手にする。
そして、俺も今日は体育もあったしいつもより疲れているためさっさと帰る事にした。
しかし、帰るため立ち上がった俺に対して有栖川さんは、謎の引き留めるような視線を向けてくるのであった。
一体なんだと思っていると、有栖川さんは慌ててスマホを操作し出す。
そして、案の定それは俺へのメッセージだったようで、ポケットのスマホのバイブが鳴る。
『ちょっと待ってください!』
そして、目線だけでなく文字でも引き詰めてきた有栖川さん。
一体何だろうと思っていると、続けてメッセージが送られてくる。
『お願いがあります!』
お願い? 何だろう。
『漫画の続き貸してください!!』
あー、うん。ですよねー。
何となくそんな気はしていた俺は、すぐに返信を返す。
スマホをいじりながら有栖川さんの方へ視線を向けると、ワクワクキラキラと期待するような表情を向けて来ていた。
『今日は貸しません。しっかり寝て下さい』
でも残念。今日は漫画はお預けです。
流石に三日連続寝不足で、今日みたいに器用に居眠りをされては勉強に遅れてしまうのは最早当然だった。
そして、再び有栖川さんへ視線を向けてみたところ、それはもう絶望したような何とも言えない表情を浮かべる有栖川さんの姿があった。
しかし、俺のいう事に納得したのか、それから諦めたように項垂れるのであった。
「有栖川さーん! 一緒に帰ろうよー!」
そして、そんな落ち込む有栖川さんに、橘さん達が一緒に帰ろうと声をかけてきた。
うん、今日は友達と一緒に真っすぐ帰るんだよとエールを送りながら、俺は帰る事にした。
こうして、今日は引き留められる事なく帰宅した俺は、ベッドで横になりながら日課の漫画鑑賞を楽しむ事にした。
ちなみに今日は、この前有栖川さんに貸した漫画を読み返してみる事にした。
相変わらずヒロインの可愛さにニヤついてしまいつつも、どことなく有栖川さんに似ていると思える所も多々あり、そう思うと以前読んだ時とはまた違った楽しさがあった。
それから夢中になった俺は、漫画を最後まで読み続けた。
その頃にはすっかり外の日は落ちており、そろそろ晩御飯だなと思いながらスマホを手にする。
するとそこには、メッセージの通知が一件届いていた。
しかもそれは、昨日作った橘さんと有栖川さん三人のグループチャットで、画像ファイルだった。
――ん? 画像?
送り主は有栖川さんではなく橘さんで、一体なんだと思いながらその画像を開いてみる。
「え……」
そして俺は、その送られてきた画像を見て、思わずそんな声を漏らしてしまう。
何故なら――、
――橘さんと、有栖川さんの自撮り……だと……!?
そう、送られてきた画像とは、なんと橘さんと有栖川さんのツーショット写真だったのだ。
どうやらあのあと、また帰り道寄り道をしたのだろう。
有名チェーン店のコーヒー店で、楽しそうに過ごしている様子が写真に現れており、橘さんの隣で微笑む有栖川さんの表情に、俺は自然と笑みが零れて来てしまう。
何て言うか、こんな風に学校帰りに友達とカフェに行くっていう、女の子らしい(俺の思う)事をしている有栖川さんに、良かったねという気持ちがあふれ出て来てしまうのであった――。
――っていうかこれ、いいのか?
その上で俺は、その画像と睨めっこする。
何故なら、その画像にはうちのクラスの美女二人がしっかり写っているのである。
そんな貴重過ぎる画像が、今俺の手にするスマホの画面全体に映し出されているのだ。
――と、とりあえず保存しよう、かな
そう思った俺は、保存ボタンをそっとタップした。
この瞬間、この貴重な画像は俺の画像フォルダへと保存されたのである。
そんな達成感に、じわじわと喜びが込み上げてくる。
そして、それと同時に俺はさっき読んでいた漫画の内容を思い出す。
――今の漫画にも、似たようなシーンあったな
そう、その漫画でも主人公からヒロインへ特別な画像が送られてくるシーンが何度か出てくるのだが、その都度主人公はその画像を三回保存するというのがお決まりのパターンとなっている。
だから俺も、その主人公に倣って送られてきた画像を三回保存しておいた。
そして、画像を三回保存してみて俺は実感するのであった。
これは確かに、三回保存しなければならないなという事を――。
三回が気になった方は、詳しくは私の別作品のクラきょどをお読みくださいw