第28話「クラスの中心」
そんなこんなで、午前中の授業は全て終了し今日も昼休みの時間がやってきた。
隣の席の有栖川さんは、今日も自席で弁当を開けていた。
何て言うか、今ではもう有栖川さんが自席でご飯を食べる姿の方が普通に感じられるのだから、人間の順応力って凄いなって思う。
そして、そんな有栖川さんと一緒にお昼を食べるため、今日も橘さんが有栖川さんの前の空席へと座る。
そして今日は、それだけでは終わらなかった。
「やっほー! 有栖川さん! うちらも一緒にいい?」
「うちらも混ぜてよ!」
なんと有栖川さんの席に、橘さんがいつも一緒に居る三人組のもう二人、雨宮愛さんと近藤美来さんの二人もやってきたのであった。
雨宮さんは、茶髪のショートカットが似合う切れ長の目が印象的な小柄な色白美人。そして近藤さんは、黒のストレートロングヘアーに小麦色の肌をした綺麗系美人。
二人共見た目はギャルそのものであるが、橘さんに負けじと美人で、かつこのクラス――いや、なんならこの学校でも中心的な三人がたまたま同じクラスに集まっているのであった。
だが、そんな三人をもってしてもここでは普通に見えてしまう。
それ程までに、そんな美少女達が集まってこそ有栖川さんの特別さが際立って見えるのであった。
だがそれも仕方のない事だった。
一部では異世界からやってきたと噂される程の人類稀に見る美少女なのだ、そんな相手と比較する事自体が可哀そうってもんだ。
「え、えっと……はい……」
「やりぃ!」
「じゃああたしここ座るー」
そして、最初は驚いていたものの少し頬を赤らめながら頷く有栖川さんに、二人は大喜びしていた。
何て言うか、見た目の云々は一旦置いておくとして、やっぱり三人とも本当に良い人だよなって思う。
いや、もしかしたら俺の見えないところでは何かやっているのかもしれない。
でもそれは、みんなにだって等しく言える事であり、結論的にそんな事を気にしたところで不毛なだけなのだ。
だから、そんな「かもしれない」の話ではなく、今こうして現に有栖川さんに笑いかけている三人が、今この場においては全てなのだ。
そんな事を考えながら、俺はそんな光景に満足感を覚えつつ一人隣の席で自分の弁当を食べる事にした。
――これじゃもう、有栖川さんより俺が普通にボッチだよな
気が付けば完全に逆転している状況に、少し笑えて来てしまう。
別に俺は、このクラスの男子達とは普通に会話するし、何の不自由もなく普通にやらせて貰っている。
しかし、これは俺の性格としての話なのだが、こういうご飯とか個人行動が許される場面においてわざわざ誰かと集まって何かをするという欲求が無いだけなのだ。
それが嫌なわけでも、そういう行動を批判したいわけでもない。
ただ単に、俺は「別に飯ぐらい一人で食ったらよくね?」という考えを持っているというだけの話なのだ。
まぁそういう考え方をしてしまうのは、もしかしなくても特殊側に部類されるであろう事は自覚している。
でも、どちらかと言うと一人行動は好きだし、自由に行動する方が性に合っているのだから仕方が無い。
――おっと、そんな俺なんかの話はどうでもいいとして、隣の席からは楽しそうに談笑する声が聞こえてくる。
それは主に、橘さん達三人の楽しそうなお喋りが主なのだが、それに対して有栖川さんも普通に可笑しそうに笑って会話に参加している光景に、俺はまた何とも言えない充足感に満たされていくのであった。
我ながら、俺は有栖川さんの何目線だよって思ってしまうのだが、それでも嬉しいものは嬉しかった。
これまでずっと一人行動を続けていた有栖川さんが、こんな風にクラスメイト達と打ち解け合ってきているのだ。
それは、最初はひょんなキッカケではあったものの、こうして俺と交流するようになった事による成果とも言える今の状況に、俺は満足感のようなものを感じてしまっているのであった。
「ねぇ、一色くんもそう思うっしょ?」
「え、てかあたし、一色くんとは何気初絡みだわ」
「うちもー」
一人勝手に満足感に満たされながら弁当を食べていると、急に橘さん達に話しかけられてしまう。
しかし、お隣の話をちゃんと聞いていたわけでもない俺は、一体何の事を言っているのか分からない。
それに、そんな美少女三人にいきなりノールックで注目されてしまっている今の状況に、俺はどうしていいのか分からず困惑するしかなかった。
「何、聞いてなかった? だから、有栖川さんショートヘア―も似合いそうだよねって話なんだけど、どう思う?」
「ショ、ショートヘアー? う、うん、普通に似合うと思う……よ?」
「だよねー! 流石一色くん分かってるわー!」
「えー、あたしは今のロングの方が絶対似合ってると思うけどなぁ」
「あたしはどっちも可愛いと思うー」
急な質問の戸惑いつつも、俺は探り探りになりつつも率直に思ったまま返事をした。
ただ、答えたものの今のロングヘア―だってこの上なく綺麗だと思うから、正確には最後の近藤さんの意見に同意だった。
しかしどうやら、橘さんと雨宮さんはどっちのが似合うか謎の張り合いをしているようだった。
――楽しむのはいいけど、俺を変な話に巻き込まないでくれよ……
そんな事を思いながら、話の中心であるお隣の有栖川さんへと視線を向けてみる。
するとそこには、自分の髪をいじりながら少し恥ずかしそうに微笑む有栖川さんの姿があった。
そして、そんな俺の視線に気が付いた有栖川さんはというと、また更にその頬を赤らめると何故か下を俯いてしまうのであった。
照れる有栖川さん。