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第26話「バレー」

 卓球の順番が一回休みになった俺は、何となく女子バレーの方に目を向ける。

 すると丁度、女子達は二つのチームに分かれて試合をするところだった。


 ――そう言えば有栖川さんって、運動神経どうなんだっけ?


 そんな事をふと思ってしまった俺は、その試合の行方がちょっとだけ気になってしまう。

 そして、さっそく試合は橘さんのサーブから始まった。



「よーし! 行くよー! うりゃー!」


 橘さんから鋭いサーブが放たれる。

 そのままボールは相手のコート内へと飛んで行く。

 やはり橘さんは、その見た目や性格通り運動が得意なようだった。


 しかし、ボールが飛んで行った先にはバレー部の子が待ち構えており、そんな素人にしては立派過ぎたサーブは拾われてしまう。

 そして、繋がれたボールはそのままアタック――なんて、素人の寄せ集めチームでは出来るはずもないので、何とかボールをはじき返す感じでポーンと相手コートへはじき返される。


 そうして見事繋がれたボールは、高くふわふわと打ち上げられると有栖川さんの待つ場所目がけて飛んで行く。

 落下点で待つ有栖川さんは、いつものクールな表情を浮かべ物凄く集中しているようだった。


 そして、落ちてくるボールを拾うべく手を差し出した有栖川さんは、そのままレシーブを――――決めた!


 しかも、見事レシーブを成功させた有栖川さんは、それだけでは終わらなかった。

 そのまますぐにネットに向かって駆け出すと、それに合わせるように有栖川さんがレシーブしたボールをトスをする橘さん。


 そして、そのトスされたボールに合わせて高く飛び上がった有栖川さんは、なんとそのまま勢いよくボールを相手コートへ向かって叩きつけたのであった。


 バシンッ!


 凄い音がした。

 そして叩きつけられたボールは、奇しくも先程橘さんのサーブをレシーブしたバレー部の子の真横を通過したのであった。


 こうして、素人には無理だと思われたアタックだったが、橘さんと連携した有栖川さんにより決められたのであった。



「有栖川さん! 凄い!!」

「あ、あはは、たまたまですよ」


 そんなスーパープレーに、当然同じチームメンバーは一斉に大喜びする。



「たまたまで今の出来るわけないっしょ!」

「マジそれ!」

「有栖川さん運動神経良すぎ!?」


 驚いたチームメイト達に、そのまま囲まれる有栖川さん。

 そしてそれは相手チームにまで伝染し、結果クラスの女子全員から囲まれてしまっているのであった。


 そんな状況に、最初はただ戸惑っていた有栖川さんだったが、最終的には嬉しそうに微笑んでいた。

 これだけ手放しに皆から褒められているのだ、嬉しくないはずが無かった。


 正直、有栖川さんが実は運動神経抜群だという印象は無かった。

 というか、どちらかと言うと普段の感じを見ていると運動が苦手だとすら思っていた。


 だから、今のスーパープレイには俺も本当に驚かされてしまったのであった。

 同じ帰宅部だと言うのに、運動部顔負けに高く跳びあがった有栖川さんの姿は、母さんが天使と呼ぶのも頷けてしまう程本当に美しかった――。


 こうして、その後も有栖川さんと橘さんの活躍もあり、バレー部を擁する相手チームに見事勝利を収めたのであった。



 ◇



 体育が終わり、再び制服へ着替えると教室へ戻る。

 今日は良いもの見れたなと思いながら、俺は少し疲れた体に喝を入れながら次の授業の準備をしていた。


 そして、遅れて着替えを終えた女子達も教室へとやってきた。

 橘さんグループと一緒に教室へ入ってきた有栖川さんは、あれこれ話しかけられながらも楽しそうに微笑んでいた。


 その結果、そんな有栖川さんの微笑んでいる姿に、クラスの男子達は一瞬にして釘付けになってしまう。

 これまでずっと無表情でクールを貫き続けてきた有栖川さんの微笑む姿には、それ程までに周囲への影響力があるのであった。


 しかし、そんなクラスの男子達の事なんて気にする素振りも見せず、隣の席へとやってきた有栖川さん。

 先程の体育で汗をかいているせいだろうか、風に乗って有栖川さんから甘い香りが鼻を擽る。

 そして、汗で首元に張り付いた髪がなんともセクシーというか何と言うか……。


 ――こ、これが俗に言うフェロモンってやつか?


 ついそんな事を考えてしまう程、今の有栖川さんからは何だか普段以上の魅力が感じられるのであった――。


 そうして自分の席に着いた有栖川さんは、ふぅと一息つくとそっと自分のスマホを取り出す。

 そして何やらスマホをいじっていた有栖川さんは、それから横目でこっちを見ると一回ウインクをしてきた。


 そんな有栖川さんの仕草一つで、俺はまたドキドキさせられてしまう――。


 だから俺は、誤魔化すように慌てて自分のスマホを取り出した。

 すると、案の定スマホには有栖川さんからのメッセージが届いていたため、俺はそのメッセージを確認する。



『体育お疲れさまでした。その、卓球やってる一色くん、凄くかっこよかったですよ!』



 ――かっこよかったって……え?


 そのメッセージの内容に驚いた俺は、思わずスマホから顔を上げた。

 そして隣に座る送り主へと目を向けると、そこには少し頬を赤らめながらもふんわりと微笑んでいる有栖川さんの姿があった――。


 ブブブ――。


 そして、手に握ったスマホのバイブが鳴る。

 再びスマホへ視線を落とすと、それは有栖川さんから再びメッセージが送られてきた事を知らせる通知だった。



『だから、ここだけの話なんですけどね。私、普段の体育は手を抜いてきたと申しますか何と言うか、頑張ってはいなかったんです。でも、一生懸命卓球をする一色くんの姿を見ていたら、私も触発されてしまいまして! 今日は私も珍しく全力を出してみました!』



 そのメッセージには、先程の有栖川さんの真実が書かれていた。

 成る程、普段は手を抜いていたからこれまで有栖川さんに対して運動神経が良い印象は無かったのだと。

 それでも、俺の卓球の試合に触発された有栖川さんが全力で体育に挑んでみた結果、先程のスーパープレーに繋がったという事か――。


 成る程、どうやら天は二物も三物も与えるようだ――。


 その、この世のものとは思えない程の美しい容姿のみならず、運動神経まで抜群だった有栖川さん。


 そんな、最早ハイスペックなんて言葉すら陳腐に思えてくる有栖川さんの方を再び振り向くと、そこにはグッタリと机に突っ伏している有栖川さんの姿があった。


 ――そういえば、今日は寝不足だったね


 こうして、一生懸命体育に取り組んだ結果、まだ午前中だというのにすっかり瀕死状態になってしまっている有栖川さんの残念な姿を見ていたら、やっぱり天はちゃんと見ているのかもなと思えてくるのであった。



有栖川さん、結果は運動神経抜群でした。

だって、まるで異世界からやってきたような彼女ですもの。

その能力はこの世のそれは比べものにならない程――コホン!


そんな有栖川さんの今後も気になる!と思って頂けましたら、良ければ評価やブクマ、それから感想など頂けるととても嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 有栖川さん。まわりと関わりを持とうとするまでに成長したのですね。
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