八話 ヒロイン④
次の日、俺と冬馬はお互いに無言のまま登校していた。
俺が部屋で一発シコろうとした瞬間を目撃されて以来、気まずい空気のまま何もできずにいたのだ。
何を話せばいいんだ?
こんな展開、ゲームでも無かったし完全にイレギュラーな展開でどうするのが正解なのかわからん。
『今日はいい天気で体育日和だな』
いやなんだそれは、もっと別の話題があるだろ。
『今日も可愛い女子について語り合おうじゃないか!』
これこそ違えだろ!もっと気まずくなるわ!
そんな事を考えているうちに学園が見えてきてしまった。
「ワーハッハッハ!愚民共!本日は我々生徒会の、持ち物検査の日であるぞ!」
と、校門前で教皇神輿のようなものに座って、男共に担がれていた金髪幼女が高らかにそんな事を宣言していた。
……よりによってこのイベントかぁ。
「貴様ら!頭が高いぞ!」
「平伏せ!」
「よい、新入生はまだこの私を知らぬ」
「「「はっ!かしこまりました!」」」
金髪ツインテールの幼女は自分を担ぐ男共にそう言う。
相変わらずだなぁ。
その幼女は続けて傲慢な物言いで宣言した。
「皆の者、よぉーく聞けぇ!この私は貴様ら愚民を統括する桜樹学園生徒会長、神無葵様だあ!」
神無葵、サクラユメの攻略ヒロインの一人だ。
金髪ツインテールでロリ体型という、多くの人の性癖ぶっ刺さるであろう見た目に加え、傲慢でSっ気な態度、厨二病を疑うような性格をしている。
ああ見えて実は意外と甘えん坊な性格をしており、主人公との初エッチシーンでは「この私にここまでさせるんだぞ……」と弱々しく言うのが、めちゃくちゃギャップに萌えました。
ちなみに夢は世界征服だとか。
完全に厨二病です。
「……持ち物検査だとよ」
「う、そうだな……」
冬馬の反応が何やらおかしい。
その理由は当然だ。カバンの中には俺があげた実用的な本が入っているからだ。
普通、部屋に置いていくだろうと思うけど、家族にああいう系の本が見つかった事が若干トラウマになっており、自分で持ってたいとか何とかだというのだ。
この部分は変わりないようだな。
「むむっ!貴様、神聖なる桜樹学園にゲームを持ち込むとは何事だぁ!」
「ギャアア!」
神無葵はある男子生徒からゲーム機を取り上げると、どこからともなく鞭を取り出してその男子生徒を打った。
もう無茶苦茶だよ。
「貴様のような愚か者は、即刻退学にしてくれるぞ!」
「ヒイッ!お許しを!」
「この私に忠誠を誓うのなら、悪いようにはせんでやろう」
インパクトというか、クセの強すぎるキャラだよほんと。
しかも、こんなのが攻略ヒロインだという始末で訳がわからない。
「貴様も貴様も、貴様も校則違反だぁ!」
つーかお前こそ、その鞭や服装が校則に違反しまくってるだろうに。
神無葵は軍帽を被り、軍服のように改造された制服にマントを羽織っており、さらには鞭を腰に携帯するというスタイルだ。
しかもこれがデフォルトだという事が信じられない。
教師もこれで何も言わないんだからメチャクチャすぎる。
ここはゲームでお決まりのご都合主義というやつだろうが、程度ってものがあるだろ!と、プレイヤーが口を揃えていたのが懐かしい。
担いでる奴らも生徒会役員で、神無葵の下僕だ。
全員ドMなのである。
葵√では彼らとの一騎討ちをさせられ、全員を倒さないと仲を認めてくれないのである。
「おい、貴様ら。荷物を見せよ」
校門近くまで行くと、ついに神無葵の目に留まり荷物を見せるように命令された。
「ど、どうぞ……」
「……ふむ、つまらんな。通れ」
俺は別にやましいものは入れてないので、あっさりとお許しが出ました。
「貴様!生徒会長様の命令が聞けぬのか!」
「う……」
冬馬はカバンを抱えたまま、見せようとはしていなかった。
「おい、冬馬?」
「貴様ぁ!何か校則違反しているものを持ち込もうというのかぁ!?」
「い、いや別にやましいものは……」
入ってるんだろ。
「ならさっさと見せるが良い!」
「あ、あの生徒会長さん……」
「貴様!生徒会長様に向かって無礼だぞ!」
「よい、何だ愚民?つまらぬ用事なら叩っ斬るぞ?」
斬るってなんですか!?持ってるの鞭ですよね!?
「む、間違えた。叩くぞ?」
そういえば軍刀もお持ちでしたね、アナタ。
一番合戦沙耶と被るからマスターアップ直前に急遽変更されたんだっけな。
裏設定として日常生活の方で持ち歩いているとされたんだったな。
模擬刀とはいえ、銃刀法仕事しろ。
「あ、あのですね……」
その時、一台のリムジンが校門前に停車した。
すると運転席からスーツにサングラスという、いかにもSPのような男が降りてくると後ろの座席のドアを開けた。
中から思わず目を奪われるような麗しい女性が降りてきて、登校中の生徒達、俺も冬馬も思わず息を呑んだ。
そうそう、ここでこのキャラが登場するんだよなあ……って、それどころじゃないだろ。
「ご機嫌よう。皆さん、生徒会長さん?」
「む、薫か。さっさと邪魔な車を退けろ。登校の邪魔だ」
「はいはい」
すると神無葵が薫と呼んだ女性が指を鳴らすと、即座にリムジンは走り去って行った。
神無葵と同じ金髪で、ストレートヘアーにしている。
リムジンにSPのような人間が付いている事から金持ちという事が分かる。
そして何より美人であるという事だ。
この時点で彼女がどういう立ち位置のキャラであるのか理解できるだろう。
「初めまして、私の名前は秋瀬薫ですわ。新入生の皆さん、宜しくお願いしますわ」
秋瀬薫、サクラユメのヒロインの一人だ。
実家は秋瀬財閥というこの世界の日本のトップに立つ企業の一人娘で、肩書きからわかる通り金持ちなのである。
桜樹学園にも多額の寄付をしており、教師でさえ頭の上がらないキャラなのだ。
生徒会長の神無葵とは幼馴染で今みたいにリムジンを邪魔と一喝できる程に親しい間柄である。
両親は共に忙しく、実家が実家なために窮屈な生活を送っているらしく、薫√では家出した薫と共に神無葵の家に匿ってもらったりして、駆け落ちしようと追っ手から逃れていくのだ。
最終的にSPにとっ捕まって両親の元に差し出されるが、そこで薫の本心を聞いた両親にお付き合いの許しをもらうのだ。
ぬいぐるみが大好きで、部屋一面にぬいぐるみが置かれていたり、子供の頃に両親から誕生日プレゼントで貰ったウサギのぬいぐるみと毎晩寝ているとか。
二人で出かけた時にゲームセンターやカラオケといった庶民的な遊びをして、自分のいた世界がどれだけ退屈で狭かったのかを知って、主人公のことを好いていく。
SPの早乙女克也さん(35歳・独身)は子供の頃から彼女がどれだけ寂しい想いをしていたのか知っており、駆け落ち計画にも他のSPを誤魔化したりなどと主人公に協力的な姿勢を見せる。
今も多分、どこからか見て………
「…………」
忍者がよくやる隠れ身の術みたいにブロック塀の柄が書かれたポスターで体を隠していた。
横から見ると丸見えだろ。
「今日は持ち物検査でしたの」
「ああそうだ。お前はまあ、そういう事をしないのはわかってるから早く通れ」
「では、ご機嫌よう」
そう言って秋瀬薫は校門を通過して行った。
身内贔屓かよ。
「……それで、貴様はこの私に何の用だ?」
神無葵は改めて俺に睨みをきかせながらそう言ってきた。
「あ、あのですね……僕たちはその、まだ学園のルールを知らなかったと言いますか……」
俺は神無葵にそう言いながら、冬馬に後ろ手で「早く通れ」と合図をした。
あの本には俺の名前が書いてあるので、絶対にとばっちりが来る。
現にゲームでもそうだった。
クソォ!なんで名前なんて書いてんだよ影宮!!
自分のモノには名前を書きましょうとか言うけどよ、そんなもんにまで書いてんじゃねえ!!
「何だとぉ?知らないで押し通せるとでも思ったのか!」
ビシィ!と神無葵はアスファルトに向けて鞭打った。
ヒィイ!怖ええ!!
「無知蒙昧な愚か者には特別な調教が必要だな……貴様、所属と名を名乗れ」
これは、名乗るべきか……?
「貴様!生徒会長様の命令が聞けぬのか!」
「う……一年Bクラス、影宮直之……だ」
「ほう、影宮か。貴様の名はよぉく覚えておこう……」
その時下僕の一人が叫んだ。
「せ、生徒会長!あの眼鏡の生徒が!」
「何!?待て貴様ぁ!」
と、神無葵の注意が校門を走り抜けた冬馬に向いた。
今だ!
俺もその一瞬の隙を突いて校門を潜った。
「んなっ!?影宮!貴様ぁ!!」
後ろから怒号が聞こえて来るが、振り返らずに教室まで走った。
奴らはまだ仕事が残ってるから追ってくることはないと踏んだが、どうやらその通りだったな。
……名前を覚えられてしまった。これからどうしよう。
絶対、波乱になる予感しかしねえよ……
金髪幼女……良いですよね。