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三話 ツンプレ


『というか、誰よアンタ』


『俺か?俺は影宮直之!ただの変態紳士だ!』


桃色の髪の少女は呆れたように、ため息をつきながら冬馬を見る。


『ねえ冬馬、アンタこんなやつと友達になったの?』


『友達じゃない、コイツはーー」



ピピピピピ!


目覚まし時計の音が部屋に鳴り響く。それにより俺の意識が夢から現実へと引き戻される。


「ん、もう朝か……」


見知らぬ天井だな。と、一度言ってみたかった。


なんか夢を見てた気がするが忘れた。


そうか、昨日から俺は寮に移ったんだったな。それで今日から授業が始まり、サクラユメが本格的にスタートするのか。


この世界にトリップして今日で八日目か、ゲーム的に言うなら二日目かな。


それにしても、俺が影宮直之になってるこの現象は、転生なのか憑依なのか一体どっちなのだろう。


転生ならばまだいい、この体に俺自身の魂が入っただけなのだから。問題は憑依の方だ、もしそっちなら元の直之の意識はどこに行ったのか?そして元に戻る可能性だってあるだろう。


うーむ、まあ今ここで考えたところで答えが出るわけじゃないし、考えるだけ無駄だな。仮に戻ったとしても今度は俺の意識がどうなるのかなど色々とあるからな。


そんなことを考えながら俺は制服に着替え終わり、寝床を片付けた。


「さて、いつになったら起きんだよコイツは……」


未だに目を覚まさず、気持ちよさそうに寝息を立てている冬馬を見て呟く。


起こした方がいいのかな?


ルームメイトだし、ここで起こさなかったら遅刻した時に責められるだろうな。


せっかく仲良くなったのにそれだけは避けたい。


仕方ないな。


「おい、いい加減起きろ。冬馬!」


「ぐへへ……おっぱい……」


冬馬が寝言を呟く。どんな夢見てんだ!?


「起きろって!!」


「う、ふぁあ……」


ようやく冬馬の目が開いた。


「おう、おはよう同志よ」


「ん……誰だお前……」


寝ぼけ眼を擦りながら冬馬はサラッと酷いことを言ってきた。


「うぉい!昨夜散々語り合った盟友を忘れんなよ!」


「……ああ、直之か。わりぃ、見えなかったわ」


冬馬はメガネをかけながらそう言う。


びっくりしたわ。たった一晩で他人を忘れるくらい記憶力がないのかと思った。


思えばゲームでもこんな場面はあったな。


……いや、ここはたしか俺が冬馬を覚えてなくて「誰だお前」ってなる場面だったよな。


微妙にゲームと違う展開になったな。こればかりは俺の前世でのクセというか習慣だから仕方ない。


「早えな、直之」


「さっさと顔洗って支度して、飯食おうぜ」


「お前は俺よ母親かっつの、少し待ってくれ」


そう言って冬馬はノロノロと着替え始める。


見ていてなんかイライラするのは俺がせっかちなだけだろうか?


……ああ、冬馬は朝に弱いうえに毎朝誰かに起こされないと起きれないんだったな。


実家では母親に、この街に住んでいた頃は幼馴染に毎朝、起こされていたんだよな。


お約束すぎる展開でなんとも羨ましい話だ。


俺には今世どころか前世でもそんな子はいなかったのだから。


なるほど、こうして考えてみるとイラつく原因はこれもあるんだな。


って、何ゲームのキャラに嫉妬してんだよ俺は。


俺だってゲームキャラ(友人だけど)になってるくせに。


と、そんなことを考えているうちに冬馬は制服に着替え終えた。





「なんで食堂が開いてなかったんだ……」


「この期間準備中だったの忘れてたわ……」


「なんだよ、知ってたのか?」


ゲーム知識である。


寮の食堂は入学して一週間は従業員がいないため開かないのである。


その理由は従業員が事故に遭ったり、旅行に行ってたり、挙げ句の果てに忘れてたなど理由は各々異なるが、要は出勤日に来ないためである。


これだけ聞くとダメ人間の集まりに聞こえるだろうが、こういうのはゲームでよくある『無理のある設定』である。


くそう、まさかリアルに体験するとこんなにも腹立たしいのか、ちゃんと仕事しろ!


そんなわけで俺たちは早めに登校して途中にあるコンビニで飯を調達することにしたのだ。


「何飲む?」


「とりあえずチューハイでいいかな」


「おいっ!俺たちまだ未成年だろが!」


やべ、前世が成人済みだったためか、そのノリで頼んじまった。


「冗談だ。コーラで」


「ほらよ」


レジで自分のものを精算して外に出た。



「こんなところで何してるのよ!」


するとドアの前に桃色の髪をした少女が仁王立ちしていた。


あ、コイツは知ってるぞ。


「さ、桜!?」


木ノ下桜(きのしたさくら)』、冬馬の幼馴染にしてサクラユメのメインヒロインだ。


彼女はサクラユメの中でも屈指の人気キャラだ。


その特徴は桃色のツーサイドアップの髪型に気の強そうな印象、サイズは中くらいだが感度が他のヒロイン達より良い。つまりは敏感なのだ!


そして、何より最大の特徴は『ツンデレ』なのである!


事あるごとにこのように主人公と一緒にいようとし、ぞんざいな態度で接するとすぐにキレる(というか拗ねる?)


冬馬は小学校卒業と同時のこの街から引越してしまい、その間は連絡すら取れなかったために寂しかったから構って欲しいのだ。


他にも子供の頃にした約束とか、思い出エピソードなど他のヒロインよりも設定が盛り込まれている。


桜√では初エッチに至るまでこれらの事実が判明していき、最終的に上と下で大洪水が起こる。


ちなみに好物は桜餅。


そんなことを考えていると木ノ下桜の視線がこちらに向いた。


「というか、誰よアンタ」


アレ?このセリフ、つい最近どこかで聞いた気がする。


ゲームと同じセリフだけどそれとはまた別の既視感が……


とりあえず名乗っとくか。


「俺か?俺は影宮直之!ただの変態紳士だ!」


木ノ下桜は呆れたように、ため息をつきながら冬馬を見る。


「ねえ冬馬、アンタこんなやつと友達になったの?」


「友達じゃない、コイツは俺の同志だ!」


キリッとメガネを光らせながら冬馬は言う。


「…………」


ジト目で木ノ下桜は俺たちを眺めたあと、軽くため息をついた。


「はぁ……で、冬馬。こんなところで何してるのよ?」


「ああ、寮の食堂が開いてなかったから、朝飯をコンビニで済まそうかと思ってな」


「ふーーん、ちょうど良かったわ」


そう言って木ノ下桜は自分の鞄をゴソゴソと漁る。


「はいコレ」


「何だそれは?」


「お弁当。作りすぎちゃったから分けてあげるわよ」


羨ま死ね。これはアレだな。


「作りすぎちゃっただけだから!アンタのために作ったわけじゃないから!勘違いしないでよね!」


はいきました。お決まりのセリフ、ありがとうございます!


木ノ下桜のボイスを生で聞ける日が来るとは、声優ではなく本人の声で。


それにしてもテンプレ通りのツンデレだ。


略してツンプレと言うべきだな。


「ああ、それはわかったけど……何で桜がここにいるんだ?」


「そっ、それは……たまたまアンタたちがコンビニに入るのが見えて……」


実は冬馬と一緒に登校したくて後を追ってきた、と今内心思ってるだろう。


よく見れば顔も若干赤くなってるのがよくわかる。


「〜〜!もう、何でもいいでしょ!」


「な、何怒ってんだよ」


「怒ってない!」


照れ隠しである。


「それで、私に何か言うことあるんじゃないの?」


「は?昨日も言ってたけど何をだよ」


「だ、だから!アンタは久々にこの街に戻ってきたわけで……」


「そうだな」


「それで、久しぶりに会った幼馴染に、言うことは決まってるでしょ」


「うん?」


冬馬は分からないといった様子で首を傾げる。


「〜〜!もういいわよっ!」


木ノ下桜は顔を真っ赤にして、足早に去って行った。


「今の何だったんだ?」


「俺が聞きてえよ……」


冬馬がそう呟く。


いや分かれよ。久々に会えた幼馴染に「ただいま」の一言をまだ言ってないだろ。


昨日、寮の部屋に来るのが遅かったのは学園の外に出た時に木ノ下桜と邂逅して、このやりとりをやったんだろ。


「……何で言ってやらないんだよ?」


「直之には分かったのか?」


「あそこまで言われて分からないとか、鈍感すぎるぜ」


主人公はとてつもなく鈍感。これゲームあるあるね。


「はぁ、学園に着くまで考えとけ」


「な、なんだよ。教えてくれたっていいだろ」


ここでゲーム内の直之はヒントを言って、学園に着くまでの間、主人公は必死に考えるのだ。


それで考えついた答えが選択肢になってプレイヤーに選ばせるのだ。


・大きくなったな。

・可愛くなったな。

・エロくなったな。


どれを選んでも結局罵られながらご褒美(ビンタ)されるというのがオチなのだ。


「ダメだ。これは流石に自分で考えろ」


俺はあえて何もヒントを言わないで、冬馬自身に考えさせることにしてみた。


ゲームとは違う展開になりそうで、なんだか興味深い。


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