出発
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ガタガタとゆっくり揺れる馬車に揺られながら
「…隣人を救え。さすれば汝、神の試練を超えうる者となる……か。」
パラパラと今呼んでいる本の最後に書かれた文を読み上げて本を閉じる。
「あら?珍しいですわね。あなたが聖国の教典を読むなんて。」
隣で失礼な事を言う彼女は揺れながら体内で魔力を循環させる特訓中だ。
「…俺は博識でね。……少し左右のバランスが悪いぞ。揺れながらだからこそ制御はちゃんとできる様にしとけ。」
黄龍眼で彼女の体内で流れる魔力を確認して指摘する。
「それに…今から行く所の情報くらい知っておくべきだろ?」
俺たちが行く事となった元凶であるアスネに目を向ける。
「全く…なんで俺たちが…」
数日前の出来事を思い出す。
「父上から依頼が入った。」
授業が始まった時開口一番にアスネは告げる。
「それは個人的にか?」
誰も次の言葉を紡がないので俺が確認する。
「う~ん。個人と言えば個人だね。今回のは王族として公務になるからね。」
考える様に依頼内容に対して頭の中から情報を絞り出す。
「公務?まだ王太子候補だろ。公務なんて正式に受けられるのか?」
公務となれば、王太子となってからだろ。候補であるのに公務を務めてしまえば、他の候補にも影響を与える可能性がある。
「そうなんだけど…今回は僕だけじゃなく兄上達にも同様の依頼があったんだ。」
アスネは問われる内容がわかっていたのか、用意していた答えを返してくる。
「なるほど、じゃあ別に王太子候補争いの火種にはならないのか?」
「あはは…そもそも僕は王太子になるつもりはないよ。年功序列と言えば不公平に聞こえるけど、やはり長兄のマーティス兄さんが次期国王に相応しいと思うよ。…っと話が逸れたね。まぁ父上から依頼を受けたわけだけど、僕的には皆の判断を仰ぎたくてね。」
頬をかいて、家庭内の問題を語り、すぐに話題を逸らす。
「依頼の内容なんだけど、来月に開催される聖国の聖女生誕祭に王族代表として参列してほしい。って内容だ。」
「聖国?それに生誕祭に参列?それこそ王が行くべきだろ?」
聖国の聖女となれば、聖国の偶像として頂点だ。その生誕を祝うのであれば各国も代表、つまりは王が出向いた方があちらの顔が立つ者だ。
「そうなんだけどね…どうやら先日のティペンタ伯爵家の爵位格下げに伴う後処理に終われていてね。それがすまないと内政に響くらしくてね…。」
少しだけ俺を恨めしそうに見ながらアスネは王である父親がいけない理由を述べる。
「なんてこった。そんな事があったのか。大変だよな…ティペンタ伯爵家と言えば国の食を牛耳っていた所じゃないか!これじゃ国が食料問題に瀕してしまうじゃないか!?」
白々しく、大仰に驚いてみせると、アスネだけではなく他の5人からも変な視線を投げかけられる。
「……と、ともかく。内政関係でいけないことはわかった。けどなんでアスネに白羽の矢が立ったんだ?」
「…ごまかしたね…。まぁいいや。それについては偶然だよ。どうやら今代の聖女は僕たちと同い年だったからというのが一番の要因らしい。あっ、ちなみにマーティス兄さんとハワード兄さんは獣国の武闘大会に来賓として向かう予定だよ。」
案外くだらない要因だったなと思うと同時に武闘大会なんてあるのか。次は参加してみたいな。と思っていると気になったことがある。
「それで?なんで俺たちに依頼の事を話したんだ?アスネが数週間席を空けるということだろ。親父さんからの依頼なら仕方ないだろ?」
聞いてみれば、アスネは聖国に行く事が決定している。それを俺たちが止めることなんてできるはずもない。
アスネはその質問を待っていたかの様に、ニッっと笑いながら、
「実は……皆にもついて来て欲しくてね。」
「…さらっと言ってくれる。何故だ?」
流石に王の依頼に俺たちの様な平民が同行する理由は見当たらない。…ミルネは一応貴族だが、今は問題ありだ。
「そうだぜアスネ。俺っち達が行ったら逆に迷惑になんねぇか?」
ワイズ口を挟んでくる。
「まぁまぁ。理由は複数あってね。まず一つは彼女、つまり聖女様は僕たちと同い年だ。身分的な立場も兼ねて同年代の友人がいないらしい。せっかくの生誕祭だよ?話相手がいた方が良いじゃないのかなってこと。ちなみにワイズ…聖女様は美人だよ?」
「よし!行ってやろうじゃないか!」
すぐ丸め込まれたワイズ。レヴィの目が冷たくなっているぞ…
「……ふ、二つ目は一応王族だという理由で護衛が必要なんだ。だけど、父上と兄上達に護衛を割くと僕の方にはちょっと…ね。そこでハクトだ。」
悲しい事情を呟くアスネだが、俺を指差す。
「俺?」
「そうハクト。…父上には報告しているけど、依然のトリエの騒動を納めた中心人物だってことをね。恐らくハワード兄上もある程度情報を伝えている。だから君の実力を見込んでの事だよ。」
俺の知らない間にアスネ家内での株が上がっていたことに驚きを隠せないが、
「それなら…仕方ない。行ったことのない地域だし見聞を拡げに行こうかな」
アスネは俺の了承を得て、他の人にも確認を取る。全員が問題無いと言うことがわかると、フッと無表情になり
「あと、僕だけ遅れをとるのが悔しい。」
「……おい」
行くの考え直そうかな…
「まぁいいや。出発のタイミングは?」
行く事が決まったら後は準備だな。
「少し余裕を持って行動したいから、明日には出発かな?」
「随分と急だな。」
悪態をついたが、アスネも思っているらしく。
「父上はいつも準備従者に任せているから体一つで迎えばいいから、そこらへんの気配りができないんだよ」
親父さんの自由さを恨んでも仕方ないので
「はぁ…まぁいい。アスネはダイルに全員が空けることを伝えておいてくれ。ワイズはシエールさんに情報と弁当の依頼を頼む。ニーバスは食材の買い出しにワイズと付き合ってくれ。後は自由に明日の準備をしてくれ。」
パッと指示して各自が作業に移る。
急なこととなったが、始まりの8人は聖国行きが決定した。
事の顛末を思い出して、馬車の外を見る。風景は緑が多く、王都と聖国をつなぐ街道の途中らしい。
「後どのくらいで着きそう何だ?」
アスネに確認を取ると、地図と外の景色を見比べて
「そうだな…今はオワミ街道の終盤くらいだ。明日にはミオウ街道に入れるから2日くらいで聖国アヴァンに着くと思うよ。」
地図と景色で場所を特定できるなんて流石がだな~と関心していると、馬車の外から声がする。
「お~い。そろそろ見張り変わってくれよ~」
ワイズの声だ。それにあやかるようにディルも交代を促してくる。
「あぁそういえば次は俺か。」
次の担当だったことを思い出して、早速教典をしまい馬車の扉を開けてワイズとディルと入れ替わる。次の担当は俺とミルネなので、馬車から落ちない様に手を添える。
ミルネは少し顔を朱に染めて
「…この程度、必要ありませんわ。少し過保護ではなくて?」
そんなことを言っても添えた手を離す事なく見張りの場所へ着く。
「そうかな?お姫様には打倒だろ?」
後ろから「クソがぁ!」という声が聞こえた気がするが気のせいだ。
そうして、ミルネと歩きながら見張りを行う。
時々勉強がてら、魔法や近接戦の講義を行う。
そんな風にして歩いていると、ふと鼻につく臭いがかすかにした
(血の臭い…?街道にか?よっぽどのこと…それこそ盗賊とかじゃないと…)
そんな風に考えて黄龍眼で索敵をしようとした時
「っつ!?」
不意に誰かに見られている気がした。
俺の突然の行動に驚いたのか、ミルネは目をパチクリさせて
「…どうかしまして?何かありました?」
(気のせい?敵意はなかった。それより助けを懇願する様な…縋るような視線だった。)
敵意のない視線に怪しさ覚えたので、黄龍眼で魔力の流れを読む。
大小様々な魔力の流れを視認して、先程の魔力を追う。
かすかな魔力は街道から少し逸れた森の方へ続いており、魔力の元をたどるように「遠視」の魔法陣を発動させる。
「………見つけた!」
森の奥にそれはいた。
確認した感じでは少し危険な気がするので、すぐさま一応の護衛対象のであるアスネに声をかける。
「アスネ!お前の判断を仰ぎたい!」
アスネは呼ばれた事に気がつくと窓から顔をだし、
「どういう事だハクト?」
「あまりに時間をかけてしまうと手遅れになるかもしれない…」
俺はもったいぶらずにアスネに確認する
「どっちも許せないけど…
森の奥に盗賊がいる。狙われているのは…奴隷商人だ」
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