深淵の墓場 Ⅲ
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「クライスとメイラと随分打ち解けたようだな?」
眠気だましのハッカの様な香りのするハーブティーを持ってレジーナがやってきた。
「そう見えるか?」
ハーブティーを受け取り礼を言うと、ハーブティーを口にする。
香りが鼻に抜け目が覚める。
「私は彼らとは長いからな。二人の態度が軟化した事を見ればわかるよ。」
レジーナは笑いながら側に来る
俺は以前から気になったことがある
「そういえば、レジーナはどうして楽園を望むものにいるんだ。」
エルフ。特にレジーナの様なハイエルフは閉鎖的な種族だ。森の奥深くに村を作り、厳かな生活を好むと言われている。だがレジーナはそれとは真逆で泥臭い冒険者として活躍をしている。
レジーナは薄く笑い
「…私は異端なのかもしれん。」
可笑しなことを言っているとは思えなかったがそれでも
「異端?俺からしたら、パーティーのブレインで一番まともに見えるが?」
「そう言ってもらえるとありがたいな…。異端というのはハイエルフとしてだな。」
レジーナは腰を落とし、言葉を紡ぐ
「ハイエルフ。他の種族からすれば閉鎖的で厳かと言われている。確かに私の村も同じようなものだった。…私はそんな中の一握りだった。なぜ長寿を生かさない?知識を求む種族でありながら、知識を渇望しないのはなぜ?とな。周囲の目は冷めていたよ…。」
伏し目がちに昔を語るレジーナは絵になっていた。
「だからこそ、私は村を出たよ。外の世界を見た私は感動した。生活様式や種族、文化の違いを知った。……その中でもあまり良くない知識も知ったがな…。」
レジーナは俺に目を向ける
「君の様なハーフにとってはとても生きにくい時期もあったよ。王国の王は奮闘している様だが、まだまだな気がするがね。っと話が逸れたか、そうして私は冒険者として活躍していた。時には一人で時には臨時でパーティーを組んでね。そんな中ガイルにあった。」
寝ているガイルに目を向けるレジーナには懐かしんでいる様な気がする。
「私はそのときあまり活力が無くてね。なぜ村の者達が外界に出ないという理由がわかり始めていた。ハイエルフには長すぎるのだ。世界の流れと寿命が違いすぎる。最初は目新しい事もあったが、もう色あせていたよ。」
自虐気味に笑うレジーナは続ける
「ガイルは私に合うと「俺は世界の全てが見てみたい!ハイエルフの村に連れて行ってくれ!」とぬかしたよ。…その場ではガイルを叩きのめしたがね。…だけど、その言葉に心の奥底で感銘を受けていた。いつからだろうな…新しい事を自ら求めに行かなくなったのは?とな。それからもガイルは諦めなかった。それこそギルドでは風物詩になるくらいにね。」
過去の過ちも笑い飛ばすようにレジーナは笑う。
「…ガイルと意気投合するまでにはそんなにかからなかったよ。それからは本当に色々な場所を見て回った。途中でクライスとメイラと合流して、今の楽園が出来た。あいつはいつも語るんだ…。「楽園は必ずある。種族も地位も関係ない。隣のやつと肩を組み笑い合える場所がな。だから俺は世界を渡る。」なんてな。お前は笑うかい?種族差別がまだ根付いている。文化の軋轢も存在する。そんな世の中で肩を組める世界を見つけるなんて…。夢物語なのかもしれないな、だが私は見てみたい。だから私は皆と共に世界を見てまわる。もしかしたら彼らの寿命が尽きるまでに見つけることが出来ないかもしれない。そしたら私が跡を継ぐ。」
レジーナは顔をあげ空を見る。ダンジョンの天井は暗く何も見えないが、
「そしてあいつらの墓前で言ってやるのさ。「私が先に見つけたぞ」とな。だけど…出来れば彼らとみたい。そして肩を組んで笑うのさ。それまでは私は私の力を楽園のために使う。」
レジーナはすっきりしたのか、腰を浮かし
「だから私は異端なのさ」
この人達には死んで欲しくないな。種族の垣根を越える場所を探す。いち冒険者ごときがと一蹴されてしまうだろうが、それでも諦めない事は強さだ。
「楽園ね…見つけて欲しいな。そしたら俺にも教えてくれないか?」
レジーナは笑いながら
「はっはっはっ。教えてくれ?だと?他力本願はいけないな。ハクト自身が見つけるべきだ。…いや、君の様な存在なら、自ら作り上げるという方法もあるがな。」
おっかないことを言うな
「国を変えろと?俺にそんな力はないぞ?」
アスネならやってくれるだろうが、継承権低いしな…
「そういう手もあるということだ…。後は自分で考えるんだな。」
そういうとレジーナは語る事はなくなったのか、去って行く。
「にしても…手応えのある奴ばっかになってきたな…」
倒したゾンビオークから剣を抜きながら悪態をつく。ゾンビオークは煙を上げて消滅を始め、残ったのは魔石だけになっていた。
「確かににゃ…。幸いハクトの聖魔法の付加で後処理とかの問題が解決しているのが幸いだにゃ。」
短剣の調子と周囲の罠を確認しながら、メイラも同調している。
「あぁ…このダンジョンは高レベルな聖魔法の使い手がいないと攻略は難しそうだな。」
しかめっ面をしながら、クライスは腰を落とす。
「それにしても、ギルドにどう報告するかな…高レベルの聖魔法の使い手がいないと攻略は出来ないとなると、必然的にハクトに目が行く。あまり目立ちたくは無いんだろ?」
俺の心配をするレジーナ。もう攻略は必然だと捉えているようだ。
「目立ちたくは無いな。それにハーフが聖魔法なんて使ってたら、また差別思想の五月蠅い貴族にギャーギャー言われてたまったもんじゃない。それに、まだ攻略の途中だぞ?最後まで何が出てくるかわからないぞ?」
今度こそ貴族になんか言われたら、手を出しかねない。
「そうだぞレジーナ。出てくる魔物のレベルが上がってきているから、恐らくは30階層。つまり次のダンジョンボスで最後になると思うが、未攻略となると、A級…それこそハクトの言う通りS級に対面する可能性もあるんだぞ。」
場数を踏んできたガイルの勘なのか。そろそろ終わりが近いことを告げる。
「とりあえず28階層まで来たんだ。次のセイフティーエリアで休憩としよう。潜って1ヶ月と半分だ。焦らずにいこうぜ!」
ガイルは再度俺たちを鼓舞して進んでいく。
交代で休憩し夜の番をしていると
「よぉ!調子はどうだハクトぉ~」
陽気なテンションでガイルが話しかけてくる。
「そうだな…調子は問題ないな。初めてのダンジョンだけど、思ったよりだな。」
そう答えていると、ガイルは横に座り
「よりにもよってこんな特殊なダンジョンが初めてなんて変わってやがんな…。まぁそれだとしても、ハクトのおかげで攻略出来ていると言っても過言ではないけどな」
小さくありがとなとつぶやき火を見つめるガイルだったが、
「なぁ…ハクト…お前さぁ、臨時とかじゃなくて正規として楽園にはいんねぇか?」
とても魅力的な勧誘をしてくる。
「本気か?たかがDランクのガキだぞ」
楽園とは歳も離れていて、尚且つ学生だ。
「はっ!お前さんがただのガキなんて楽園の奴らは思っていないさ」
悪態をつきながら笑う。皆そんなそうに思っていたのか…
「魅力的だな…だけど……遠慮しておくかな」
やっぱりという顔をしながらガイルは訳を知りたいらしく
「理由を聞いても良いか?」
理由を聞かないとわからないもんな
「いいよ。……まず俺は学生だ。それにランクも違う。お前達の邪魔をしてしまう。……ってのは建前だな…。この臨時のパーティー…とても居心地も良くて楽しかった。けど、俺は…学院で待っている友と一緒に成長していきたい。」
確かにガイル達との旅は楽しい。全員技術もあり、動きも一流だ。阿吽の呼吸で彼らは動けている。だからこそ、俺の入る隙はない。
それに…アスネやワイズ、始まりの八人で過ごす今の生活が楽しいんだ。
「これじゃ駄目か?」
ガイルは笑いながら
「駄目なわけねぇだろ。…やっぱり駄目だったか。まぁダメ元で聞いただけだからな。」
「そうか…それって楽園を見つけるためか?」
レジーナが教えてくれた事をこの際聞いてみよう。
「あぁ?…あぁなるほど、レジーナから聞いたか。…俺はさぁ…孤児院育ちなのさ。」
唐突に話の内容が変わったが、これが恐らく楽園に繋がるのだろう。
「そこには種族なんて関係ないたくさんのガキがいた。戦争・魔物・強盗なんて理由は様々だ。あいつらとの生活は大変だったぜ。いつもケンカばかりで、シスターに拳骨貰ってたぜ。なぁ知っているか?飢えに種族は関係ないんだ。旨い飯を食うときの感動に種族はないんだ。あいつらとバカやっている時の楽しさに種族はないんだ。それが当たり前だと思っていた。」
少し寂しそうに
「だからこそ、冒険者になって外の世界を知った時、驚きの連続だったぜ。同じ飯なのに美味しくねぇとか言いやがるし、種族間には軋轢もある。…貴族との交流もあったが、まぁ…色々驚かされたよ。」
俺を見て苦笑いをする。恐らく貴族は種族差別が強かったのだろう。
「だから俺は目指すんだ。誰も差別しないしされない、隣同士肩を組む。奪うのではなく分け合える。そんな場所をな。お前も加わればもっとたくさんの場所を見れたかもしれねぇな」
後ろに倒れ込み天井を見上げる
「良い夢だよな…。俺も見てみたいな」
貴族や種族のやっかみを取り除けばきっと、別の軋轢が出来てしまうかもしれない。
それでもガイルの見る夢は眩しい。つぶやきを聞くとガイルは笑って
「だろ?そういえばハクトの夢はあるのか?」
自分だけ夢を語るのは不本意だと思ったのか、そんな事を聞いてくる。
俺の夢か…前世の事もあり、志は低いんだよな~
「俺の夢?ありふれた物だな。普通に家庭を持って、子供を育てて、家族に囲まれて老いて死ぬ。それだけだ。英雄とか頂点にとか目指す気はない。」
ガイルと比べると小さな夢だろうけど、ガイルは真剣に聞いていてくれた。
「…笑わないのか?ガイルと比べるとちっぽけな夢だけど。」
ガイルはため息をついて
「はぁ…。良いか?他人の夢は笑うものなんかじゃねぇ。夢に大小なんてないんだぞ。夢を語る奴を笑うんじゃなく応援するべきだ。」
ガイルは立ち上がり振り向くと
「夢を笑って良いのは、その夢を叶えた時だ。」
…ガイルがどうして人を引きつけるのかわかった気がするよ…。
「それにハクトはもしかしたらその普通の夢が難しいのかもしれないな。」
最後にちゃんと落としてくるあたり、ガイルだな。
「俺がモテないってか?」
………多分。
「ぷはぁっ!ははっ!そうじゃねぇよ。モテるか知らないけど、お前はなんとなくだけど、色々なしがらみに捕らわれそうだなって思ってな。」
ガイルはそのまま歩いて行き
「…後もう少しだ。一緒に切り抜けようぜ」
そう言うと、あぁ~見張りを再開しますか~っと言って歩いていった。
(もう少しだ…)
最後まで気を抜かないように心に刻んで、俺も見張りに戻る。
感想等いただけたら幸いです