個人戦決勝
閲覧ありがとうございます。
少し長めです
舞台上には既にミューネが佇んでいた。
「長かったですわ…試験の日から私はあなたが許せない…。血の滲む努力を踏みにじられたような思い。ですが、それも今日で終わる。あれからあなたを超えるために、さらなる努力を加えました。父上に剣の技術を教わり、教授や先輩方に魔法を教わり、ここまで来ましたわ!後はあなたを超えるだけ!さぁわたくしの技の前に屈しなさい!!」
高らかに俺に宣戦布告をして、細剣を構えるミューネ
「他人の努力を踏みにじるわけないだろ…。お前の努力より俺の努力の方が実を結んだだけだ」
(まぁ前世があるから何とも言えないが、目を突き刺されるのはそうそうないだろ)
「だからこそ、お前の努力を評価しよう。それでも勝つのは俺だ。」
ガントレットを構える
「それでは、個人戦決勝始め!!」
審判から最後の幕開けが告げられる。
ミューネは手始めに
「まずはこちらよ。フリーズランス!」
試験の日に披露した魔法を発動する。うん。前見たときよりちゃんと向上しているな。
「ほいっと」
フリーズランスを片手で砕く
「まだまだ!アイシクルスパイク!」
地を這うような氷の棘が襲う。
「はいはい」
再び襲ってくる氷の棘を先ほどとは逆の手で砕く
「これなら!アイスローズ!!」
俺の足元から氷の茨がまとわりつく。
「こんなのも憶えたのか。」
関心しながら、魔法陣で炎を纏って溶かし砕く。
「隙だらけでしてよ!」
茨を砕いた隙にミューネが接近し刺突を繰り出す。
「声を出すのは愚策だな」
刺突に対して指で挟みこむ。さてお返しかな
「防げよ。」
魔法陣で水球を作り出し飛ばす。
「見くびらないでくださいまして!フリーズ」
水球を凍らして回避する。
「まだまだ行きますわ!」
魔法では弾かれると判断したのか、近接に切り替える。細剣を自由自在に操り繰り出してくる。右に左。様々な角度から突きを繰り出す。
すべての刺突を指で弾く。
「いいね~かなり上達しているんじゃないか?師が良かったのかな?」
剣の腕前を褒めていると
「余裕ですわね!まだまだ行きますわよ!身体強化!」
先ほどより早くなった剣劇を披露する。
「わ~早いな(棒)」
(速度はワイズに劣るな…)
繰り出される攻撃を再び弾き続ける。反撃だ。
「ほいっと」
魔法陣で土を隆起させる。
「っつ!」
隆起した土をかわすがそう簡単に終わることはなく。
「ほれよ」
土や水、樹など多種にわたって魔法と繰り出す。
「くっ!」
耐えきれず後退し距離を取る。
ミューネは焦っていた
(ことごとく対応されてしまいますわ…)
(魔法に剣。これまでの相手には通じたというのに…)
思考しながら細剣を握り直す
(身体強化も使ったというのに焦りも感じられませんわ!!)
相手の余裕さに考えが後ろ向きになる
(まさか勝てないの…?いや!まだ試してきていないことがある!それに学院のみんながわたくしに期待している…)
再び闘志を燃やす。
(今の速さに追いつかれるのなら今より速く!今の魔法が防がれるのなら今より強く!わたくしは負けません!)
勝利をつかむため、周りの期待に応えるため剣を振るう。
その頃ハクトは
(…う~ん…飽きた。)
ミューネが距離を取ったのでその間に考える
(剣の腕、魔法は確かに高水準。だけどアスネより剣術は劣るし、ワイズより遅い。魔法はレヴィの方が強いな。)
適当に魔方陣を作って次の攻撃の準備をする。
(第1学院もこの程度なのか…こりゃ入らなくてよかった。)
第1学院の応援席を眺めていると
「戦い中によそ見なんて油断ですわよ!」
よそ見をしているとミューネが先程より速い速度で攻撃してくる
それをあしらいながら、魔方陣で追撃をする
「…それで?」
魔法を避けた後、しびれを切らしたのか
「くっ!い…いい加減にしてくださいまし!!何ですのその態度わ!試合中によそ見をしたり、あの入学試験の時に見せた高等魔法を使わないし、反撃してこない。わたくしを見くびっていますの!?」
飽きて適当にあしらっていたのがバレてしまった。
「あ~う~…はぁ…仕方が無いだろ。ミューネの攻撃は俺には通用しない。わかるだろ?
君のこれまでの努力や頑張りは評価する。それでも上がいたってことだよ。」
正直に告げると、癪に障ったのかプルプルしながらミューネは
「……いいですわ。これは使いたくありませんでしたが…わたくしの本当の全力ですわ」
細剣を胸に当てて詠唱に入る。
「…咎人を封ずる慈悲深き女神の棺よ…我を仇なす者に氷結の抱擁を…」
詠唱の余剰魔力がミューネから溢れだし、ミューネの身体を凍らせる。
「咎人に求めるは永久なる抱擁 我には…くつ救世たる救済を…」
かなり無理をしているのか、詠唱にどもりが入る。
「わ…わたくしは勝たなければ…父上が託した期待。学院の皆様の期待。あなたとは背負う物が違う!」
詠唱も終わったが、十分な魔力が足りないのか更に魔力を錬る。
「これがわたくしの全力です!!」
それは偶然だった。
四大魔法ではない氷や雷は魔力の調整が他より難しいこと。
ミューネの心が周囲の重圧に押され不安定だったこと。
全力を振り絞るために余剰に魔力を込めてしまったこと。
まだ習得しきれていない上級魔法であったこと。
「くらいなさいハクト!!ゲフリーレンコ…フィっつ!?あぁっ!!」
子供の頃に魔法を使える子は一度はやっただろうか。発動する魔法に対し、適切な魔力を込められなかったことによる魔法の暴発。
「くそっ!!」
どうしてだろう?敵なのに。勝手に暴発して決着がつく。それだけだろう。確かに上級魔法の暴発となると術者はかなり危険だ。だが、ここは回復魔法の使い手も待機しているので問題ない。
だったとしても。俺の足は自然と動いていた。
(間に合えっ!)
身体強化を付加してミューネの元にたどり着く。
(魔力の分散をしなきゃいけないな…他人の魔力を使うのは難しいのに…仕方ない)
糸繰術で糸3本ずつだして大型魔方陣を作る。
「無茶しやがって…」
今にも倒れそうなミューネを抱きかかえて、残りの魔方陣を完成させる。
「よし。…コキュートス」
俺は超級魔法を発動させる。
ミューネと俺の周りから会場がみるみる凍っていく。
氷は波紋の様に広がっていき場外まで凍り、一面白銀となった。
「ハ…ハクト…?」
魔力の枯渇もあってか虚ろな目で見てくる。
「無事か?全く…まぁ最後まで見ていろ」
「?」
素直にしたがうミューネ
「寒くて適わんな…グラビティ」
強力な重力場を発生させて会場の氷を砕く
「舞え。ガスティワルツ」
砕けた氷を風で操作する。集めた氷を上空に飛ばし、花火が散るように開放する。
「…綺麗…」
ぼそっと抱きかかえられたままミューネが呟く
「だろ?…でどうする?まだやるか?」
本来の目的である試合について確認する。
思い出したかのように俺との距離を取るミューネ。
再度握っている細剣を構えるがふらついてしまい、細剣を落としてしまう」
「…っつ!はぁ…認めますわ…わたくしの負けです」
ミューネが降参の意を示す。
「勝負あり!勝者ハクト選手!」
審判から決着の合図が告げられる。
観客席からは賞賛の声が
浴びせられなかった。
~~~~side ミューネ~~~~
負けてしまいましたわ…通用しなかった。あんなに練習した上級魔法もまさか暴発するなんて…それに暴発から守られてしまいました。敵だというのに。
それに…意外とたくまし…って違いますわ。
まずは健闘をたたえなければいけませんわね…。
立ち上がり、ハクトに近づき手を差し伸べる
「ハクト。素晴らし「期待させやがって…」…え」
おかしな声が聞こえた方を見る。第1学院の観客席は静まりかえっていた。
その声はポツポツを聞こえてきた。
「劣等種に負けるなんて…」「氷結の戦乙女?氷魔法で劣っていたじゃないか…」
「俺にやらせろ。あんな劣等種軽くひねり潰してやる」「あれで代表?全く刃が立たなかったじゃない」「期待させんなよ」
冷たい言葉、冷たい視線が突き刺さる。
聞こえてくるのは賞賛とはかけ離れた声だった。
「あっ…あの」
上手く声が出てこない
(何で?どうして?わたくしは頑張ったではありませんか?)
考えは出来るが言葉にならない。
(わたくしは皆の期待に応えるべく、血の滲む様な努力をしましたわ!)
剣術では父上に頼み刃の潰した剣では駄目だと思い、真剣で訓練をした。
魔法は魔力が枯渇するまで、幾度も練習してきた。
皆の期待に応えるべく、皆が望むミューネであるようにと…。
(イヤっ!怖い…そのような目で見ないで!そのような声を浴びせないで!)
視線から、声から逃げるようにミューネは目を背け耳を塞ぐ。
(誰か…誰か…たすけてよ……)
~~~~side ケイト~~~~
(なんだこの状況は…)
第1学院の応援席でミューネ様と我が好敵手のハクトとの決勝を見ていた。
はっきり言えば圧倒的だ。
ハクトがミューネ様で遊んでいる。この表現につきるだろう。
そうか…そんなも君まで遠いのか…
改めて実力の違いを実感する。
魔法の質、近接の腕前。どれもをとっても差がある。
だからこそ!君が上り詰められたのならば僕にも出来る。明日から改めて特訓だな。
そう決意したころに、決着の声が響く。
(悔しい…だが健闘をたたえ双方に拍手をしなければな…)
立ち上がり拍手をしようとした矢先
「期待させやがって…」
(…誰だ!?)
周りを見ても誰が発したかわからなかったが、小さな声は少しずつ勢いを増す。
(何故ミューネ様を揶揄するのだ。我々が代表として送り出したのではないか!)
自身も過去にした過ちを振り返る
(それに…劣等種だと?あれは王が定めて開放したはず。確かに過去に僕自身も過ちを犯したが…)
…………
以前ハクトを劣等種と呼んだ日の夜を思い出す。私は父上に呼び出された。
『来たかケイト。試験の首尾はどうだ?』
『はい!私自身の全力を発揮することが出来ました!』
父上の問いに返すと父上は笑いながら。
『ふっそうか…ところでケイト。今日はライカン殿に会われたのか?」
父上は唐突に話題を変える。
『ライカン様ですか?』
ライカン様はこの国の国王だ
『…はい。会場でお会いしました』
父上はため息をつき頭をかきながら
『はぁ…会ったか…全くあいつも小言を俺に言うなよ…』
小言で砕けた言葉を呟く父上
『父上?』
はっとした表情で
『!?あぁ…ああすまない独り言だ。…なぁケイト。貴族とはなんだと思う?』
急な質問に悩ませるが
『貴族ですか?…そうですね…国王の下で国を民を動かすために指揮する者でしょうか。』
私なりの答えだ。奴隷という制度は無くなったが、それでも階級は存在する。
貴族は民より上に立つ者だ。だからこそ民は貴族のためにあると考える。
父上は僕の回答を聞いて深く考える。
『……それも一つの答えだな。これは私の持論だ。お前がこれを聞いてどう思うかは任せる。
貴族は国民の意見をまとめる者だ。そして王を正しき道へ導く者だと考えている。例えば王が決めたことが絶対か?答えは否だ。それが明らかに道を踏み外したものなら、我々貴族が不穏に思う。それは民に伝わり最終的には国が傾く。ならばそれを回避するためには貴族である我々が踏み外した先に道を作るのではなく、踏み外さぬ様に支えるべきだ。そして正しき道とは民を思い民に思われる必要がある。民をないがしろにするな。貴族が民の意見を纏めるのだ。民の上に立つ者だからといって傲慢であるべきではない。』
父上はそう語ると机の上にあるゴリンに手をかける。
『時にケイト。腹は空いておらぬか?」
『腹ですか?夕食はいただきましたので、空いていませんが…』
『そうか…。これはな先日地方に出向いた際に感謝の印として村の民からもらった物だ。
そこは魔物の被害に脅かされていてな…だけど村はこの特産品で生計を立てていた。それが被害に遭ったので資金がなく、ギルドにも依頼出来ずにいた。』
『それが父上にどのように関係するのでしょうか?』
父上の意図がわからない
『私はこの状況が許せなくてな…。ここの特産品であるゴリンは好物でな…。だからこそ私は身一つで王宮に行ったよ。』
父上の行動に驚きを隠せなかった。
『そ…それごときで王宮に?不敬にあたるのではないのでしょうか?』
恐る恐る聞くと父上は驚きながら
『不敬?そんな訳なかろう。確かにどこかの貴族がうるさかったが、先程言った様に、貴族は民の意見を纏める者。だから困窮に立たされた民のために動くことのどこが不敬あたるというのだ。』
『書類仕事をしているライカン殿に言ってやったよ「お前も好きなゴリンの名産地が魔物に脅かされている。兵を連れて一緒に行くぞ!」とな。』
父上は笑っているが、僕は血の気が引く思いだ。爵位が男爵だというのに、国王の仕事に横入し、お前などと呼ぶなど…恐れ多い
『ライカン殿はすぐさま剣を取り、兵を連れて私と向かったよ。確か「なんだと!?友とゴリンのためだ!こうしちゃおれん!」と言ったかな?まだ私を友と呼んでくれるとはね…』
感慨深そうに、呟く父上。
『…っと、話がそれたな。まぁ経緯はともかく。貴族は確かに民の上に立っているが、民が崩れれば貴族は崩れる。そうすれば国も王も一緒に崩れてしまうと思うのだよ。だから、貴族を誇ることはいいが、民がいてこその貴族であることを忘れるのでないぞ。民から奪うな。それでは満たされない。分け合え。そうすれば余るのだよ。
…おかげ様で今年はゴリンが余りそうだな…妻と一緒にパイでも作るかな?』
父上は語る。父上としての貴族のあり方を
父上はゴリンを2つ手にして
『とにかく、ケイト。ゴリンをやろう。今年のゴリンは上手いぞ。』
そう言ってゴリンを渡されるがもうお腹はいっぱいだ…
『あ…ありがとうございます…』
ゴリンを手に部屋を後にする。それにしてもこのゴリンどうしようかな?
悩んでいると、近くをメイドが通り過ぎる。そうだ!父上には悪いが、僕は1つで十分なんだ。
『おい。』
メイドは呼びかけられたことに驚くがすぐに姿勢を正し
『何でしょうかケイト様』
『手を出してくれ』
メイドに指示するが、意図が読めないのか、不思議に思いながら手を差し出してくる
『これをやろう。多くもらってしまってな。』
ゴリンを手渡すと、メイドは驚きながら
『あ…ありがとうございます。』
感謝?申し訳無いが言ってしまえばいらない物を渡したに過ぎない
『何故感謝されるのだ?』
メイドは考えながら、一度頭を下げる。
『不躾であることをお許しください。私はこのゴリンが好物です。極端に言ってしまいますが、ケイト様が持っておられるゴリン欲しさにケイト様から奪ってしまえば、一時は満たされますが、でてくる言葉は「ごめんなさい」だと思います。ですが、分け与えてくだされば先程と同じ「ありがとうございます」になります。』
『?…まぁいい。好物ならば他のメイドに食べられないようにしろよ。』
メイドの言っていることがあまり理解出来なかった。
……………
「どうされましたかケイト様?」
ゴリンをあげたメイドが様子をうかがってくる。ゴリンをあげた後、何故か僕の専属メイドとなっていた。
「あぁ…貴族とは何なんだろうな?と思ってな…。」
この空気が嫌いだ。劣等種?はっきり言ってしまえばハクトはハーフエルフだが、劣るところなどない。それどころか魔法や近接戦闘術を見ればどう見ても別格だ。ミューネ様は強い。ただ、ハクトの方が強かったというだけだ。何故種族でみる?個人で判断することはしないのか?
何故そんな簡単な甘い道を選ぶ?貴族とは厳しい道を率先して進み民の手本になるのではないのか?
他人を蔑み、少数を切り捨てる。貴族とは…他人を見下す者なのか?
それこそ…劣等種ではないか…
僕は立ち上がり、第1学院の生徒に向けて
「おい!おま「ふざけてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
感想等いただけると幸いです。