英雄の結末
初めまして!
初投稿になります。至らないところがあるかと思いますが気軽に読んでいただけると幸いです。
本職があり、更新は不定期になりますが頑張ってまいります。
「老いには勝てないか…」
あぁ久しぶりに声を出した…。思えばいつからだろう?私が声を出すことを辞めたのは。
「最後に声を出したのは、君の墓に花を届けに行ったときかな?」
窓の外を見つめ、遠く離れた君を思う。
会話なんてものは記憶に無いくらい前だ。
「当然だな…。人のいる場所にはもう何十年も言っていないのだから…」
久方ぶりの私の声は部屋に響いているが、返事は無い。
あるとすれば、梅雨特有のシトシトと降り続ける雨音くらいだ。
窓の外では天の恵みを浴びる、野菜達が立ち並ぶ。
「もう収穫する必要はないな…」
無人島に流れ着き長い年月が経っていた。
人のいる世界に絶望し、失望した。渇望した時もあったが、無謀に終わると思い諦めた。
だけどそんな考えも杞憂に終わる
私の限界は私が一番わかる。私は終わりを待つのみだ。
「以前に殺されかけたとき時と同じ感覚だ」
あのときは毒だったかな。手足の感覚が少なくなり、少しずつ体の自由が効かなくなったな…。そして、今も同じような感覚だ。
違うとすれば、私の齢が人の最高齢記録を半世紀ほど超えているからだろう。
「やっと、彼女の元へ行ける。」
動かなくなっていく体に鞭を打ち、長年愛用した椅子に腰を掛ける。体がクッションに沈んでいく感覚を感じる。
…思えばこの光景も150年程、過ぎたのだろうか。
感傷に浸っていると、あまり物が無いのに散らかった部屋の中心にある机に目が行く。
「あぁ…これが今の私を作った元凶か…。今に思えば何故あんな者に頼ってしまったのかね?」
乱雑に置かれた週刊誌達を手に取る。
表紙には、色々とお世話になった女性が水着姿で写っており、過激な見出しが書かれていた。
「勇者は詐欺師だった!?騙された被害者が語った真相とは?」「腫物英雄の英雄譚廃版及び回収」といった、誰かを揶揄するような言葉が並んでいた。
「腫物英雄か…。言い得て妙だな。私はできれば彼女だけのヒーローでありたかったよ…」
何十年も前の雑誌だが綺麗なままだった。
…書かれた言葉は綺麗とは真逆の誰かを傷つけるような汚れた言葉ばかりだった。
手に取った雑誌を机に戻し、再び椅子に腰掛ける。
書かれている勇者は私だ。
私は高校生の時、2回異世界に飛ばされた。
最初はファンタジーといえばと思うような世界。そこで私は賢者として召喚された。
知らない世界で多くの経験をした、思えば人の醜さ・愚かさの様な負の感情が多かった気がするがな…
無事戻ってきたというのに、気がついたら別の異世界に飛ばされた。
1つ目と違うところは勇者として召喚されてこと。そして、1つ目の世界で得た力を持っていたことだ。そこは各地が領地争いのために、召喚した勇者等、選ばれた人による代理戦争が行われている世界だった。
無事召喚された地を頂点に統一することができたが、帰ってきたとき世界は数年経っていた。
「あのときは混乱したな…。1つ目では時間は経過していなかったのに…」
高校生の時から会っていなかった同級生達は大学に通っていた。
いつの間にか終わってしまった好きだった漫画。
7が最新だったのに10になっていた。
見知った景色は無く、ただただ新しい景色しか無かった。
なのに、私は歳を重ねていなかった。
驚きとそう失感で深く考えていなかった時に、私は同級生達に都市伝説の様に扱われてしまった。
当然だろう、2学期の途中で消息を絶ち、戻ってきたと思えば、何も変わっていなかったのだ。変わったとすれば、勇者を経て手に入れた肉体と、賢者の時に手に入れた翡翠の様な色の魔眼だろう。
そのことに、今に思えば何故ついて行ったのはわからないが、私の特異さを買った社長に拾われて、多くのマスメディアに引っ張りだこになった。
「異世界に行った者」「驚異的な力を持つ者」
だが、盛者必衰とは言ったものだ。私も長くは保たなかった。
私の行う行為は様々だった。「人は何メートルの高さから飛び降りても無事なのか?」「ワニの噛む力に対抗できるのか?」「生身でも無事な水圧はどのくらいなのか?」という、人外としてしか見ていない様な企画ばかりだった気がする。
最初のうちは「凄い!」や「ありえないっ!」というような、私の活躍に驚きを露わにしていた。
だが、人は自分達とは違う者を忌避する生き物だ。
賞賛の声はいつからか、忌避や拒絶の声に変わった。
私は世間から見放されたのだ。
「確か…『泡沫の有名人は楽しかったかい?化け物にはお似合いの末路じゃないか』だったかな…」
私を拾った社長は絞るだけ絞り、最後には腫物として追い出した。
一発屋はまだ転機があるかもしれないが、私は違った。
異世界で英雄として祭り上げられた私はこの世界では忌み嫌われてしまった。
家族には既に絶縁され、彼女も既にいなかった。
嫌われた私は無人島を見つけ出し、異世界で得たスキルと使い、
人を寄せ付けない結界を貼り、私は世界を切り離した。
「何を間違えたのだろうな…?」
私も最初から、人が嫌いではない。普通の高校生で、普通に恋をして、普通の社会人となって、普通に余生を過ごすことを夢見ていた。
偉業も悪行も必要ない、そこら辺にいる国民の1人となるはずだった。
それなのに、学園生活は突然終わりを告げた。異世界で信じた仲間に裏切られ、民に嫌われた。新しい仲間は私を残して先に逝ってしまった。
愛した人も……私が殺してしまった。
異世界を救い数多の命を救った私の手の中には…………
何も残っていなかった。
見事に最悪のバッドエンドだ。
「そういえば、異世界ものの物語は帰ってきて終わるのが多かったな…」
昔に本で読んだ異世界ものの物語のエンドロールは世界から帰ってきて終わるのがほとんどだ。
どうしてそこで終わってしまうのか?と思っていたが、今ならわかる。
「せっかくハッピーエンドで終わった物語をわざわざバッドエンドにする必要はない。」
突然、隣を歩いている人が急に炎を出したらどうだろうか?
倒れている人に近づいて、輝かしい光を出して倒れている人を回復させたら?
スカイダイビングの距離からパラシュートもなく飛び降りて無事だったら?
ワニに噛まれても血を流すことなく、ワニの歯の方が欠けてしまったら?
酸素ボンベもなく海峡に沈み、深海魚にエサをやっていたら?
恐怖し逃げ出すだろうか?神の御使いとして崇拝するだろうか?
「私は恐怖されたのだな…」
残念ながら、神の御使いとはならないか。
「当然だな。私は神も殺していたからな」
人は自分たちと異なる力を持つものを崇拝するか忌避するものだ。
当然、私は周りから腫物として扱われて、泣く泣くバッドエンドまっしぐらだ。
エンドロールも必要ない。
だけどこの牢獄ももうおしまいだ。椅子に腰をかけたまま天井を見上げる。
電気で光っているのではなく、私の魔法で光り輝く明かりを見る。きっとこの光は私と共に消えて無くなるのだろう。
「あぁ…そういえば彼女の墓にもう何十年も花を添えていない。」
無人島に来ても、毎年彼女の墓に花を添えていた。心残りがあるとすればそれくらいだろう。
「まぁ…彼女の骸は無いのだがね。」
もうモノクロで無価値な明日は来ない。
次こそは上手く生きていけるように、生まれ変わったら家族が欲しいと願いを込めて。
おやすみなさい…
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