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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編集/あおば】

隣の席の亜衣ちゃんは、いつも私をいじめてきます。

作者: あおば



 隣の席の亜衣(あい)ちゃんは、いつも私をいじめてきます。


「おい、瑠梨(るり)。まだ前髪切ってなかったのかよ」


 人目が恐くて、なるべく目を合わせなくて済むようにしているのです。

 でも亜衣ちゃんは、そんな私の気持ちも考えずに、目にかかる前髪を束にして持ち上げます。

 私が慌てて俯こうとすると、亜衣ちゃんは私の顎を押さえて、無理やりに前を向かせました。


 私の視線が、亜衣ちゃんに一瞬でぶつかります。

 いじわるなのに、亜衣ちゃんの顔はとても可愛いです。

 だからこそ、私なんかが近くで見るのは恐れ多く、せめてもと思って視線だけ逸らします。


「うぅ……や、止めて……?」


「うるせぇ、黙ってろ」


 勇気を出して発した言葉も、簡単に蹴り飛ばされました。

 亜衣ちゃんは、束にした私の前髪にいたずらをしているようです。


 しばらく髪が引っ張られてから、ようやく私は解放されます。

 いったい、私の髪になにをしたのでしょうか。


「お前、これ(ほど)いたら、ぶっ飛ばすからな」


 うぅ……亜衣ちゃん、恐い。

 言葉だけではなく、私自身も蹴り飛ばされるみたいです。


 涙目になりながら頭に手をやると、前髪がヘアゴムで結ばれていました。

 触った感じ、球がふたつ付いたヘアゴムのようです。


「ぷぷぷ、よく似合ってるじゃねぇか」


 亜衣ちゃんは、楽しそうに笑いながら言いました。

 こんな頭から水が湧いている、噴水のような髪型にして、私をからかっているのです。


 恥ずかしくて俯こうとすると、また顔をがしっと掴まれます。


「おっと、下を向くのは禁止だ。せっかくの可愛い顔、みんなに見せてやろうぜ」


「ひ、ひどいよ……」


 私みたいな根暗女、可愛いわけがないのに。

 亜衣ちゃんは満足そうに笑ってから、私の頬で遊びはじめました。


「……お前、化粧しないでこれって、すげーな」


 両手で頬をぷにぷにしながら、亜衣ちゃんはつぶやきます。

 お化粧していないことを、またばかにされました。


 亜衣ちゃんみたいに、ハーフと間違われるぐらいにはっきりとした顔立ちならともかく、私なんかがお化粧したら、目も当てられないと思います。


 むにむにむに、なんだか真剣な亜衣ちゃんの眼差し。


「……みゃ、にゃいちゃん……?」


 真剣な表情で私の頬をぷにゅぷにゅしたまま、亜衣ちゃんは顔をじっと見つめてきます。

 人の視線の限界量を越えてきたので、たぶん私の顔は赤くなっているでしょう。


 声をかけてからしばらくして、ようやく亜衣ちゃんは私の頬から手を離してくれました。


「……カラオケ、今日は二人で行くからな」


「えっ?」


 唐突な、亜衣ちゃんの言葉。

 そういえば、昨日、私は亜衣ちゃんに無理やりカラオケに連れて行かれました。

 亜衣ちゃんと、クラスの女の子たち数人で。


「昨日はみんなで行ったから、歌い足りねぇんだよ」


「ふっ、二人でなんて……む、無理だよ……!」


 昨日は大人数だったから、私が歌う回数は少なくて済んだのです。

 いや、実際はみんなの前で歌うのなんて恥ずかしすぎて、無理でしたけれど。

 私は歌わない、その言葉を発する勇気もなくて。


 けっきょく三曲ぐらい、がんばって歌いました。

 それでもめちゃくちゃ恥ずかしくて、カラオケに連れてきた亜衣ちゃんを恨みさえしたのです。

 それに、私は人付き合いが苦手なのに、みんなと話させようとしてきましたし。

 昨日だけで、私は一生分の発声をさせられたのでした。


「あぁ? みんなでは行くのに、私と二人は嫌だって言うのか?」


 うぅ……亜衣ちゃん、めちゃくちゃ怒っているようです。

 あまりの怒りに、私を睨みつける瞳が潤んでいます。


「そっ、そんなことない。行く、行きます」


 私の言葉を聞いて、亜衣ちゃんは嬉しそうに笑いました。

 おそらく、私の下手な歌をバカにするのが、いまから楽しみなのでしょう。


「へへっ、じゃあ、学校終わったらそっこーでカラオケな」


 亜衣ちゃんは私の肩に手を回して、威圧的に言います。

 こうなっては、私が逃れるすべはありません。

 なるべく亜衣ちゃんの機嫌を損ねないように、へらへらと笑うのです。


 私の顔を見た亜衣ちゃんは、満足そうに鼻歌をうたいながら、自分の席に戻っていきました。

 といっても、すぐ隣なのですが。


 高校二年になって亜衣ちゃんと同じクラスになってから、そろそろ三週間が経ちます。

 その間、私は亜衣ちゃんに、いつもこんな感じでいじめられているのでした。



【後書き】

私が書いた短編を、短編集としてシリーズにしてみました。

もしよろしければ、他の作品もお読みいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の顔(亜依ちゃん曰く化粧なしでもかわいい)を見えるように前髪を上げたのも、カラオケでみんなと話させようとしたのも、主人公がクラスに馴染めるようにしようとしてのことじゃないでしょうか?…
2020/08/13 00:03 退会済み
管理
[良い点] 素晴らしい! 続き読みたいです
[一言] この2人良いです…! 是非シリーズ化して色んなエピソード読みたいです。
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