1日目の終わりに
職業案内所の職員で高級な宿屋の娘であるリーリナさんから紹介された宿でそこそこの部屋に泊まることが出来た私達は宿屋の一階にある厨房に入り込んでいた。
どうしてそうなったかというと、思ったより食事が美味しく無かったからだ。どうやら、開発会社は特定の店以外は世界観優先で世界構築をしているらしく、特に肉が血生臭くて食べれた物では無かった。
思わず文句言って調理場を取り仕切っている責任者を呼び出して説教してしまった。
本来、そこまでする気もなかったのだけど、食堂で不味い飯が来たところにるーこさん達が現れたせいだ。
彼女にこんな不味い飯を食べさせるわけにはいかないと私は奮起したのだ。
ちなみに、現在は本日捌いたウサギ肉をトマトと共に煮て作ったお肉たっぷりミートソースをパイ生地に敷き詰めているところだ。
「あーミートパイ!」
喜ぶ声を上げたのは美耶とるーこさんであった。
「イギリスで有名な某ウサギを見てミートパイを思わず思い出しちゃうんだよね」
と、るーこさんが言うと美耶がそれに同意する。
「いうか凄い手際いいいですね」
「ほんと、ビックリな感じだよね……」
結構外野が多いので少し集中力が散漫な感じですが、手慣れた料理はそこまで神経を使うわけじゃありません。
祖母に習って何度も作った記憶がある得意料理のひとつです。ちなみに美耶には絶対に手伝わせません。
どうやって作るか不明のダークマターを生成するのですから。
ちなみに祖母から教わった料理で時折作るのはこれだけです。だって、他はマズ飯……と、いうかマメにマメでマメを煮て、味も大雑把な感じなんですもの。やっぱり日本の料理に限ります。
ちなみに猪は一番いいところを切り分けて、酒に漬けてから、ほどよく叩いて塩と胡椒で味をつけ、衣を付けて揚げます。
魔導機付きのオーブンを動かしつつ、ミートパイを焼いている間です。ちなみにるーこさんのお仲間の女性に、オーブンを見張って貰います。
「そう言えば、パン粉に何か混ぜてたけど、アレって何?」
興味深そうにるーこさんが聞いてきます。ちなみにその後ろで聞き耳を立てるここの厨房の主人である料理人の姿がチラチラ見えて面白い状態です。
「いわゆるハーブです。色々とこの世界にも存在しているようなので、使わせて頂きました」
「と、いうかここがVR内とは思えないくらいの再現度ですね……パイって回した方がいいですか?」
と、お手伝いしてくれているほんわりとした女性がそう言った。私はチラリと、様子見て考える。
「そうですね。石窯みたいな物だと思うので様子を見て動かして貰えますか?」
「はい、分かりました。私も厨房借りれるなら料理とかしようかな……」
「あ、それならプリン! プリンを要求するわ!」
と、るーこさんが声を上げる。
「ちょっと言うと思ってましたけど。そうですね、卵もあるみたいですから、材料を揃えた上で……あ、蒸し器が無いですね」
「愚弟蒸し器は作れないの?」
「って、俺はそんな何でも作れる超人じゃないぞ……まぁ、一応作れるか調べてみるけど」
どうやら皆るーこさんに対して非常に甘いようです。ただ、私はちょっぴり嫉妬心でぐぬぬな感じです。料理の腕には自信がありますが、オヤツに関してはイマイチなんです。やれば出来るとは思いますけど、あまり経験が無いんですよね……プリンの作り方教わろうかしら?
あ、お野菜は出来るだけ火を通した方がいいでしょう。お芋はお鍋に水を張って深めのお皿を入れて……蓋をして。
「あれ? 蒸すの?」
「はい、蒸し器とまでは言いませんが蒸した方がほっこりするので、問題は量が作れないことですね」
「んー、プリンもそれでいけるかな」
「確かにそうですね。そういえばプリン型なんてあるんですか?」
「愚弟、必要なのはプリン型のようね……小瓶でもいける気がしなくないけど」
るーこさんの言葉にほんわりした女性は「うん、それでいけるかも」と、呟く。なるほど……これはサバイバルと同じですね。無い物は他の方法で調達して、どうにかする。
断然私は楽しくなってきた。
ただ、今はるーこさんの為に美味しいご飯を作ることに集中するのです。
◇ ◇ ◇
宿にある食堂に私達は今回作った食事を広げ、皆でちょっとした立食パーティー状態で食事をする。
「うん、ミートパイ最高! ウサちゃんありがとう!」
と、るーこさんが大喜びでそう言った。これには私も感激で、思わず胸が締め付けられます。
「いやぁ、ちえるん。中々やるねぇ……おねーさん、ホント感激! こっちの猪のカツも美味しそう。モグモグ……うん、これはイケる」
「本当ですね。猪ってもっと臭みがあると思ってましたけど、そんな感じは全然ないです」
「ちゃんと血抜きと臭みを抜く手順さえ間違えなければそこまで臭く無いですよ。現実でも魔物でも同じ方が少し驚きなくらいです」
私がそう言うと、クオンさんが説明してくれる。どうやら、このゲームで出てくる魔物は解体を可能とする為に現実世界に存在する生態を元にデータを作っているそうです。
ただ、殆どのプレイヤーがそういった知識を持ち合わせていないので、自分で解体して料理しようとは思わないらしいです。
「そういえば、お姉ちゃん。tipsに解体のすゝめっていう項目が追加されてたね」
「ああ、そう言えばそんなこともあったわね」
「君達もtips解放ちゃんと見てるんだね。うんうん、良い感じだね……ちなみにビルドどうするか方向性はキチンと決めれた?」
と、るーこさんが聞いてきた。ちなみにクオンさんが別れ際にビルドに関してはレベル20になったタイミングで一度リセットしてスキル取得を取り直すことが可能だということを言っていたので、それまでは色々と試行錯誤するのが一番良いと言っていた。
ただ、私個人的な意見かもしれないけれど、今やっている型を極めるのが最も最短ルートな気がしている。
「るーこさんのビルドはどうなんですか?」
しっかりと情報を集めようとする美耶はとっても素敵な妹です。
「私は基本的に拳で語るタイプだから、拳闘士がメインだよ。ステ振りはー、あ、料理が美味しかったから折角だし情報開示しておくかな。基本的に私はSTR特化でサブ系のスタイルは刀だから、剣士でもあるって感じのスキル取得を考えてる」
「言ってもいいんですか?」
「ま、大丈夫かな。結局最後は自身の身体能力と戦闘経験がモノを言うから」
るーこさんはそう言って自信溢れる瞳で私を見て微笑む。
「るーこさんだけ、情報開示だとなんとなく私の気分が悪いので私も考えていることを言っておきますね」
「え? 別にいいよ……ハンデないと大変だよ?」
「いいえ、言わせて下さい。私、刀メインで素早さで翻弄するような感じをイメージしてます」
「……そんな情報聞いたら私ってば対応出来ちゃうわよ? 本当にいいの?」
「はい、それでも……それでも、私はあなたからの挑戦を見事に成し遂げてみせたいんです。そして、一緒に……一緒に」
「分かった。正々堂々勝負ね。あ、明日はカレンをお昼頃に派遣するから、ヨロシク。あと、ここにいるメンバー全員とフレンド登録しておこうね」
「えっと、フレンド? 登録?」
「あー、うん。妹ちゃん、ちゃんと教えてあげてね」
そうして、楽しい食事会&フレンド登録会となり、時間が過ぎていく。
ある程度の時間になって、私が船を漕ぎ出したのを見て、美耶が「そろそろお姉ちゃんが落ちそうなのでお暇します!」と、言って私達は食堂から出て部屋へ戻った。
「お姉ちゃん。とりあえず、そのまま寝ちゃっても大丈夫だと思うけどどうする?」
「お、お風呂とか……ん〜」
「ここってゲームの世界だから、気にしなくても汚れてないから」
「そう……なの?」
「うん、だから。今日は疲れたでしょ?」
心配してくれる美耶はいつも可愛いのです。
「うん、分かった。もう、寝るね……」
「明日は朝4時頃だった?」
「うん、いつもの感じで起こすから……」
「オッケーだよ。私はtipsとかヘルプとかしっかり読み込んでから寝るからヨロシク」
「ふぁ……うん、おやすみ……」
そして、私はベッドに潜り込んですぐに意識を失うように眠った。
ちえるん「すぅすぅ……」
みゃーるん「お姉ちゃんは自動防御システムを持っているので近づくとヤバイです」
ちえるん「…………」
みゃーるん「くっ、捕捉されている!?」
と、いうのは冗談でぇー
やっと1日目が終わった。
ちなみに現実世界ではまだ30分しか経ってません。
あな、おそろしや。