聖域で優雅な朝食を
久方ぶりの更新です!
お菓子職人である私は現在、ファンタジー・クロニクル・ウォーというネットダイブ式のオンラインゲームのクローズドβに特殊な形で参加している。
私が所属している国には聖域という巨大な森が存在していて、通常プレイヤーはクエスト以外では入ることが出来ない場所として指定されている。筈なのだが【鋳薔薇の森】という傭兵団の拠点は何故か聖域のド真ん中にある。
なんだか謎の流れで傭兵団に入る事になってしまった。そして、私は今、傭兵団の拠点である屋敷の厨房でフレンチトーストを作っていた。
卵は本日捌いた鳥の卵で割った感じは大きい鶏卵といった感じで、味は鶏卵に比べてコクが強く濃厚。用意されたミルクは聖域に住まうエフルの農場で育てられている聖牛のミルクを低温殺菌で加工したミルク。意外にもあっさりした口当たりだけど、しっかりとした風味のある美味しい牛乳だ。
中庭で採れたベリーを中心に蜂蜜とワインでコンポートを作る。使用したワインはとある高貴なエルフの方がお気に入りの銘柄だそうだ。味は貴腐ワイン――いや、ドルンフェルダーに近い雰囲気だけど、酒精を考えるとヴィーニョ・ド・ポルトみたいなモノかもしれない。因みに傭兵団【鋳薔薇の森】の団長である、ちえるんは未成年の為に飲酒は出来ないので味は分からないと言っていたけれど。
調理を始める前に食材のチェックをしたけど、店で使っている素材とは全く違う風味や香りで驚いた。これに関しては、るーこが言っていたけれど、店舗で用意された物は運営側が用意したデータを元にしているらしい。この世界で獲れる動物や植物の素材は現実世界の動物学者や植物学者、農畜産物の生産者なども関わっており、仮想世界で幾度もテストをしたデータを元に生態系を構築しているらしい――けれど、まぁ、難しいことは分からないけど、現実世界に似ているけど、全く違う食材が手に入る。
ウチの店も関わっているってことは、その辺りの事情も分かっていて先生は私にテストを課したってわけね。
そんな事を考えながら、ベリーの良い香りが漂ってくる。一応、ステータス確認したところ、名称はラームベリー。見た目はブルーベリーっぽいけれど、色味はクランベリーで味は中間っぽいけれど独特の酸味があって、ジャムやコンポートには向いていると思う。
仕事外でもこうやってスイーツを作る羽目になるとは思ってなかったけど、このゲームは色々な意味で面白いと思っている自分がいることに思わず苦笑する。
そして、次に目的であった課題へのヒントを色々と貰ったことに感謝。と、思いつつもこの怪しげな傭兵団にも興味が湧いてくる。
(と、いっても既に私ってば、入っちゃったんだなぁ)
今更、そんな事を考えても、何とも言えない状況ではあるけれど、拠点まで持っている傭兵団なのにプレイヤー人数は10人未満という状況を考えると規模感がおかしい。一応、ユーザーコミュニティの掲示板情報では拠点持ち傭兵団の規模は大体20名から30名からなる傭兵団だといわれているらしい。
そもそも聖域に存在している場所を拠点としている点から色々とツッコミどころ満載だ。
「いい香りですね」
おっとりとした雰囲気の女性がそう言った。当然、ここにいるということは彼女も傭兵団のメンバーだ。るーこ曰くママ味溢れる最上級プリンを作る事が出来る女らしい。と、いうか店の方でチラホラ見かけたことのある顔だったので驚いた。
「今日は彼氏と一緒じゃないの?」
私は『リア充爆発しろ』と、古から伝わる呪いの言葉を心の中で呟きつつ聞いてみる。
「え? さっき傭兵団加入したばかり……ですよね?」
否定をしないというところを考えるとアタリだね。私はそんな事を考えつつ、ニコリと営業スマイルを装備する。
「ああ、私『サザーランド』の店長でユーナ。いつもご利用ありがとね」
「……そう来ましたか。私はしょこらんと言います」
と、名を名乗った後、彼女は何かを考えるような仕草をしつつ言葉を続ける。
「私の……彼、えっと、この傭兵団の参謀をしていて、たぶん後で会えると思うので、その時に色々と思っている事を聞けばいいんじゃないかな? なんて、私は思うんだ」
「それって、貴女は私に話すのは嫌ってこと?」
「ううん、そうじゃないけどね。たぶん、色々と訊きたい事が満載じゃないかなぁ……なんて、思うんだよね。正直、私じゃキチンと説明しきれないと思うから」
彼女はそう言った。確かに確かに、訊きたいだらけではある。ただ、そんなにペラペラと喋ってくれるか疑問なわけで、聞きやすそうな人間から聞き出しちゃえとか思っていたけど、そうはいかないらしい。
「そっか、それじゃぁ仕方ないか」
と、私は小さく息を吐いて、目の前の仕事に精を出した。
その後、私としょこらんの二人で数人分の朝食を用意して、その全てをインベントリに収納する。こういうところは現実ではあり得ないところだけど、インベントリに収納されている料理や食料はほぼ時間が止まっている状態なので、アツアツもヒヤヒヤも維持される仕組みになっており、普通では運べない量でも一人で運べてしまうのだから、便利としかいえない。
と、言っても現実世界の肉体が満腹になったり、栄養価が取れるわけではないところが、困ったところだと私は思ってしまうが、実際にこの問題が解決してしまうと、ネット世界から戻ってこない人間が続出するに違いない。
厨房から食堂までは本当に近く、設計としてはかなり利便性が重視されている雰囲気ではある。と、いうかNPCが作った建物と考えるとインベントリに入れて運ぶなんて普通はありえないだろうから、これも当然といえばその通りである。
「味覚再現とか考えた奴ヤバいわよね」
るーこが遅めの朝食を食べながらそう言った。言いたいことは分かる、しかし、私を含めた傭兵団【鋳薔薇の森】の面々の殆どが苦笑しているのがよく分かる。彼女は空気を読む気がないタイプの人間だ。
「そうですね。るーこさんの言うとおり、仮想世界でこんなに美味しい物が頂けるわけですから。それにユーナさんには感謝ですね」
団長である、ちえるんは天然だと理解した。おおらかなタイプだと思う……けど、リーダーとしてはどうなのだろう?
「そうだよね、サザーランドの味が自分達の拠点内で楽しめるわけだからね」
「後でみゃーとカレンさんに文句を言われるのは確実ですね」
「ま、それは運が無かったとしか言えないわね」
そんなやり取りをしながら、私が作ったフレンチトーストを美味しそうに平らげる面々。このフンワリとした雰囲気はとても好感が持てる……けれど、やはり疑問点が多い。
「あまり、怖い顔をするべきではありませんよユーナさん」
どうやら眉間に皺がよっていたようだ。私は誤魔化そうとして否定しようとするが、ちえるんは首を振り私の言葉を止めた。
「疑問に思う事も多いでしょう。正直なところ、私にはゲーム的な事も機械的――システム的な話もよく理解してません。なので、細かい説明に関しては我が傭兵団【鋳薔薇の森】の参謀であるクオンさんに聞いてもらえれば色々と納得出来るかもしれません」
「そう言うってことは、ちえるんでは無なく彼がこの傭兵団の実質トップってこと?」
私がそう言うと、ちえるんの両隣から否定の声があがる。しょこらんの彼氏でウチの店に二人でよく来る方の男だ。もう一人はるーこだ。彼女は彼を睨んで「黙れ」と一言放ち私に鋭い視線を向けた。
「この傭兵団はちえるんの想いで作られたものよ。彼女以外で私達の上に立てる人間は存在しない」
彼女の放つ気迫はまるで現実世界で師匠の放つ気にも似て、私は言葉を失ってしまう。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ――と、ふと考えてしまう自分は以外にも図太い。
「はぁ、ごめんね。悪気は無かったんだ。ちえるんも気を悪くしたらごめんね」
「気にしなくてもいいですよ。多くの人は似たような事を思うようですので」
「そんな事ないよ、ちえるん。君にしか出来ない事も多い……それに姉さんに首輪付けれるのは君だけ――って、姉さん! フォークとナイフを同時に投げんな!!!」
るーこは今の一瞬でナイフを上に放り投げ、タイミングを合わせてフォークを彼に向って飛ばす。神業レベルの技術だが、FF無しだとダメージは入らないハズ……だよね?
ちなみにどう考えても躱せないようなタイミングだったのに彼はフォークとナイフの両方を躱した。ただ、勢いよく席を立った為に椅子が倒れ大きな音が食堂内に響く。
「ったく、ダメージは入らないけど喰らった感覚はあるんだから、やめろよな……で、ユーナさんは色々と聞きたい事があるだろ?」
「そうね。君の反応速度の速さとか気になる……」
「俺より上に数人同様の反応速度で動ける人間がいるので、それに関しては才能だとしか言えない」
「……リアルチート勢?」
世の中にはたまにいる。仮想現実でも現実でも反射神経や動体視力に秀でた人間。しかも、何故か一般人だったりする変わり者。中には現実よりも仮想現実の方が反応の良い人間もいる。デジタルの申し子とか言っていた専門家がいたけど、ゲームにおいてチートプラグラム使用してないのにチートレベルってヤバイわよね。
「プロレベルなら、それくらいの反応速度はいるわよ?」
と、るーこはあっけらかんとした風にそう言った。
「いや、そんなゴロゴロいたら――って、いるの?」
「るーこさんはプロプレイヤーだそうですよ。なんでしたっけ、妹のみゃーがファンだって言っていた、る……るぅ?」
る? る――格闘系ゲームプレイヤーでも国内で最も人気のある女性プレイヤー。Luka*……いやいや、んなわけないわよ。
「んなわけ――」
「ちょっと、一応黙ってんだから、言っちゃダメよ」
「あるんかーい!!! って、プロプレイヤーがこんなところで遊んでていいの!?」
「いいのよ、アンタが仕事でこのゲームやってるように、私も半分仕事みたいなもんだから」
と、るーこは面倒くさそうに手のひらをヒラヒラとさせながらそう言った。確か……色んな業種の人が関わっているとは聞いていたけど、もしかしてゲーム関連でもプロプレイヤーとかも関わっているってことか。
「プロって……この傭兵団もそう《・》い《・》う《・》人の集まりってこと?」
「いや、プロ活動しているプレイヤーはこの傭兵団では姉ちゃ……んっ、るーこだけだよ」
「この……ってことは他にもいるんだ」
「まぁ、αテストに参加していたプロプレイヤーだけで把握しているハズ。ただ、そのプレイヤーがβテストに参加しているかは別だけど、配信とかもやってるプレイヤーが一部配信していたから、それなりにはいるだろうな」
「なるほど……でも、どうやったらこんな場所を拠点に出来たワケ? 聖域ってクエスト上で語られるだけで、プレイヤーが入れる場所じゃないハズだよね?」
私がそう言うと、クオンと呼ばれている彼は苦笑しつつ「ま、普通はそうだよな」と、呟く。
「ユーナさん。あんたはこのゲームってどう思う?」
突然、彼は真面目な視線を私に向けた。どう思う? この言葉はどういう意味で発せられたのだろうか。私はふと師匠であるパティシエの言葉を思い出しつつ、発せられた言葉の中に含まれている意図を考える。
「君のいうどう思うは、ゲーム的な意味では無い……ってことだよね。ハッキリ言えば、ゲーム的じゃないって印象かな。これはメインコンテンツの戦争でも感じる事があるんだけどさ。たぶん不気味の谷的な違和感だと思うんだよね」
店で働いている時はあまり感じていなかったけれど、リアルすぎて奇妙なのは確かなのだ。そのくせ、スキルやクエスト受注の仕組み、マップとかはゲーム的な部分はしっかりとゲームしているのだから、奇妙な違和感みたいなのを私みたいな特殊なプレイヤーはよく感じているに違いない。
「これって、ゲームの土台がワールドシミュレーターってのが要因になってる?」
私がそう言うとクオンは満足げに口の端をあげる。ニヤついた顔にムカついたけれど、表情には出さないように気を付けつつ彼の言葉を待つ。
「ゲームとしての部分は当然ゲームであるけれど、この世界に住んでいる人や国では仮想現実のようで仮想現実では無いんだ」
「言いたい事は分かるけど、それってクソゲーだよね?」
「それを言われると……確かにって思うけど。気付きってのは色々大事でね、ユーナさんが言った疑問の回答に繋がる部分なんだよ。ちょっと話が長くなるかもしれないけど、大丈夫かな?」
「……何日も掛かるわけはないよね?」
「それは当然……」
と、彼は長い話を始めるのだった。
るーこ「愚弟ってば楽しそうに話してるわ」
ちえるん「あれでコミュニケーションに問題あるというのは冗談ですよね?」
るーこ「問題あるわよ。数日に渡ってもいいから話してって言ったら、たぶんやるわよ。アイツ」
ちえるん「それは面倒くさそうです」
るーこ「そうなったら、しょこらんを犠牲に強制的に終了させる」
ちえるん「なるほど、しょこらんさんはブレーキ役なんですね」
るーこ「Yes!」
でも、ラブラブなんですよね?(*‘ω‘ )(‘ω‘ *)まぁ、付き合い長いしね。幼馴染よ
そんなわけでお久しぶりです。
色々と忙しいなか、少しずつ書いてはいたのです。
もう少しまとめて執筆出来る時間を作りたいんですが、
来月一杯は忙しそうだ。
まぁ、言い訳ばかりしても仕方ありません。
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