職探し、宿探し
今回は若干短めです。
私と美耶はエントランスに戻って来たのだが、周囲の様子があまり変わっていない事に驚いた。
「どうやら今日はダメなのではないかしら?」
「はぁ〜、確かにそうだね……」
美耶はガックリと肩を落とし深い溜息を吐いた。ちょっと可哀想だけど落ち込む美耶も可愛いわね。
そんな事を考えていると、職員の女性が私達を見つけて駆け寄ってくる。
「ああっ、戻って来たんですね」
「案内を受けれるんですか?」
美耶が職員の女性に詰め寄る。しかし、職員の女性の表情は芳しく無い。これはダメなパターンだとすぐに察することが出来る。
「あのー、せめて宿の案内だけはさせて貰えませんか? さらに言いますとそれで今日の件は勘弁していただければありがたく……」
女性は本当に申し訳無さそうにそう言った。
正直素直に聞くなんてナンセンスな話だと私は思うのです。
そう思っていると。
「宿も大事だけど、先ずは明日って何時からやってるの?」
これは大事な質問。こういうところはキッチリとしているのが美耶のいいところ。
「えっとですね。普段は遅めなんですけど、明日は朝早くから対応する旨が各所に出されていまして6時くらいからやっていると思います」
「お姉さんがいるわけじゃないってことかな?」
美耶は特に何も考えてはいないでしょうけど、どこか冷たい雰囲気でそう言った。それを怒っていると勘違いした女性職員は焦りの表情を見せる。
人とはこうして勘違いしていくのか……と、いうかAIだと言っていたのを思い出し。私は不思議な気持ちになるのだった。
「みゃー、取り敢えず明日早くに出る予定だったのだから、構わないじゃない?」
「まぁー、そうなんだけどさ。過密すぎるスケジュールってしんどいじゃない」
そう言って美耶は口を尖らせる。やっぱり、拗ねる妹もなかなかに可愛いものだ。
「とりあえず、職員さん。宿の方は紹介して頂けるという話ですけど、本当に部屋が取れるのかしら?」
私は実はここに来てからずっとモヤリとしていたのだ。これだけ人が溢れていることを考えれば、宿も一杯じゃないのだろうか?
舞台が中世ファンタジーっぽい世界で考えるとそこまで宿が沢山あるとも思えない。と、いうのもあった。正直、野宿でも全然問題は――無いわけは無かった。ここでは人を襲う魔物がいるのだ。
現実世界では野宿をしていて野生動物に襲われるというのは稀なパターンでしか起こらない。
ここでは普通に歩いているだけでも魔物に襲われることがあるらしい。街の城壁の大きさから考えても街の側であっても、襲われる可能性が高いということだ。
あ、でも街の中で野宿出来るところがあれば、それで問題解決な気もする。
「お姉ちゃんってば、街中で野宿出来ればそれでもいい……とか、思ったでしょ?」
「気のせいじゃないかしら?」
「気のせいね、ふーん」
美耶は私の見えすいた嘘などお見通しだという表情をこちらを見てくる。これまたあざといわ、美耶ってばいつの間にそんなあざとい事を出来るようになったのかしら? と、いうか私ってば美耶のこと好き過ぎみたいで嫌ね。
それにここ数日の目標はるーこさんに私が作る傭兵団に入って貰う為に色々とレベルアップしないといけないのです。
「さ、流石に街中で野宿をすると警備兵に捕まっちゃいますよ。そんなのダメです」
「あー、そういうのがいるんだ……もしかして、かなり強い?」
「まぁ、そうですね。特にラックラーの守備隊は共和国正規軍の第一部隊〜第三部隊の兵士が順番に行なっているのでかなりの実力者揃いだと思います」
「なるほどなぁ」
美耶ったら、腕試ししたいみたいな雰囲気を出して何をする気かしら。
「何にしても宿が無いと色々と問題がありそうだと分かったので、取り敢えず幾つか宿を紹介して貰えますか?」
「で、では……まずは一番人気なのが、ここを出て直ぐに左側にある『金の鶏亭』です。料金がリーズナブルなのが特に人気の理由ですね」
「うーん、人気なところはもう部屋が埋まってそうだね」
「そ、それは……そうかもしれません。で、次はここから南側の大通りに面している所にある『剛気なる石の宿』です。ここは若干料金が高めですが、訓練場などが併設されていて、朝から訓練をしたい人などには人気の宿になります」
訓練場が併設しているなんて、不思議な話。あ、でも……道場が宿をやっていると想像すると分かりやすい感じね。
「他には北門の近くにある『道楽亭』ですかね。あそこは料金もリーズナブルで、ご飯が美味しいと人気のある宿です」
「お得感のある感じがするわね」
「とりあえず、行ってみる?」
美耶がそう聞いてくるので私はすぐさま同意して、職業案内所から出て行こうとするが、女性職員は少し困ったような表情を見せて、待ってほしいと言ってくる。
「本当はあまりこういうのはどうかと思うのですが、もう一箇所だけ紹介させて下さい。こちらはとても料金が高いので貴族の方などにしか薦めていないのですが『天馬の宿木』と、いう宿が西門の近くにあります……行けば直ぐにわかりますし、私の名前を出して貰えば確実に部屋が取れると思います」
「何か……訳有りですか?」
彼女は少し苦笑しつつ、実は――と、言葉を続ける。
「私、ここの職員をしているんですけど、本来は働く必要が無いといいますか……その宿の跡取り娘なんです」
色んな意味で設定盛りだくさんな雰囲気だ。
「なので、受付にリーリナ・バルナートからの紹介だと、このカードを出して言ってもらえれば泊めて貰えると思います。ただ、値段はビックリするくらい高いと思います」
「一泊で幾らくらいなのかしら?」
私がそう訊くと彼女は申し訳無さそうに指を5本ほど立てる。
「これくらいです」
「金貨?」
「さすがに、それは暴利かと……まぁ、そういう部屋もありますが、王族か大貴族くらいですよそんなの。えっと相場って分からない感じですか?」
「そうですね。さっぱりです」
そう言うと彼女は丁寧に宿の相場を説明してくれる。
一般的な宿の相場は素泊りなら大銅貨20枚〜50枚で朝食や風呂が付いてベッドもちゃんとしているようなところでは銀貨5枚〜20枚。どれくらい高くても大銀貨1枚までくらいだそうだ。
しかし、彼女の実家である宿は一番安い部屋でも一晩で大銀貨2枚、さらに等級を上げれば大銀貨5枚以上掛かるという話だ。
「なるほどですね。どうするみゃー?」
「そこでいいんじゃない? 高いってことは施設もサービスも揃ってるってことでしょ?」
「では、リーリナさんのご実家である宿に泊めていただきましょう」
「ええ? いいんですか?」
「はい、高い部屋には泊まれないかもしれませんが、一晩大銀貨2枚から5枚で考えれば問題無い範囲だと思います」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、それではまた明日お会いできればいいですね。ごきげんよう」
と、彼女に別れを告げて私達は紹介された宿へ向かうことにした。
ちえるん「何だか無職って嫌な感じよね」
みゃーるん「分かるわぁ〜」
ちえるん「明日は仕事が見付かるといいわね」
みゃーるん「朝から職安に並んで……なんだか、それもやだなぁ」
ちえるん「頑張るしかないわね」
あ、さて……投稿タイミングに関しては活動報告の方に投稿しておきます。
まだ、書きたい衝動に身を任せて書いてます。
他の作品に比べて携帯で書いているので予測変換上、誤字などがあると思いますが生暖かく見守って頂けると助かります。