とある帝国士官の災難 その4
『外なる者』の多くは我々とは価値観や考え方が大きく違っている。それは常々思い知らされてきた。しかし、我々の命を救いたいということを言われたのは初めてのことだ。
正直、一瞬何を言っているのか分からなかった……が、これは希望なのかもしれない。
「戦争をして戦い、敵を倒すというのは……えっと、宿命というか私達『外なる者』の使命みたいなものですから、誰も止める事は出来ないでしょう。ただ、貴方達『内なる者』……我々も多くの傭兵や人夫を雇って戦場に来ているので、敵国である貴方達と同列に考えるのは違うと思っていますが、殺す必要もなく、尚且つ戦場で有利に立てるという我々にとっても利がある話なのです」
彼女は落ち着いた雰囲気でそう言って「如何ですか?」と我々に聞いてきた。
正直なところ、私は恐怖を感じている。見た目は成人したてくらいの女性が戦場における戦略を理解している将の顔をしているのだ。付き従う者達もどう見ても若い。やはり『外なる者』達が異質だと思ってしまう。
疑問なのだが、『外なる者』達の中に子供を見たことはほぼ無い。成人前か成人後位の見目の者が多い。目の前いる共和国の者達も我らが帝国の者達であっても変わりはしない。
ともかくだ、彼女から出された提案への返答をしなければ不味いだろう。しかし、正直なところ彼女の言葉に感動や共感、理解を示さなかったとして、良い結果が得れる訳もない。当然、彼らからすれば我々の力など赤子をひねるようなモノなのだ。
「し、失礼ながら……良いでしょうか?」
「はい、問題ありませんよ」
「もし、私達がこの提案を断った場合、如何なされるおつもりでしょうか?」
こちらの言葉を予想していたのか、彼女は非常に落ち着きを持って小さく微笑んだ。
「それは仕方ありませんが、直接的に排除か間接的に排除のどちらかでしょうね」
高貴な雰囲気を持った少女は簡単に言った。優しさや甘さでは無く、必要が有れば排除する事も厭わない冷酷さを持っていると私は感じ恐怖した。
まさに為政者として育てられた高貴な方に違いないだろう。
私は隣から視線を感じ視線を移すと、言葉や表情には出さないように必死になっている曹長が死にそうな目でこちらを見ていた。
半分曹長の存在を忘れていたとは絶対に言わないでおこう。そして、気を取り直し、彼女からされた提案に対しての返答を行う。
「残っている兵士の多くは『外なる者』に雇われている傭兵です。この城塞内には私や隣にいる彼のような正規の軍人は非常に少なく百名もいません。それに古龍種の登場によって多くの犠牲が出ましたので将官クラスの人員は私しかおりません。この戦場全体を見れば正規軍人は他にもおりますが、その多くは小砦や平野側に配置されております。彼らは戦況によって損害がある程度多くなった場合は個別の部隊単位で撤退する事が認められているのです。なお、撤退する場合は我が帝国の者達で決めている撤退路を通り、別の拠点へ移動する手筈になっています」
「城塞が落ちた場合はどうする手筈なのですか?」
「残念ながら、ガンナムル城塞は難攻不落の城塞で正攻法ではそう簡単に攻め落とせる場所ではございません」
私の言葉に彼女の隣にいた、凛としているが恐ろしいオーラを纏った女性が不思議そうな顔をする。
「あれ? 元々マイゾ王国が所有する砦だったと記憶しているのだけど? それに最近でしょう攻め落としたのもさ」
言葉は軽めではあるが、圧が半端ない。むさ苦しく厳つい曹長が怯えて震え上がる姿はなんとも形容し難い。
「確かにその通りです。そもそも戦力差があり、時間を掛けたが故に攻略出来たのです。この方法は正攻法と言えるでしょう。守りが厚い城塞を落とすには本来時間が必要です。今回のような方法は幾度も実行するのは不可能では無いでしょうか?」
「まぁ、そうですね。ドラゴンを嗾けるなんて何度もやってられないですからね」
「あら、ちえるん消極的ね」
「るーこさん……もしかして、またやろうとか考えてるんですか?」
「ワンチャン古龍種狩りの方法はないか検討中よ。レベル差を如何に埋めつつダメを稼ぐか……考えたらワクワクするわね」
「ヤル気満々じゃないですか……って、帝国兵さん達がドン引きしてますよっ!?」
我々は会話のスケールが違いすぎて理解が追いついて来ない。我らが帝国の『外なる者』と我々では随分と考え方が違っている事が多く、様々な点で認識の違いというのが存在してたが、目の前にいる敵である共和国の『外なる者』達は異質だった。
そもそも古龍種という存在は神聖であり、神域に住む畏怖されるべき存在である。それを彼女らは嗾けたと言ったのだ。
元より『荒狂うモノ』の登場は人為的なモノを感じていた。それは……まぁ、起こってしまった事なのでいいとしよう。普通は神の山に住むドラゴンをガンナムル城塞まで一切捕まらず、犠牲を払わずというわけにはいかないだろう。多大な犠牲を払ってまで奇策を遂行するというのは並大抵の覚悟では難しいだろう。
もしかすると彼女らにはそれを可能した秘術があるのかもしれない。『外なる者』というのは本当によく分からない存在だ。そんな事を考えていると高貴な女性が小さく咳払いをする。
「と、話しを戻しましょう。城塞が攻め落とされることは考えられていなかったというのは間違い無いのですか?」
「はい。そもそもガンナムル城塞に関しては現状帝国が占領している最前線のひとつでは有りますが軍上層部は最優先防衛対象としては考えられておりません。故に配属人数も少なく、配置にしてもこの城塞より南側にある砦に集中しております。ただ、『外なる者』達はそうは思っていなかったようですが……」
実際、攻め手である共和国側も突飛な方法まで用いて攻めてきている事を考えれば『外なる者』達にとって重要な事がある筈――と、私は世界地図を思い浮かべる。
戦闘大陸と呼ばれる場所を中心として世界は神々によって作られており、戦闘大陸を中心に北に獣王国ライゼガング、北東に聖王国リンダーツ、東にイングーラン王国、東南東にベルヘルド公国、南東にラペルト自由商王国、南にウィンブレール共和国、南南西にマイゾ王国、西にギルムレッド帝国、北西にライダーツ騎士団領がある。
ふと、古代から砦や城塞都市がある場所を思い浮かべ、私はひとつの仮説を立てた。
各地へ向かう街道でも主となる通りに面した場所で各国の勢力地と戦闘大陸に接するとされる位置にある場所であり、国によっては出入口となる場所が少ないところでは非常に重要な拠点となる。ただし、旧街道を使えば殆どの国ではあまり意味は無い……が、『外なる者』達が旧街道の存在を認識していなければ話は変わってくる。
なるほど、あまり他国の事は考えていなかったが、ここのような城塞などの拠点に関しての防衛は非常に重要度が高いということか。しかし、帝国軍部は何故『外なる者』が重要視する地域に対して重要度を下げて中央幹部から外れた者や厄介者をこちらへ送ったのだ?
軍部にとっては現状どうでも良い案件なのだろうか? それとも何か別の理由があるというのだろうか。考えても現状では分からない事ばかりだ。
「どうされました? 難しい顔をされてますが……」
「い、いえ、何でもございま――いえ、少し考えていたのですが、ガンナムル城塞の場所を考えると非常に重要な拠点なのですよね?」
と、私の質問に彼女は不思議そうな表情をし言葉を選ぶような仕草をしてから口を開く。
「マイゾ王国の方々からすれば非常に重要な拠点でしょう。我々、共和国の人間からすれば帝国の皆様が考えるレベルと同じでだと思います」
ウィンブレール共和国とマイゾ王国は最近戦闘があったと報告を受けていたので関係はそれほど良くは無い同じように帝国もマイゾ王国との関係は悪化していく一方だ。
と、いう事は共和国はガンナムル城塞を押さえつつ戦闘大陸への出入口付近を帝国へ近づけたくは無いということか。
帝国は現状全方位で敵を作っているが、大勢の『外なる者』が集まっている地であり、噂では主戦場を北側へ移すという話も聞く。
何か大きな陰謀もありそうだが、私には遠い話しだ。
「そうなのですね。我が国の軍部はあまりこの地方には興味が無さそうでしたが、我が国の『外なる者』達はここの防衛は重要だと言っていたので不思議だと考えていたのです」
「そうなのですね。優秀そうな方がその重要で無い拠点にいるという事は上司に恵まれてらっしゃらないのですね」
と、柔かに彼女は言った。
戦場から逃げ出そうする人間を優秀そうだとは皮肉めいた言葉だ。悪い気はしないけれど残念ながら私は帝国所属の軍属なのだ。共和国の人間がこれ程に羨ましく思った事はない。
「で、時間も時間ですから、そろそろ結論を仰っていただけないでしょうか?」
「ははは、でしたね。残念ながら、我々には拒否権はありません。それに仲間を少しでも助けれるというならば協力する事も吝かではありません」
そう言って私は苦笑した。
ちえるん「そもそも、レベル差がある場合って倒せないんじゃないのですか?」
るーこ「んー、それは確かだけど……そもそも、そんな敵を配置する?」
ちえるん「人為的配置なんですかね?」
るーこ「さすがに不自然すぎるでしょ? 意味のない配置はしないから、何か意味があると思うのよ」
ちえるん「確かに気になりますね……」
るーこ「てなわけで、今度一緒にひと狩り行こうぜ?」
ちえるん「(るーこさんとおでかけ!?)」
どしたの?(*‘ω‘ )(‘ω‘ *)な、な、なんでもありませんわ!
(*‘ω‘ )おねーちゃん、なんでお嬢様言葉……
次回は視点が戻ってきます!




