ガンムナル城塞攻防戦 その3
帝国側は冷静さを欠いた動きで森の中を進軍する。
彼等はまだ気が付いていないけれど、召喚の足は人と比べると非常に速い。召喚体の肉体も非常に頑丈で人では簡単に倒せないようになっているらしい……けれど、ダメージや地形効果などは普通に入る。
だからこその仕掛けとなっている。
誘導する部隊はポイントBで姿を消し、別の部隊がその役割を引き継ぐ。
躍起になっている敵には部隊が入れ替わっているなど、気が付きもしない。そして思っているハズ。自分達の速度なら確実に追いつける。戦乙女は対人向けの召喚で人に与えるダメージアップと数種類の対人用デバフ効果を持っている。例えるなら超縮小版冷血帝ヴェルスのようなユニットであるらしい。
彼等の猛追は彼等自身の視野を狭めさせ、そこにある危機に気が付きにくい状態を生み出し一歩、また一歩と仕掛けられた罠に近づいていく。
先頭を駆ける戦乙女を守る騎士2体が不意に何かに引っ掛かったように態勢を崩し倒れる。しかも、かなりの深手を負っているように見えた。
「何が!?」
声を発したのは戦乙女であった。そして、罠に気が付いた騎士が引き返そうと動くが彼も罠に掛かって派手に地面を滑る。
そして、そこに弓矢と魔法の集中砲火が飛び、彼等の体力を奪っていく。しかし、召喚ユニットはそれくらいでは簡単に倒されないほどに強靭で多くの体力を持っている。
「ミソスープさん、お願いします!」
「りょーかいッス!」
巨大な魔物にも十分通用可能だとお墨付きの即席バリスタを使用して敵召喚に槍を矢として撃ち込む。太い木で作られた矢を置くカタパルトと木の間に張った魔物素材である強靭な弦と太くて撓りのある木2本を使った簡単な装置だけれど、攻撃力はかなりあるハズです。
特に自軍でも大剣や戦斧、戦槌を使っている力自慢達数人がかりで引っ張り、放たれた矢――いいえ、槍ですが、その槍もクオンさんや他の傭兵団が持ち込んでいた強化武器で、一部プレイヤーから勿体ない使い方するなよ。と、槍使いのプレイヤーからツッコミを受けたけれど、その効果は覿面です。
また、召喚は移動速度が人と比べて随分速いのですが、移動阻害系スキルの効果は絶大で、重力場や沼地化のスキルで相手も逃げようにも逃げれない状態を作り出すことで、相手の体力と精神力を減らしていく。
私達はその様子を見守りつつ、その後を追ってきた敵を迎撃しに向かう。
「召喚は任せましたので、私達は敵部隊を混乱させつつ攻撃部隊は城へ!」
私はチャットでそう伝え、召喚が滅多打ちにあって焦っている敵部隊側面へ突撃する。最前線の攻撃役はみゃー達盾持ちの戦士で、出会い頭に敵をメイスで吹き飛ばし、気が付いて追ってくる盾持ちを素早く盾で叩き付けて動きを止める。そこへ私とるーこさん含めたアタッカーが突入して乱戦状態を作り出す。
そして、私達は駆け抜けるようにその部隊を放置して、再び森の中へ姿を眩ませる。
こういった深い森の中で混乱状態になると、さすがにマップが見れるからと言っても、一瞬方だけでも方向感覚を失ってしまいがちです。これを利用して時間を稼ぎ、且つ自分達が移動する時間を作ります。
ちなみに召喚を釘付けにしたのも、自軍召喚が来るまでの時間稼ぎです。自軍の召喚到着と同時に移動して次の目的地へ向かいます。
ガンムナル城塞は北側を崖に三方には高い城壁がある非常に強固な城ですが、幾つかの出入り口があることが判明しています。
南方にある大門は跳ね上げ式の橋がある城門で、城の正面玄関にあたります。次に北側にある出入口。こちらは通用門のひとつで城の裏口にあたります。しかし、この二つは共通してキチンとした出入口となっていて馬車や物資搬入なども可能な規模となっているので、当然、攻めにも守りにも使用しやすい場所となっている。
そして、どちらでもない出入口が二カ所存在することに気が付いたのです。城壁東側に建つ見張り塔部分から、少し離れた荒野の真ん中と城壁西側近くにある朽ちた遺跡が残る墓所として使用している場所。ここは事前に斥侯として数名が調査を行っており、怪しいとマークをしていたそうです。
これに気が付いたのは、宣戦布告をする前から戦争の準備をしていた傭兵団のひとつで、布告前の大混乱時に帝国側のNPCが突如として目撃されたことに端を発する――
『もしかすると、プレイヤーが知らない秘密の抜け道があるのではないか?』
因みに、その疑問に対する答えを提示したのはクオンさんでした。事前に名斬さんと、とある謎解きをしていたそうですが、その時、秘密の回廊があるのではないかと、思ったそうです。
古の時代、戦闘大陸と呼ばれる前には巨大帝国アーダーマという国があり、古い歴史書には、ガンムナル城塞のある場所には巨大な城塞都市が存在していたという記載があったそうです。その都市は高い塔と深い地下迷宮があったのですが、高い塔は幾度も続いた戦いによって崩れて地下迷宮だけは残ったらしいのですが、その地下迷宮の一部がガンムナル城塞の地下と繋がっているのではないかとクオンさん達は考えているそうです。
しかし、何故プレイヤーがそのことに気が付かなかったのか? 最もな疑問を多くの参戦プレイヤーが考えました。そして、ミソスープさんが言いました。
『通常時はプレイヤー通行禁止区域ってあると思うッスけど、それじゃね?』
確かに戦闘時と通常時で仕様が違うという場所が幾つか存在する。みたいな話を幾人かのプレイヤーが話しました。しかし、そこで再び疑問。戦闘時もプレイヤーが通れるのか?
『戦争時は通常マップから、戦闘マップへ移動しているハズで、一応仕様上は戦闘マップとして設定されている領域からは戦争が終わるまで出ることが出来ないが、戦闘マップとして設定されている領域内はどこへでも移動可能なハズ』
実際、誰も試してはいないから分からないけれど、隠し通路や隠し部屋など、マップによっては存在する。またはした。と、いう報告があるから、可能なのではないか? と、いう答えに達し、幾つかの部隊を使って戦闘中に調べて貰っていたのです。
『移動可能とかエアプかと思ってたわ』
そう呟いたのは、その報告を受けた時にるーこさんが言った呟きだった。壁抜きなどで自分で通路を作るような人が何を言っているのでしょう。と、思ったなど一言も発しません。
少し自分の事は棚にあげる彼女のスタンスは嫌いではありません。とても、るーこさんらしい発言です。
そんなやり取りの結果、膠着状になった場合の別案として幾つかの部隊を西側墓地と東側荒野へ分ける事になったのです――
森側はクオンさんが本陣を押し上げる事で対応。一部南側で死んだ人が北側へ復活して人数を増やし戦線のバランスを調整しているようです。
「急がないと敵は直ぐに気が付くと思うんだけどね」
みゃーは荒地に点在する遺跡と見られる朽ちた建造物をメイスでガンガン叩きながら言った。
「まぁ、そりゃそーッスね」
ミソスープさんもそう言った。
「えっと、お姉ちゃんは気付いてない?」
私は思わず首を傾げた。周囲の人達は私に不思議そうな視線を送る。
「どういう事でしょう?」
「敵の魔尖塔の領域内の事忘れてるかなって思ったんだよ」
そう言われて私はポンと手を叩く。確かにそんな事がありました。だから、小魔尖塔を建築していたのでした。
「自軍の魔尖塔領域内は相殺されるのでは?」
「それは確かにそうなんだけど、敵が魔尖頭を建てた事が分かるから、そこには部隊がいるって分かるよね?」
「なるほどです。でも、魔尖塔を建てるにもマナがいるって話よね? 結構な量が必要なのではない?」
「そりゃ、そうッスけど、そこはあまり気にしなくても大丈夫ッスよ」
「そうなのですか?」
「魔素溜りは基本的に戦争中は無限に沸く設定ッス。一応、場所によっては無限ではないッスけど。今回自軍が確保している魔素溜りは無限沸きッス。ただ、本陣から離れてるここでは、あと数回建てたら終わりッスね。敵に潰されると、それはそれでポイント負けしちゃう可能性もあるんで」
戦争時では魔尖塔を倒すことで、ポイントを得ることが出来るので、対人戦より魔尖塔を倒せと指示が出ることが大いにあると、るーこさんが話していたことを思い出します。
「なんにせよ、急いで探さないといけない……と、いうことですね」
「ま、そうッスね」
出入口として利用されている形跡があるハズなので、そこまで目立たないということは無いと思うのですが、周囲の様子は岩、石、砂ばかりで景色も何という事は無い雰囲気。
ただ、思っているより起伏のある地形ということを考えると、分かりにくい場所があるのかもしれませんね。
「洞窟みたいなのがあれば簡単に分かるんだけどね」
「るーこさん、そこは野生の勘でなんとかなりませんか?」
「せめて、女の勘とか言って欲しいところだけど……とりあえず、遺跡らしい岩や崩れた壁とか柱を徹底的に調べるしかないわね」
るーこさんはそう言って遺跡とみられる巨大な柱を思いっきり殴った。ズシリと重い音が響いたけれど、何も起こらない。周囲の視線を集めただけでしたが、彼女は無言で付近の岩や遺跡の壁や柱を次々に殴ったり、蹴ったりと攻撃を繰り返した。
因みに、その幾つかは粉々に砕けていました。道具なしで素手で破壊可能なんですね。驚きです。
「出入口なんて簡単に見つかる分けないわね」
と、るーこさんは呟いた。私もそれは仕方のない事だと思っていたけれど、カレンさんがそれを否定した。
「簡単かどうかは別として、すぐに見つかるわよ」
そう言って彼女は周囲をウロウロと歩きながら、上を見たり下を
カレンさんは何かに導かれるように周囲を歩き、半分ほど砂に隠れている遺跡の床か壁かは判別出来ないような場所で足を止めた。
「多分ココね。荒地というより砂漠に近い場所だから、強風で半分くらい隠れてる所為で分かりずらい感じになってるのよ。多分、この地面のが扉なんだと思うわ」
「なんで分かるのですか?」
私の疑問に答えたのは、るーこさんです。彼女は小さく息を吐いてカレンさんの傍へ進みつつ、拳を握り直し悪戯な笑みを私に見せた。
「弓のスキルよ。《風読み》だっけ?」
「ご名答。弓のレベル25のスキルで弓矢が受ける風の影響を減らすと共に風が視覚的に見えるってヤツ。普段はこういう場所は強風で難しいけど、たまたま風が少なかったからスグに気が付けただけよ」
どうやら、地下から吹いてくる隙間風に気が付いた事で地下への入口が判明したのですか。有用なスキルだと思うので私もレベルを上げたら覚えておきましょう。
「そいっ!」
と、私がアレコレ考えている間にるーこさんが分厚い地下への扉を破壊した。
「やるとは思ってたッスけど、ブチ破れるもんなんッスね……」
「いやぁ、マグレよ、マグレ。ちょっとやってみたら、まさか壊しちゃうなんて(๑>σ๑)」
うん、確信犯です。幾つかの柱や岩を殴っていたのも破壊できるかチェックしていたのでしょう。拳闘士の手甲装備時、その破壊力は武器種の中ではトップクラスだとるーこさん本人が言っていたので間違いないでしょう。
ただ、クオンさんが言っていた蘊蓄では各武器種毎に破壊しやすいオブジェクトが存在するらしいのです。
斧なら木を切り倒しやすい。とか、そういう話しなのでしょう。
「一応、スキルだからね? 私が馬鹿力ってワケじゃないからね?」
と、るーこさんは言っていますが、るーこさんは筋力と素早さに特化したボーナスステータスを取っている筈なのでゲーム的にはかなりの力持ちの筈です。
因みにみゃーは筋力、バイタリティの二極と言っていたので、るーこさんと似たり寄ったりの筋力を持っている筈です。
「ちえるんもソコソコ高いんじゃないの筋力?」
「残念ながら、知力に値を振っているので思っているほど高くありませんよ? SP確保でスキルを使った回避がメインなので。速度は高めですけど」
「まぁ、ゲーム的に速度は必須パラメータだからね」
「武器種にもよるッスけど、メインAGIのプレイヤーが多いッスね。で、誰から突入するッスか?」
「そうですよね……」
カレンさんが見つけて、るーこさんが破壊して開けた地下への入口はどこか冷んやりとした風が吹いてきており、不気味な雰囲気を醸し出しています。
当然、先頭は防御力の高い面子に任せるのが良いでしょうが、広さはそこまで無さそうなので隊列を組んで進んだ方が良いでしょう。
「では、先頭はみゃーるんにお願いします。その後を私、るーこさん、カレンさん、ミソスープさんでお願いします。ついて来て頂いている【ガリガリボーイズ】の方々は後衛、中衛、前衛の順番でついて来て下さい。一応、後方からの攻撃に備えて最後尾の方々は警戒をお願いします」
と、私は指示を出し地下へ向かうのでした。
味噌汁「召喚に罠は流行りそうッスね」
名斬「確かにでござるが、物資の持ち込み量が多くて面倒で御座るよ」
味噌汁「クオンの持ち込み量がオカシイってのはあるッスね」
名斬「それをいうならお主もで御座ろう?」
味噌汁「気のせいッス」
ちえるん「あの二人、仲いいですね」
カレン「まぁ、付き合い長いからね」
ちえるん「他のゲームからってことですか?」
カレン「特にクオン、ミソ、名斬の三人はリアルでも交流あるくらいだし」
ちえるん「カレンさんは?」
カレン「私はそういうのはパスで」
るーこ「リアルとヴァーチャルは切り分けるタイプなんだよね」
カレン「そうよ。リアルのことなんて出来るだけ知られたくない」
るーこ「ふーん……」
ちえるん「何か気になる感じですね」
カレン「フンッ、知らないわよ」
あ、そんなこと言っていいんだ(*‘ω‘ )(‘ω‘` *)う、うっさい!
(*‘ω‘ )ツンデレさんですね
暫くは週に二話ペースで更新出来れば……とか、
考えてます。
引き続き応援よろしくです!!!




