解体少女
解体回です。
グロ苦手な人は我慢だにゃ!
エントランスホールの端に『獣の紋章』が描かれた看板があり、看板の近くには地下へ降りる階段があった。職業案内所の女性職員が言っていた場所で本当に合っているか分からないせいで美弥と私はどうしようかと顔を見合わせていた。
「地下ってのがすごく気になるけど……本当にここであってるのかしら?」
「うーん、やっぱりそこが気になるところだよね」
美弥はそう言って暗い階段の奥を覗き込むけれど、特に目立ったモノが無くてヤレヤレといったポーズを取って首を横に振った。
「とりあえず、ヤダけど下りてみよう」
こういう時に思いきりがいいのは美弥の良いところ。
「それにしても、ここの階段ってとても狭いわね……」
「うん、だから不安なんだよね。ほら、ゲームっていうかファンタジーの世界だと、もっと大きい魔物とか運び込むから、すっごい広い場所がないとダメだと思うんだよね」
「そういえば、解体って普通はしないの?」
「倒した敵って消えちゃうことが多いね。大体はドロップ品として、素材が出てくるってのが多いんじゃないかな。でも、全く無いわけじゃないんだよ。『地平線を超えて』ってゲームだと殆どの敵を自分で解体したり、合成したり出来たから……ただ、敵は全部機械だったけどね」
そう言って美弥は苦笑する。私達の場合、都会の子達にはあまり経験したことが無いであろう動物の解体経験がある。これは父親の趣味が――いいえ、職業が冒険家だからだ。小学生から中学生の頃はよく未開のジャングルや、人の殆ど入ったことの無い無人島で短い場合だと数日、長い時は夏休みの殆どを過ごすなんて年もあったくらいだ。
おかげで、ナイフの扱いもお手の物だ。
ただ、美弥の料理の腕だけは、全くもってあがらなかったのは美弥七不思議のひとつである。
「ま、考えれば考えるほど、普通の女子高生が解体なんて出来ないよね」
「あら? ガールスカウトとかで、鳥を捌くなんてのもあるって聞いてるけど……多少は経験がある人とかいるのではないの?」
「んー、クラスの友達にはそういう人はいないなぁ」
「まぁ、私もいないけど……探せば普通にいると思っていたわ」
「んな馬鹿な」
美耶に否定されて、私は自分の感覚がややズレていると認識する。まさか殆どの人は解体さえした事がないとは。
「ちなみにお姉ちゃん。魚を捌くのも殆どの人がした事無いんだよ」
「さすがに嘘はいけないわよ。日本に住んでいてお魚を食べたことが無いっていうレベルの話よ? と、いうかお魚を捌けなくてどうやってお魚食べるの?」
「切り身で売ってるでしょ? こないだ便利だって言ってたじゃん」
口を尖らせる美耶も可愛いわね。
確かに家でマグロとかエイとかマンボウを捌く事は無理っぽい。それを考えたら、でも鯖とか秋刀魚とか普通に売ってるし鯛や鯵だって捌けないと大変じゃ無いかしら?
流石に河豚は資格がいるから無理だけど。
そんな事を考えている間に地下階に到着する。そこは入口は狭かったがすごく広いフロアとなっていた。
そして、すぐに私達に気がついた女の子がパタパタとこっちにやってくる。
クセの強い深緑の髪の毛が印象的な可愛らしい女の子だ。
「あ、あのっ、ここは解体場ですが何かご用ですか?」
あら、なんて可愛い。思わず従姉妹のコ達を思い出しちゃうくらいに可愛らしい。
「っと、ここは解体するとこですよね?」
私がそう訊くと女の子は不思議そうな顔をする。
「えっと、そうですけど?」
「私達、少し解体したいのだけど、いいかしら?」
「何を解体するんですか?」
私は美耶に視線を送ると彼女はコクリと頷きインベントリから蛇と猪を取り出す。因みに私はウサギ担当だ。
「こちらで買い取ってもいいですけど? 解体手数料はいただきますけど」
「いいえ、自分達で解体するのです。もし問題がありそうなら仰って下さい」
「えっと、大丈夫ですか? 流石にウサギは数が多いと思うのです」
「確かに……みゃーはどう思う?」
私が美耶にそういうと美耶は嬉しそうに答えてくれる。
「ウサギ2匹くらいかな。猪1と蛇は自分達で後は全部売ればいいんじゃ無いかな?」
「いいですか?」
「ええ、解体手数料っておいくらなのかしら?」
「大きさや魔物の種類で変わります。1匹あたりの相場だと大体1割が解体手数料になります」
「こちらで解体する場合はお金はいるのかしら?」
「いえ、解体台が空いていればお代はかかりません。ただ、すぐに解体できないような巨大な魔物に関しては人足代や所場代をいただくこともあります」
「では、解体台を借りましょうか」
「分かりました。彼方にいるおっきな人……ガントっていう男の人に言ってください。私はこれから残りの魔物の査定と解体の準備をしますから」
「ええ、よろしくお願いするわ。お嬢ちゃん」
そうして私達は自分達で解体する分の魔物をインベントリに戻して言われた通りに解体台の方に向かう。
「んだ? こっちに何か用か?」
「熊みたい!」
「みゃー、いきなりソレは失礼よ。確かにクマさんみたいに大きな人ね」
「褒められてるのか貶されてるのか……まぁいいや。で? ミルが相手をしてたと思うが?」
クマのような大男。彼がガントなのだろう。
「女の子……ミルちゃんは今、私達が出した魔物の査定をしているわよ」
「ま、だろうな。で、あんた達はどうしてこっちに来たんだ?」
「それは当然解体台を使いに来たんです」
クマは驚きの顔をして益々クマっぽく固まる。
「すまねぇ、もう一度言ってくれないか? どうみても解体なんて出来そうにないお嬢ちゃん達が解体台を使いたいと聞こえたんだが?」
「聞き間違いではありませんよ」
「そうだよクマさん」
「クマじゃねーし! ってかマジか?」
「もしアレでしたら見ていきますか?」
「おう、そうさせてもらうぜ」
クマみたいな人に見守られつつ、私達は解体作業を始める。
「先ずはウサギからだね」
そう言ってから美耶はあることに気がついてクマさんに質問をする。
「そう言えば水ってあるの?」
「水? ああ、水を出す魔導機があるぞ。魔力は自分自身で使うことが前提ではあるが潤沢に使えると思うぞ」
「それだけ使い方を教えてアーンド貸して、あ、人数分ね♪」
「まぁ、それくらいはいいが……」
「あんがと!」
一応、血抜きはしておいたけれど、まぁ、水が使えるなら使った方がいいものね。
「ちょっとサイズが大きいから、あの方法で内臓出すのは無理だね」
「そうね。お尻から開いて内臓を取り除きましょう」
「だね。どっちが早く捌けるか競争する?」
と、挑戦的な顔をする美耶。全く仕方ない妹だこと……そこがまた可愛いのだけど。
「仕方ないわね。じゃ、始めるわよ」
そう言って私は巨大なウサギの肛門から短剣を差し入れてウサギを開いていく。
クオンさんにレクチャーを受けながらウサギを狩まくっていた時に少しだけ時間を貰ってウサギの頭を潰して逆さにして木に吊るして血抜きをしたのだ。
またインベントリに入れると時間が止まるのでまだウサギは新鮮そのものである。
手早く内臓を取り出して先程教えてもらった魔導機で水を作り出してウサギの内側を洗って行く。そして、次に頭を落として皮を剥いでいきつつ、後脚や胸背中など部位に分けて肉を捌く。
「うん、すげぇ手際だ……が、ちょっと待て」
と、クマさんから待ったが掛かる。美耶が不機嫌そうにクマさんをキッと睨む。
「ま、待ってくれ。別にウサ公の肉を取ろうってわけじゃない。魔石をちゃんととらねぇーとダメだぜ」
その一言に私は首を傾げるが美耶は「なるほど」と、納得の表情を浮かべる。
「魔石ですか?」
「魔石だよ魔石! お姉ちゃんってば、ここはファンタジー世界だよ」
「ああ、魔物からは魔石が取れるのですね」
「当たりまえだ。魔物に魔石がなきゃただの獣だ。商品価値としては肉より魔石だ」
クマさんは丁寧にどこに魔石があるのか教えてくれる。ウサギや猪のような魔物は心臓の辺りにあるらしい。気になって大蛇の魔石位置を聞いたら頭にあると言われて私と美耶は肩を落とす。
「頭置いてきちゃったね」
「そうね、明日からは気をつけましょう」
「んだ、勿体ねー話だぜ。グアラックスネークだったら、魔石次第だが50小銀貨以上はするぞ」
と、クマさんは言ったけれど、私達は貨幣価値が分かっていないのでイマイチ響かない。
これも後で調べないとダメですね。
そんなやり取りをしながら、猪と大蛇の死体も綺麗に解体して、肉と毛皮とツノや革、他にもクマさんの解説で色々な素材として使える素材を分けてインベントリに仕舞った。
「はじめはどうなるかと思ったが、なかなかやるじゃねーか」
「ふふん、それほどでもないわね」
「もうみゃーったらお調子者ね。クマさんも色々と教えていただいてありがとうございました」
「まぁ、いいってことよ。な? ミル」
「はい、驚きでした。最近来る方達は自分で解体なんてしませんから……あ、持ち込まれた魔物の査定ですが、ウサギが18、猪が1で、なかなか良い魔石が入っていたので大銀貨15枚、小銀貨80枚と大銅貨60枚です。そこから手数料として大銀貨1枚、小銀貨50枚引かさせて貰います」
「大銀貨14枚、小銀貨30枚、大銅貨60枚ね。安いのか高いのか判断がつかないのは困るわね」
私がそういうとクマさんが「んなこともわかんねーのか?」と、言って色々と説明をミルちゃんが教えてくれた。
クマさんは数字の計算が苦手なのかしら?
ともかく価値的な話をすれば、街に暮らす普通の人がひと月に掛かる生活費が大体大銀貨10枚らしい。
大銀貨の上には金貨、大金貨、白金貨と存在しているらしい。また、この貨幣はこの国でしか使えない物で他国に行く場合は大陸金貨と呼ばれる貨幣に交換しなければいけないらしい。
「とりあえず、みゃーとお金は半分にしましょう」
「オッケー」
「それではありがとう御座いました」
「ああ、またな」
「またお待ちしてますー」
と、クマさんとミルちゃんに別れを告げて元のエントランスホールに戻った。
まだ勢いに任せて書き続ける流れです。
急に寒くなって起きれない病いに悩み中。
次は絶対職探しですよー