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ガンムナル城塞攻防戦 その1

 宣戦布告を行う際にこの戦場マップがガンムナル城塞攻防戦ということを初めてしり、思わず「そんな名称があるんですね……」と、呟いてしまった。


 因みに今回、私の提案で本陣を北側の魔素溜りのやや南方にしたわけですが、一応、南側にも多くの人数が集まっています。そちらは他の傭兵団の方に任せることになり、【鋳薔薇の森】は全員が北側に集結することになりました。


 私達が敵にドラゴンを嗾けている間……というより、るーこさんが戻って来た段階で既に出発していたと、いうことを考えるとクオンさんは私が移動を開始した段階で既に準備を進めていたということです。他の人達に黙って色々とするのは出来れば自重して欲しいところです。


 因みに、私に伝えて無かったことがバレてドヤ顔をしていたのが気に入らなかったるーこさんに蹴り飛ばされていました。まぁ、自業自得因果応報です。


 ともかく、私は作戦会議のことを思い出しつつ、戦闘開始と共に刀を抜き天に掲げます。


「敵は混乱しています。勝利を我らに! 全軍行動開始!!!」


 こういうのをすると、NPCの指揮が上昇するというるーこさんとクオンさんの助言です。正直言って、少し恥ずかしいです。が、少し気持ち良いと思うところもあります。


 NPCへの各指示はクオンさんが構築していくそうなので、私達は基本的に前線で敵をなぎ倒しながら城内へ侵攻するのが目的となります。一見、分かりやすい話なのですが、敵の大魔尖塔(オベリスク)は城内の中心部に存在するらしく、そこまで行かなければならないのは非常に面倒だということはハッキリしていて、普通、この手の攻防戦では戦場に設定されている最大時間まで戦って、プレイヤーのキル数や勢力の動きで獲得できるポイント総計を競い合うのが通例となっているらしいです。


 ですが、今回の目的は相手魔尖塔オベリスクの撃破です。上手くいけば、思っているより短時間で終えるかもしれないのです。それに、今回の戦法は一度しか使えない地雷作戦だとクオンさんは言っていました。


 確かに、毎回ドラゴンを引っ張るなんて無理ですし、とても面倒臭いです。リスクが非常に高い割には美味しくない戦法だと正直思います。と、いうか皆思っているのでしょうね。


 そんなことを考えながら森を駆け抜けて、崖の前までやってきました。


 敵は崖側へ来るためには大きく迂回して森の中へ入らないといけないので、直進で来れる私達の方が遥かに有利です。


「アレですね。意外と攻めづらい気がしてきました」

「人数的に圧殺すればいいんじゃない?」

「クオンさん情報でアレですが、この城塞って他と違って召喚が出てくるのが早いという話を考慮すると、序盤は防戦に徹してくると思うんです」

「あちらこちら、城は壊れてるっぽいけど……堅牢そうと言えば、確かに」

「特に南方からの侵攻も警戒はしないといけませんけど、時間的に出来る事を考えればとにかく防戦に徹して、消耗戦を仕掛けてくると思うんです」

「何か考えがあるの?」


 るーこさんが興味深そうに私に視線を送る。私はただの思い付きレベルではありますが、思っていることを説明する。


「ある程度、懸命に攻めてるフリって出来ないですか?」

「やれないことも無いでしょ」

「一定タイミングで引き気味に戦って、相手が有利だと思えば打って出てくると思うんです」

「なるほど。そのタイミングを見て、城を強襲する……と?」


 るーこさんが、楽しそうにそう言いました。しかし、私は首を横に振ります。


「はい?」

「強襲するのは城を出て来た部隊を襲います。その仕掛けをするのに皆さんの強力が必要となりますけど……如何でしょう?」

「なるほど……私達は何をすればいいのかしら?」


 と、るーこさんは挑戦的に笑った。



 ◇ ◇ ◇



「もうちょっと戦ってたかったわね」


 るーこさんがそんなことをボヤきながら、私の指示に従って足罠を作っていたけれど、その手を止めた。


 私達は序盤だけ、崖下に降りて乱戦の中で暴れまわり、そのまま罠を張る予定位置へ移動した。一部、安全策を取って撤退する傭兵団の人達も巻き込んで作業して貰っている。


 現状はクオンさん指揮の元、勢い良く攻めているフリが続いている。NPCの人達に損害があまり出ていない情報を名斬さんから聞いたので、その辺りは上手くクオンさんが仕掛けているのでしょう。


「また、後で存分にやってください」

「へいへい」

「それにしても、枝と蔦で跳ね上げ式の罠なんて作れるのね……専用の道具でやるものだと思ってたんだけど」


 そう言ったのはカレンさんだ。彼女には生えている草を束ねて括るだけの簡単な罠を頼んでいる。


「でも、わざわざ草が生えているところって通らないんじゃないの?」

「こういった自然をよく分かっている人は獣道を通るので、そっちにもちゃんと罠を張ってますよ。ほら、そこの木の間にあります」

「あー、何となく分かる」

「近づくのは危険なので近寄らないで下さいね」

「草が生えているところは意味あんの?」

「はい、そこはゲーム感覚で進んでいる人が掛かってくれるといいなぁ。と、思ってます。それにしても助かりました。弓の弦が結構な量あって」

「持ち込んでたクオンが色んな意味で怖いわ……」

「ま、愚弟クオンだからね。凄いのかアホなのか分からないところもアイツの凄さなのよ」

「おかげで、色々な罠が作れて作戦に幅が出そうです。それにしても、ミソスープさんが嬉々としてブービートラップ作りに勤しんでいるのが、少しアレですが……」


 私が説明する前に作業に取り掛かっていたのはミソスープさんだけだった。しかも、複数の罠で誘導して最後は確実にブービートラップに掛かるようになっている、結構大がかりな仕掛けになっています。足罠の幾つかは私が即興で作らせて頂きました。


「アイツは罠好きなちょーっと変わったヤツだからね」


 と、るーこさんがテキパキと足罠を完成させて、そう言った。さすが経験者は早いです。


「そう言えば、弓の弦を使ったトラップって結構高い位置に設置していたけど、アレは問題無いの?」

「はい、計画通りですから大丈夫です」


 と、カレンさんに返事をすると「そ、それならいいけど」と言って彼女は視線を逸らせた。何ですか? 何なのでしょうか?


「べ、別に心配したワケじゃないんだからねっ!」


 私達の様子を聞いていたミソスープさんが裏声でそう言った。


「ツンデレさんですか? そうなんですか?」

「う、うっさい! ミソめ……全く余計な事を言うなっ!」

「って、弓を撃つのは無しッス。フレンドリーファイアでダメージは無いっすけど、攻撃判定はあるッス! 痛く無いけど、痛い気持ち……ん? 新たな道?」

「ミソ殿、それは開いてはいけない扉でござるぞ!」


 そんなやり取りをしながら、地雷原が如くかなりの範囲に罠を仕掛け、再び崖側からの攻勢に参加します。


 因みに、罠の位置はプレイヤー間で印やマップのマーカーなどで情報共有を行い、味方が罠に掛かるのを防ぎます。


 南方から攻める自軍はプレイヤー参加数が多くないのもあって、お互いに均衡した状態が保たれており、北側も防戦一辺倒で戦う相手を崩すには至らない展開が続いていて、この後の展開で大きく変わるとすれば英雄召喚というカードを切るタイミングになるのでは無いかと思います。


 相手は素早く集めたマナで召喚を次々に出してくる中、自軍も対抗して召喚を繰り返してはいるが、どちらが優位か? と、いう状況は未だ見えずという状況。こちらも完全に均衡した状態です。きっと英雄召喚をするならそろそろなのでしょうね。


 そんな事を考えていると、るーこさんが空を見上げた。


「帝国は英雄召喚の準備に入ったわね」


 木々の間から巨大な魔法陣が出現してゆっくりと動き出す。なかなかファンタジックな映像に思わず息を飲むと、反対側からも声が上がる。


「こっちも準備に入ったっぽいッス」


 ガンムナル城塞の逆側、自軍本陣がある方向でも同じように巨大な魔法陣が出現して動き出す。


「相手の英雄召喚って予想可能ですか?」

「ええ、たぶん呼ぶなら状況的に冷血帝ヴェルスだと思う。エミリアたんとは違う意味でヤバいヤツね。強力な範囲デバフとドットダメージ……って分かる?」


 るーこさんが心配そうに聞いてくる。一応、色々と美弥から教えられて覚えている最中ではあります。デバフはバッドステータス――所謂状態異常。色々な効果が存在するそうですが、そこはあまり経験が無いので分かりません。ドットダメージ、ダメージ・オン・タイムの略でスリップダメージとも呼ばれる効果で、一定時間や範囲効果で起こる継続ダメージのことだと記憶しています。


「はい、みゃーから教えられた範囲ではありますが、大丈夫です」

「なら大丈夫ね。ヴェルスに近づくと周囲が薄暗く感じて、恐慌状態っていうバッドステータスになる。これはまだマシといえばマシな方、ただし、手振れが止まんなくなるからカレンみたいな弓や位置指定の魔法なんかは使い物にならなくなる」

「それは面倒くさそうですね」

「まぁ、面倒ね。問題はドットダメージの方ね効果範囲はデバフと同様だけど、ヴェルスに近づけば近づくほどダメージが大きくなって、追加で別のデバフ効果を受ける」

「どんな効果なんですか?」

「こいつが実は結構な問題で、一定時間毎に裂傷を受ける。ただし、一定時間経てば自動で回復するから、死ななければ状態異常は解除される……」


 私は少し考える、近づけばダメージを受けて状態異常になって、さらにダメージを受けるようになる。ただ、内容だけ聞けば追加ダメージを受ける効果。ですが、言い方を考えると何が問題なのか分からず思わず首を傾げる。


「何が大きな問題かよく分からなかったよね。この裂傷の効果は重複するの、だからドットダメ+追加ダメを喰らって次のドットダメを喰らったら、さらに追加ダメが加算されていく。正直、初めは大したことの無いダメージなんだけど、一定まで近づいた時に気付くのよ。取り返しがつかないくらいにデカい追加ダメージが連続で襲ってきて――」


 そう言ってるーこさんは親指を立てて首のところでスライドさせる。


「ちなみに回避は……」

「無理ね。対抗する方法はあるけど、基本的には近づかないことね。ただ、やるとすれば今回は数少ない対抗方法で対処って形になるかな」

「予想ですけど、自軍の英雄召喚ですか?」

「うん、察しが良くてえらいわね」


 そう言って、るーこさんは私を撫で繰り回した。あー、なんだか思考が溶けちゃいます。ズルいです、とてもズルい人です。


「るーこさん! おねーちゃんがアホな顔になってる。ストップ、ストップ!」

「…………」


 るーこさんは美弥に止められて、残念そうに撫で繰り回すのを止める。ただ、すごく悪戯な顔をしています。楽しいですが、少し反省してもよいですよ?


「ま、一応説明しとくけど、妖精女王に出来るだけ近づきつつ遠距離からヴェルスをチマチマと叩きつつ、召喚でトドメを指す。ってのが対抗する方法ね。妖精女王の効果はバフとデバフなんだけど、バフ効果は近接攻撃には思っているほど有効じゃなく、遠距離攻撃の判定になる現象に対して効果が上昇する。後、防御力が大幅にあがる。デバフの方は敵からのデバフに対するデバフ効果で範囲内に近づけば近づくほど効果が薄くなる……ま、ヴェルスの真逆だと思ってくれればいいかな」

「なんだか、対になっている感じですね」

「そうね。初期選択出来る5つの国の各英雄の多くは対抗するような形でデザインされた効果を持つ場合がいくつか存在してる。冷血帝ヴェルスと妖精女王ナツェーリアみたいにね」


 るーこさんがそう言った瞬間、空に輝いていた魔法陣が光ってから薄っすらと消えていく。


 すると城塞の方から驚くほどの歓声が聞こえてくる。なんだか凄い盛り上がりです。


 そして、私達がいる城塞付近……アレは崖の方です。そこから何やら嫌な感じがするオーラを漂わせた長身でスラリとした金髪の男性が現れる。


「ヤバいッス。ダッシュで後退しないと非常にマズイッス」

「まだ、結構距離がありますけど……あ、なんだか、嫌な感じがします」


 私がそういうと、るーこさんが苦笑しつつ私の頭をソッと撫でる。すぐにそうやって何かを誤魔化そうと撫でてくるの分かってるんですけど、はぁ、本当にズルい人です。


「もっと近づくとビックリするくらい嫌な感じがするわ……でもね、今は取り敢えず後退かな?」

「そうですね、先程の説明だとすれば近づくのは問題がありそうですし」


 私達は急いで後退を始める。しかし、幾人かの自軍の他プレイヤーは英雄『冷血帝ヴェルス』へ攻撃を行う為に特攻していく。


「ったく! 無駄に死ぬなって! 全チャで言わないとマズイかもしれないッス!」


 そう勢いよくボヤいたのはミソスープさんだった。


「どういう意味ですか?」


 私達は森の中を自陣へ向けて走りながら、尋ねた。


「姐さんは言って無かったッスけど、アイツの最悪の能力はアイツの能力で死んだ数によってアイツがパワーアップするって仕組みがあるッス。アイツは気まぐれらしいッスけど、自分の能力を存分に生かすために本来は大規模な戦場にか降臨しない変わり者なんッス……」

「そもそも、召喚されると思ってなかった? と、いうことですか?」


 私がそういうと、他のメンバー達が苦笑する。だから悠長に色々と説明していたのですね。少し納得です。


「仕方ありませんね。では、とりあえず……」


 私は走りながらメニューを確認して、チャット機能をオープンに変更する。そして、メニュー内にあるマイクのマークを指差す。


(みゃーに教えて貰っていてよかったわ……)


 私はとりあえず、一度だけ咳払いをして声を整えてから、大きく息を吸って吐き出すように勢いよく声を出した。


「我が軍の北方本陣側プレイヤーにご連絡です。敵英雄には可能な限り近づかないように、上手く本陣側へ撤退ください! 南方の皆さんも頑張って下さい!」


 私は自軍向けの全体チャットを終え、再びチャット設定を傭兵団に戻す。と、皆が私を凝視しつつ走っていた。


「危ないですよ、よそ見してると……」

「うわー」

「っと、驚きのあまり走るのも忘れるところだったわ」


 因みに叫んだのはミソスープさんで木にぶつかりつつ、転び起き上がるという器用な事をしていましたが、現状誰もツッコミ無しです。


「そんなに驚く事ですか?」

「私はハラハラだった。まさかお姉ちゃんが全チャだなんて。明日は雨だね」


 と、美耶は可愛くウィンクをしてそう言いました。可愛いですけど、雨とは失礼だと思います。後で覚えていたらお仕置きです。


「まぁ、多少の注意で突っ込む奴が減るわけじゃ無いし、他のプレイヤーからヘイト受けるんで、気をつけた方がいいッスよ」

「親切心というより自軍の勝利を優先したつもりだったのですが?」

「えらい。えらいなぁ。ちえるんは、まぁ、ミソみたいな捻くれ者が多いから、説明するときはちゃんと丁寧にしないとダメよ。その辺りは愚弟クオンがやるだろうし」


 そう言った瞬間にクオンさんの声で自軍へ全体チャットが行われた。


『自軍北側本陣へ後退せよ。敵は強力なデバフ効果を持つ。死者数によって強化される為、近づくのは非常に危険だ。これから我が軍は女王陛下と共に向かう。女王の庇護下まで引くのだ。繰り返す……』


 と、同じ言葉が3度繰り返されて全体チャットは終了しました。うーん、なるほどです。でも、クオンさんばかりに頼っているわけにはいかないと思うのです。


 今回は私が意見して整えた自陣で、戦場なんですから。私はそう思いつつ、光る大地に足を踏み入れるのでした。

ちえるん「なんだか。あの黒くてユラユラしているのが気になります」

るーこ「ヴェルスの闇のオーラよ。絡まったり、殴ったり、剣の形状になって斬ったりしてくる」

ちえるん「近付いたこと、あるんですね」

るーこ「ある程度までは耐えれると思ってたのよ? 次の瞬間、意味不明なダメージ喰らって一瞬で溶けたわ」

ちえるん「範囲効果というのは卑怯ですね。それにしても、あの黒いのヌメっていそうで凄く不快です」

みゃーるん「あー、お姉ちゃんがヌルヌル事件を思い出そうとしている!?」

ちえるん「既視感ね。アレね、忘れない、忘れないわ。悲鳴あげてるのに大笑いよ……絶対ユルサナイ」


や、闇のオーラ!?(*'ω')('ω'*)と、いうか伯父様大丈夫?



今回は若干長めになってしまった。

しかも、説明で!


しまったと思いつつ後悔などせんよ。

せぬのだ……だぁ。


ふぅ、体調が乱高下気味のもいもいさんです。

私の体調のためにもブクマ評価宜しくです!

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