野営地にて
ゲームにログインすると、すぐに野営地に設営されているテントへ向かった私と美弥でしたが、テントに入って不思議な光景に思わず首を傾げた。
ログアウトしていた時間で言えば約2時間半、元々予定していた20時より30分ほど早く戻って来たのですが、ゲーム内時間で言えば5日もあるわけです――けれど、どうしてクオンさんしかいないのか。と、いう部分も疑問ですが、テントの中が完全に執務室になっており、大量に置かれた書類や謎の素材達。
一定時間ごとにログアウトしなければ、強制的にログアウトするというシステムが存在するハズ――と、思ったところで想像出来てしまったのです。
みゃーもよく言っていたことを思い出しただけですが『2時間プレイして15分休憩してまた戻る』で、私達はゆっくりと2時間半休憩しましたが、クオンさんは15分休憩して戻って来てから稼働しっぱなし。と、いうことなのでしょう。
「うわぁ、クオンさん。死にそうな顔してますよ?」
と、みゃーがそう言うと、クオンさんがこちらに気が付いたようで「そう?」と、死相が浮かんでいる顔で手を止めた。
「システム上で自動的に出来ることをあえて書類とかでやってみると、どうなるかって実験だけど、物量が多すぎて彼是二日も稼働しっぱなしだよ。あ、一応……もうすぐ、しょこらんと姉ちゃんが戻ってくるからログアウトするよ」
「クオンさん、順番を指示してましたよね?」
と、いうかゲーム内でも寝不足になったりするのでしょうか? 眠たくなったりするわけですし、やっぱりそういった事も起こると考えるのが一番なのかもしれませんね。
「ああ、一応は順番通りに休憩に入ったけど、15分は休憩した――って、言ってもゲーム内じゃ半日だけどね。こっちがログアウトしている間にミソと名斬が完璧な設営をしてくれて助かったよ。因みに寝不足では死なない仕様のハズだけど、アナログの書類仕事はヤバいね。こいつは精神を蝕む感じがするよ」
昔はいざ知らず、近年は紙を使って書いたりすることはかなり限られた人達の間でしか、行われていないので、そうとう慣れないことをすると疲れる……と、いうことでしょうか? ちなみに私は書籍などはアナログ派ですが古い書籍などになると、非常に高額でやり取りされるので昔の人達が少し羨ましいと思ったことがあります。
「ペンで書くって言ってもデジタルな時代ですよ? どれだけ旧時代の話なんですか、書類をアナログで作るって……私、本もデジタルでしか読んだことないですよ?」
「みゃーは本というよりコミックでしょ?」
「ラノベだってWeb小説だって読むんだからね!」
みゃーはそういいながら、プンプンと言って怒る仕草をします。何といっても美弥は可愛いのです。
そんな私達のやり取りとみて、クオンさんが小さく笑う。
「まぁね。……と、実際に物資の発注や命令書を書類で作ってNPCとやり取りしてるんだけど、意外と面白いことが分かって来たよ。隊長クラスの傭兵NPC以外は字も読めないらしい。ちなみにこれはゲーム的な仕様――いや、ワールドシミュレータ上でそういう風にしてるんだろう。日本語が大陸語として定着してるんだ」
「他にも言葉があるんですか?」
「ああ、一応幾つかの言葉があるみたいだよ。大陸語が苦手だという共和国でもかなり田舎出身の男と少し話をしたんだけど。その男の話だと共和国には古くからあるウィン語と呼ばれる言葉があるんだけど、面白い事にこれも日本語だった。但し、恐ろしいほど訛りがあってはじめは別の言葉かと思ったくらいだけどね」
「疑問なんですけど、このゲームって他の国の人達って困りませんか?」
美弥からの情報を少し思い出し、私は聞いてみた。正式サービス? が、開始された場合は他の国でも運営が開始される予定らしい。と、言っていたのです。日本語が分からない国では困るハズです。
「そこは翻訳用のプログラムを入れるハズだよ。そういうソフトは他にも結構あるからね」
「そうなんですね」
技術的なことはよく分かりませんが、映画の吹き替えみたいな感じなのでしょう。小さい時、不思議に思ったんですよね。英語版と日本語版で話している内容が微妙に違ったり、声が違ったりと、本当に不思議でした。別人が吹き替えをしている事実を知った時は本当に衝撃でした。
時折、自動音声解析による翻訳音声という話も聞いたことがあるので、そういう類のものなのでしょうね。
「ゲーム内で他国の言葉ってのも基本的には日本語をベースにした言葉になっているから、どこの国に行っても古い言葉でも日本語の方言を聞いているようなものさ」
「不思議な話ですね」
「まぁ、言語の統一はゲームとする以上は必要不可欠だったんだろうね。ただ、言葉や文字というのは文化的な部分に強く影響を受けるから、見た目は西洋系のファンタジー世界だけど欧米的な思考の人は少なくて、基本的には日本人的な思考や好き好みが強いってのは感じたね」
「いわゆる異世界転生モノの舞台みたいな感じと考えればいいんですか?」
「まさにそんな感じだね」
クオンさんはそう言ってから、幾つかファイルと資料をゲーム内システムで送ってくる。
「一応、デジタルデータにもまとめておいたから、みゃーるんと一緒に就寝前にでも読んでおいて。もうしばらくしたら、皆戻ってくるハズだからね」
「時間的に集合したら戦場へ移動ってわけでもなさそうですね……」
みゃーが首を傾げながらそう言った。
確か、戦場はもっと北にあるハズで野営地からは一日掛けて移動と準備をすると言っていたハズです。
「開戦して、終わるまで――まぁ、現実時間で30分~45分ってところかな。ゲーム内で約一日程度で終わると思う。戦後処理と雑談で半日持っておけば時間的に大丈夫じゃないかな?」
「と、いうことは今日は移動準備で、明日一日掛けて移動してから翌日に開戦。早ければその日中に決着がついて、残りは予備ということですか?」
「早めに決着がついた場合は相手からの宣戦布告が半日から一日の間にあるハズだから、その為の予備って感じかな」
「リベンジルールだね。同じ場所での戦場では現実時間である程度の時間が経たないともう一度戦場を開くことは出来ないんだったよね」
みゃーが自慢げにそう言いました。と、いうかそんな話を聞きましたね……確か。
一度布告して開戦した後、短時間で敵側が布告出来るのは一度だけで、次に同じ戦場では現実時間で数時間はその場所を戦場には出来ないルールが存在している……と、言っていたハズです。
「今回は戦場規模が小さいということですか?」
「まぁね。基本的には局地戦が多いから、数万人が参加するような戦場は戦闘大陸上では一日に一度か二度しか起こらないよ。そして、今回は砦を奪い合う――所謂攻城戦ってヤツ。場所的には敵国の所属になっている場所だから、こちらが攻める側。参加する傭兵団はどれくらいになるか分からないけど、サーバー情報とかの感じだと多くても両軍合わせて200……いや、300人くらいかな」
「傭兵NPCさん達を合わせると1000人くらいですか?」
私がそう言うと、クオンさんはニヤリとした雰囲気で「そうだよ」と、肯定する。
「因みに攻城戦は攻める側に人数が集中しやすい」
「どうしてです?」
「当然、攻城戦は攻める側の方が報酬にボーナスが付くから。防衛有利で、防衛側は参加人数が絞られるような仕組みがあるんだよ」
と、みゃーが自信満々に答える。クオンさんも「さすがみゃーるんだね」と、褒めちぎって美弥は調子に乗って自慢げです。可愛いのでそれは全然問題がないのですが、有利不利が元からあるというのはゲームとして考えた時、どうなんでしょうか?
「ゲーム的に有利不利が大きい戦場ってのがいくつか存在してて、そういうマップは不人気な戦場だから布告回数が極めて少なくなるんだ。今回の戦場は防衛有利マップである程度の人数差が生まれるけど、基本的に城攻めってのは敵が1としたら、こちらは3倍~5倍の兵力が必要になるんだ。特に今回の戦場は攻めずらいところで、プレイヤー人気は断トツで低い。ただ、マイゾ王国出身の傭兵は増えるだろうね」
確か、マイゾ王国が戦闘大陸に出れない要因になっているのはギルムレッド帝国に戦闘大陸への出入り口を占領されているからでしたね。
「ではプレイヤーの人数は思っているより増えないとクオンさんは思っているんですか?」
「そうだね。一応、野良勢が数人うろついてるって情報も貰ってるから、居ないわけではないだろうけど現状、ほとんどのプレイヤーは戦闘大陸中央に向けての進軍を中心に行ってるから、無理に帝国領土へ戦争を仕掛けることをしてないんだ。帝国所属のプレイヤー数が一番多いから勝率が低くなると困るプレイヤーが多いからね。ま、皆勝ち馬に乗りたいのさ」
「デメリットでもあるんですか?」
「無くはないけど、それほど大きな差は無いから、しいて言うなら勝敗記録や個人成績に傷がつくってことがデメリットかな。普通に勝ち負けを繰り返してたら、勝率なんて3割から5割くらいになるもんだけどね」
よく分かりませんが、そういうモノだろうと話を聞いていると美弥が声を大にして言った。
「バトロワ系のゲームに比べれば全然いいじゃないですか!?」
「まぁ、シューティング系とか脱出系のゲームとかも、バトロワ系と似たようなもんだよ。繰り返してプレイをしていくと沼にハマることもあるし、勝てない時はどんなに自分のPSに自信があったとしても負けるしね。そもそも有利不利があったとしても、両軍のバランスが取れていないとゲームという括りでは楽しめないよね」
「確かにそうですね。圧倒的な試合を見るより、ギリギリの戦いが見たい……と、いうような感じですよね」
クオンさんは満足げに「そうそう」と、言ってゲッソリしていた雰囲気が少し和らいだのかにこやかに笑った。そんな和やかな雰囲気に私達の後ろに人の気配が現れる。
「クオン殿、戻ったで御座るよ」
「ご苦労様。どうだった?」
テントに入って来た名斬さんとミソスープさんは苦笑いをして言った。
「いやー、今回はキツイッスよ」
「うむ。帝国側は防衛死守を続けたいという雰囲気が強かったで御座る」
テントの中が一気に不穏な空気へと変わるのを私は感じつつ、彼らの説明を聞くことにするのでした。
ちえるん「名斬さんとミソスープ。どれくらい前からスタンバイしてたんですか?」
ミソスープ「なーんのことッスか?」
名斬「そ、そ、そ、そ、そーで御座るぞぉ」
みゃーるん「どもりまくりんぐ!」
名斬「き、き、気のせいでー、御座るぞぉ」
ミソスープ「そうッスよー、ちょっと疲れてるッスー」
ちえるん「で、いつからなんですか?」
ミソスープ「みゃーるんの『うわぁ、クオンさん。死にそうな顔してますよ?』あたり……ッス」
みゃーるん「ほぼ、初めからいたで御座る!?」
言い訳します?(*‘ω‘ )(・ω(・ω・`)御免ッス、御座る
いつも拝読ありがとうございます。
もいもいさんを調子に乗せると執筆ペースとやる気が上がるので、
是非にブクマ、高評価お願いします!
関係ないですが、最近すごくお腹が空くんですよね……。




