可能性の塊
クオンさんは暗い顔で小さく呟いた。
「原因は俺かもしれない」
「はぁ? 何言ってんの?」
と、るーこさんは軽くクオンさんの頭を叩いた。
クオンさんは両手をグッと握りしめ、俯き加減で言葉を発する。
「『熊壺商会』の方は分からないけど、『紅白蓮』のララセルに関しては彼らが不穏な動きをし始めた切欠がα時代で俺との会話だと思うんだ」
「一体、何を話したんですか?」
「異世界転生モノの話をしてたんだ。それで、このゲームの世界っていうのがそういった世界と似通っているって話になったんだ。俺はこのゲームの土壌がAIによるワールドシミュレータだと知っていた……と、いうかオープンな情報だから、アイツ等も知ってると思ってたんだ」
「かと言って、基本的にはプレイヤーはこの世界の歴史には介入できない作りになってるんですよね?」
一応、裏技に関しては理解していますから、あえて基本的という言葉を使いました。クオンさんは肯定する言葉を吐きつつも「いや……」と、短く息を吐くように呟いた。
「ヒントを与えてしまったんだ。あくまでも可能性を示した……まぁ、そこまでは結構な人間が答えに簡単にたどり着ける可能性はあるんだ。でも、一番重要なのは如何にして英雄の好感度を上げるか? と、如何にして英雄に自身の言葉を伝える立場になれるか……なんだ」
「もしかして、今回のよく分からない依頼を受けたのも……」
「ああ、突発的に起こりうる特殊なクエストとか、本来は受注ボードや決まった流れからしか受けれないハズのクエストが起こったってこと。そういうのがシステム的な制御下にあるのか、確認・検証する為にはやってみるしかないだろう?」
クオンさんがそう言うとるーこさんが不機嫌そうに「だからちょこの対応が早かったのか」と、呟いた。そして、るーこさんの方を見て申し訳なそうな表情を浮かべた。
「ララセルが不正利用者と接触していた事も事前に分かってたんだ。ただ、ヤツも何かの実験検証に使っただけで使い捨てる気だったんだろうね。キャラ名と傭兵団からの強制脱退、捜査協力なんかも、非常に協力的だったそうだ」
「ムカつく話ね。ララセルって、あのララセルでしょ?」
「るーこさんも知ってるプレイヤーなんですか?」
私の言葉にるーこさんは「まぁね」と、短く言ってから小さく咳払いをして私の頭でなく、何故かみゃーの頭をポンポンと軽く叩いた。
「なんで、みゃーなんですか?」
「な、なんとなく……」
なんとなくと言いながら視線を外するーこさん。本当に意地悪です。
「で、ララセルっていうのは厨二王子のことよね?」
「なんですか、その厨二王子というのは……」
「厨二ってアレですよね。闇に魅入られし者的なヤツだよね」
美耶が片目を隠しながらそんな事を言う。祖父の若かりし頃から使われるようになった『中学二年最強説』から生まれた言葉で若かりし頃に掛かる特殊な病だと何かの本で書いてあった記憶があります。
「まぁ、みゃーるんの認識は間違っては無いと思うよ。ララセルは黒ずくめの武器、装備に身を纏っているちょっと変わったヤツくらいの認識でいいよ」
「で? アイツは何を企んで何をしようとしてるか、分かってないの?」
「あくまでも予想の範疇を出ないんだよね」
「とりま言ってみ」
るーこさんがクオンさんに蹴りを入れようとしていたので、ソッとるーこさんに触れて首を振った。すると彼女は仕方ないという顔をしてクオンさんに冷たい視線を向ける。
「マイゾ王国の乗っ取り、もしくは新しい国を地図上に作る……か、だと思ってる」
「英雄も絡んでる?」
「そこが不明なところなんだよ。分かってる限りだけど、マイゾ王国は英雄がいない数少ない国のハズ」
「そういえばだけど、英雄っぽいキャラがいなかったかしら?」
そう言ったのはカレンさんで、イマイチ興味がなさそうな雰囲気だったけれど、それを聞いたクオンさんはポンと手を叩いた。
「確かにそんなキャラがいた気がする」
「でも、それって扱い的にはどうなのです?」
私がそう聞くとクオンさんは首を傾げ「そうなんだよね……」と、呟いた。
「英雄じゃない人が英雄になるということもあるんじゃないんですか?」
私は疑問を述べる。そもそも、この世界がAIによるシミュレーションで作られていることを考えると人の手が入っているといっても、英雄も元から英雄だったわけでは無いと推測出来るのではないかと思ったからです。しかし、クオンさんは難しそうな表情を浮かべたまま幾度も首を傾げ何かを考えて黙ってしまいました。
「英雄キャラが英雄になるまでの物語って一部はシミュレータ側で起こったことだって話をしてなかったかしら?」
「確かにそんな話があったわ」
と、るーこさんが言ったことにカレンさんが相槌を打った。
「んー、多くの英雄はある程度、世界の成長に合わせて設定されたキャラを投入することで英雄として活躍して英雄となったハズなんだよ……いわゆる異世界転生してきた主人公のようにね」
「だとやはり世界に降り立った時点では英雄では無かった。と、なりますよね? でしたら英雄じゃないキャラクターが英雄になる。と、いった事例もゲーム上で起こるのではないですか?」
ふと、考える。この場合……もしかすると、プレイヤーでありながら英雄になる。と、いう事例も起こりうるのではないでしょうか? さすがに問題が多そうですけど……。私がそんなことを考えていると、クオンさんも同じようなことを考えていたのか微妙にやるせない表情で小さく溜息を吐いた。
「状況によっては運営にメールを出して、意見交換をした方がいいかもしれないね。この世界の歴史……どころか文化や戦争自体に影響を与えかねない。まぁ、ある程度の範囲でしかないだろうけどね。システム上逸脱し過ぎたら当然の如く軌道修正を行うだろうし。下手をしたらNPCの記憶をリセットして一定時期まで巻き戻すなんてことも考えられるかな」
「なんだか、それはそれで私はモヤッとします」
「まぁ、そこはゲームって割り切るしかないね。ここまでNPCが自由に動いて想定以上のことが起こるゲームは無いから……ただ、運営がどこまで想定しているか次第だけどね」
どこかの文献でワールドシミュレータは可能性の塊だと書いてあった記憶が蘇ります。かなり古い文献だったので、当時の技術ではこういったワールドシミュレータやネットダイブ技術に関してもまだ発展していなかった頃の書籍だったハズでした。未だにパソコンなどの操作は苦手ですが、こういったゲームに触れて、こういう世界があると知った時に夢のような技術だと思いましたが、ハマり過ぎるとこの世界から戻りたくないと思う人が出てきそうなところが怖いです。
「で、話を戻すけど。マイゾ王国の英雄的存在って盗賊みたいな奴じゃなかった?」
るーこさんが思い出すようにそう言った。
「ああ、盗賊襲来イベントでボスキャラ扱いのヤツでアーセナル・メルソンってヤツだね。設定的にはてマイゾ王国の公爵家出身で血統的にも王族に近いけど、国内の扱いがあまりにも酷くて盗賊に身を窶して好き勝手してるって設定だったハズ」
「そんなイベントがあるんですか?」
「共和国とマイゾ王国での戦場で時折起こる第三勢力介入イベントでやって来る。一応ボス扱いの設定だから結構強い――けど、英雄キャラほどの影響力は無いかな。戦場で優勢になっている側の側面や後方から攻めてくるからかなりウザいけどね」
「それって他の国でもそういうイベントがあるんですか?」
「低確率だけど、国によって色々あるね。古龍襲来とかが起こるマップなんて、阿鼻叫喚だよ。敵対していた同士が一致団結して古龍を倒す時なんて、少し感動するくらい。まぁ、どっちかというと戦場にバランスを齎す仕組みだと思ってくれればいいかな」
「なるほど……です」
そんな会話をしている時、私はふと思ったことがあった。果たして英雄とはどういう条件によって英雄となるのだろう? 英雄といえばヒーローですから、当然、人々から尊敬される存在だと思っていますが、その人物の善悪が関係ない場合。悪人であっても英雄にはなれるのではないか? です。
「ひとつ聞きたいのですが、このゲームに今ある国の王様は英雄なんでしょうか?」
「良い質問だね。まず初期に選べる5つの国において、国家元首であるキャラクターはみんな英雄として登場する。北にある獣王が治めるライゼガング王国のゾルディアーク大王。北西にあるリンダーツ聖王国の騎士王デンセル。南西のラペルト自由商王国の大成金ピアッゾ。我が国である南のウィンブレール共和国の妖精女王ナツェーリア。西の大帝国のギルムレッド帝国、冷血帝ヴェルス。この五人は全て国家元首で英雄だ。他にも小国扱いの国でも国王の多くは英雄キャラである場合が多い。南南西にあるマイゾ王国と東にあるイングーラン王国は国王が英雄キャラじゃない。ただ、マイゾ王国には英雄キャラがいなく、イングーラン王国には賢者ミルトがいるので、英雄がいない国では無いかな?」
「ゲームのシステム上、英雄って必要なのにいないっていうのはおかしくないですか?」
みゃーが不思議そうにそう言った。私も同様の疑問を思い浮かべた。
「そう言えば、αの時に運営への質問板にあったよね。どうして英雄がいない国があるのかって」
「あーあったな。その時って運営はなんて返事してたっけ……」
そう言いながら、ゲーム内で使用出来るwebコンソールを開きクオンさんは何かを調べ始める。
「すぐに見つけたよ」
と、私達に向けてwebコンソールを見せてくる。そこには簡潔な返答が書かれていた。
『国による。と、しか現段階では言えません』
「これが返事ですか?」
「そうだね。そして、思い出したんだけど……東南東に位置するベルヘルド王国の王って英雄じゃなかったよね。α時代に英雄になったハズなんだよ」
「あー、そんなイベントがあったわね。元々、内乱か何かで侵入出来ないマップだったのよね……それが途中でワールドインフォメーションが入って『英雄女王ミルドレッド』が乱を収めた――的なヤツが来てたのよね」
るーこさんとカレンさんはその時のことを思い出しながら話した。その時は特に「へぇ~、そうなんだ」くらいにしか思っていなかったけれど、これによってゲーム進行上でNPCが突然に英雄キャラとなる可能性というのが生まれた。
「それにプレイヤーが介入できるか……を実験している可能性がある。って、感じか」
クオンさんはそう言いながら、ゲーム内のデータベースを確認し始めた。
ちえるん「自分が英雄になりたいって人出てきそうですね」
るーこ「ありえる話よね」
ちえるん「でも、もしなれたとしてアルバイトはどうするんでしょうね?」
るーこ「そうよね。メンテナンスでサーバーが止まっている間以外休みなしよ?」
ちえるん「それって、超絶ブラックじゃないですか!?」
るーこ「驚きのブラックよ。しかも、報酬ナシ!」
ちえるん「そ、そんなことは……」
るーこ「ありえるでしょ?」
どうなんですか?(*‘ω‘ )(・ω・´)俺に聞かれても……
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