閑話 大規模戦、初体験! その3
森の妖精や森の守護者と呼ばれる英雄エミリアは数十人存在している英雄ユニットと呼ばれる特殊NPCで攻撃性能だけで言えば最強クラスのユニットである。また、彼女が戦場でひとたび暴れ始めると敵味方関係なく蹂躙し誰も手をつけれない。
彼女はトップクラスの破壊力を持つがそのデメリットも多く非常に召喚タイミングが難しいユニットでもある。
そんな英雄エミリアは常に思っていた。
(戦があるのは仕方がない。しかし……しかしだ。私は姫様の傍にいられる時間がただでさえ短いことを不満に思っているのに、どうして姫様と会えるタイミングに限って呼び出されなければならない!)
そんなことを考えながら戦場を蹂躙しているとは誰も思ってはいないだろう。
彼女は戦場を駆け抜け、氷雪と暴風の広範囲魔法を一気に展開する。発動までの数秒間、無防備になるがいつも自軍のナイト達が守ってくれる為に彼女は難しく考えることを放棄して最大火力のスキルを放ち、戦場を駆けて目の前がスッキリするくらい敵味方関係なく屠るだけだ。
『全ては凍れ、凍てつく風で、吹き荒れろ、氷雪の嵐――』
詠唱を始めれば止まらない。彼女を倒し召喚解除させない限りは止まらない。
『踊れ妖精、暴れろ死せる者、爆ぜろ! ブリザード・エインヘリヤル!』
詠唱完了し、スキルが放たれる。目の前で敵の召喚と戦っていたナイトは一瞬で凍り付き、その命を奪う。当然、相対していた敵召喚達も同様に凍る。一瞬で自身を中心にした範囲を氷の世界へと変貌させてから彼女は天に向かって弓を引き絞る。
『さぁ、蹂躙を始めよう――』
そう言って、マナを溜めた矢を天に向かって放つ。
一瞬の間を置いて空から大量の矢が降り注ぎ、凍った地面に突き刺さっては爆発する。
「うわぁ、派手ですねぇ」
「少しでも近づいたら死ぬわよ」
大魔尖塔まで後退して、前線を眺めていたみゃーるんは感心しながら様子を伺っていた。傍によって行きたそうな雰囲気を感じてカレンはそれを止める。
「次の動き次第ではもう少し後退するわよ」
「え? ここも安全じゃないんですか?」
「運が悪けりゃ……ね」
運次第といえばその通りで、正直言えばエミリアの気分次第である。機嫌の良し悪しがプレイヤー達に噂されるくらいにエミリアは大量に味方を殺すことがある。そして、今日は特に機嫌が悪かった。しかし、急いで還りたいと思っていたおかげで多くの味方が助かった。
(さっさと終わらせて還ろう。姫様とお茶の続きが出来るかどうかが掛かっているのだから……)
そして、英雄エミリアは戦場を駆ける。
「あら、今日は普通に敵陣へ向かっていったわね」
「なんだか、急いでる感じですかね……」
「急いでるとかあるのかしら?」
「意外と大した用事じゃなかったりして」
「それは……全く迷惑な話ね」
「確かに!」
などと会話をするカレンとみゃーるんである。エミリアが聞いたら激怒するかもしれないが、残念なことに彼女の耳にはその会話は届いていなかった。
妖精女王ナツェーリア・リン・リーリアが戦場において、最大級の癒しだとすれば、森の守護者エミリアは最大級の災厄である。
彼女が得意としているのは弓と剣を使った攻撃で弓からの剣、剣からの弓といった連携が可能で特殊な移動スキルを持っており、プレイヤーには出せない速度で戦場を駆ける。
「よし、前線を押し上げる!」
と、クオンの声が聞こえ、それに反応して雄たけびをあげながら【高次元組体操】の人達が前線を一気に押し上げていく。
「アイツ等……」
カレンは呆れながらそう言った。αからやっているプレイヤーなら知っているハズなのだ、エミリアが非常に面倒な英雄ユニットだと。
そして、それに釣られてついて行こうとしたみゃーるんを彼女は全力で止める。
「ストップ! ストップ! 脳筋についていったら的になるよ。ここは静かにゆっくりと前進するの」
「えー、ダメなんですか?」
「言っても敵にはプレイヤーがいないし、たぶん中盤くらいまで完全に崩壊しているわよ。そんなところに近づいても彼女をイラつかせるだけよ。触らぬ神に祟りなしって言うでしょ」
「本当に面倒ですね」
そう言いながら周囲の兵士達と歩調を合わせるようにゆっくりと前進する彼女たちは遠ざかる雄叫びが聞こえなくなったで察するのだった。
(そろそろ戻っても、誰にも文句は言われないでしょう……さ、早く姫様とお茶会しなきゃ♪)
本来、英雄ユニットはプレイヤーによる召喚や強引なゾンビアタックで倒すことで回避するのが常套作戦で特にエミリアは撃たれ弱いという欠点がある。しかし、戦略的によく分かっているプレイヤー同士の対戦の場合、実はエミリアの召喚は非常に効果的で召喚を上手く運営して回すことが出来れば、敵を圧倒的な速度蹂躙出来たり、カウンター戦術としても効果が高い。
ただし、エミリアに近づいた味方プレイヤーもほぼ死に戻りするので、本当に使いどころが難しい。
そんなプレイヤーの思惑など露知らず、早く還って妖精女王とお茶をして楽しむのだと彼女は急ぎ戦場から姿を消すのであった。
◇ ◆ ◇
英雄が去った後、ほんの少しの間ではあるが、戦場に静寂が訪れる。
彼女が通った場所は氷と砕け散った土地、そして兵士達の屍だけである。敵は英雄に蹂躙された同様で一部の兵士は茫然と立ち止まったままであったり、恐慌状態で逃げ去る者も現れる始末。
当然、後退する軍を見て攻めない者はただの馬鹿である。
「よし、クリオファス魔鉱田まで敵を押すぞ!」
クオンさんの号令で付近の兵士達が湧きたち、可能な限りの速度で進軍する。私達も当然、最前線へ移動を開始する。
「戦場での移動って結構大変ですね……」
「意外と距離があるものね。ただ、ここの戦場規模でいえば中の下くらいだから、広い戦場だと移動だけで戦争が終わるなんてこともあるわよ」
「マップが広いっていうのも考え物ですね……」
「まぁね」
そんなやり取りをカレンさんとしながら、ほぼ勝ちが確定したような状態で残った敵兵を処理して行くだけの簡単なお仕事だ。
「一応、魔尖塔を建てるのも忘れないようにね」
「支配領域の拡大でしたっけ?」
「そう。魔尖塔の領域範囲内にいる味方にはバフが掛かるから、最前線で攻めるプレイヤーの役割として魔尖塔を建てて、支配領域を確保しながら戦うって感じかな」
「逆に敵も魔尖塔を建ててくるんですよね」
「そうよ。だから、敵の魔尖塔はあんな風に叩いて破壊する」
クオンさんの指示か不明だけど、兵士達が必死に魔尖塔を武器で攻撃している姿が確認出来た。
「魔尖塔を建てたり、壊したりして領域を取ったり取られたりしつつ、戦闘するってゲームなんですね……なんとなく理解してきました」
「なかなか戦場を実際に歩かないと分からないわよね。戦闘大陸中央とかの場所だとα、βプレイヤーの研究で魔尖塔を建てる位置とかもある程度は決まってきているわ」
「展開によって建てる位置を変えたりとか……そういうのも覚えないとダメなんですね」
「そうそう。大規模戦闘といいながら、大事なのはそういう戦略ゲー的な部分なのよ」
「何も考えずに特攻したい気持ちになりますねぇ」
「それは分かる」
そんなやり取りとしながら、敵を倒しながら敵本陣に向かって進んでいく。
「そういえば、本陣の場所……魔鉱田の中じゃないんですね」
「確かにそれは気になったけど、どうしてなのかしら?」
「たぶんだけど、それはあそこが戦場では無い可能性が高いってことかな……ただ、魔尖塔が建っていることを考えると、一応戦場に含むって形なんだとは思う」
「結局、どっちかは分からないってことですね」
「まぁね」
追いついてきたクオンさんが苦虫を噛んだような表情をしている。何か想定外のことが起こっているのかもしれない。
「何かあったんですか?」
「んー、まぁ……いや、大丈夫さ。ともかく、そのまま大魔尖塔まで攻め落として、この戦場での仕事を終わりにしよう」
そうして、私達は敵の大魔尖塔まで攻め入り、それぞれの武器で大魔尖塔を叩き壊し、フィールドに戦闘の終結を知らせるアナウンスが響き渡る。
この時、既にお姉ちゃん達が大変なことに巻き込まれていたなんて、私は露とも知らず。勝利に沸き立つ空気をNPCである兵士達と分かち合った。でも、後からお姉ちゃん達のことを聞かされて、とりあえずクオンさんに文句を言ったことは言うまでもない話だった。
ちえるん「みゃーは楽しめたのかしら?」
みゃーるん「色々楽しかったよ。特に英雄召喚とか……」
ちえるん「アルバイト召喚はどなたが来てくれたの?」
みゃーるん「あの森であった人だよ」
ちえるん「エミリアさんだったかしら?」
みゃーるん「そうそう!」
ちえるん「どんな方だったの?」
みゃーるん「敵味方関係なく虐殺しまくりの大変なエールフ! だったよ」
ちえるん「そんな恐ろしいことをする人には見えなかったけど……」
みゃーるん「人は見かけによらないってことだよ」
ちえるん「では妖精女王も怖い方なのかしら?」
るーこ「いいえ、彼女は天使よ」
ちえるん「妖精なのに天使なんですか?」
るーこ「そう、悪戯なんてしなさそうなくらい、天使よ」
気になりますね(*‘ω‘ )(‘ω‘ *)ウフフ、気になるでしょw
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ってなわけで、応援よろしくです!!!




