ズルをする者達の絶望 その4
「私、それくらいの速度の弾なら見えちゃうのよ。ちなみにかなーり目がいいらしくて、視力検査で測定不能って何度言われたことか……あ、でもアフリカ大陸の広いサバンナで暮らしている狩人の方が確実に上だと思うんだけどっ!」
そう言いながら、彼女は楽しそうに銃弾を跳ね返した。
「ぐぁっ!!!」
不運な事にエアーサスの隣にいた男の脳天に銃弾がめり込む。ちなみに、何が不運かと言えば銃弾を跳ね返した彼女は特に狙ったわけでも無く、たまたま跳ね返った弾でヘッドショットしてしまっただけだ。ただし、ここはゲームシステムが働き、ダメージ値が著しく倍々ゲームとなって即死してしまったのだ。本当に不運な男である。
「ま、ま、まさか……狙ってやったのか!?」
「当り前じゃない? 誰だと思ってるの?」
こういう辺りが彼女らしい。と、いったところだ。しれっと、その場のノリで嘘で上書きして相手に恐怖を与える。しかも、それどころで終わらないのが『るーこ』という人間である。
「るーこさん、確実に嘘を吐いてますね」
「さすがに狙っては出来ないよ」
「そうッスよねぇ。ただ、あの態度だと本当にやれそうなところが怖いッス」
「それにしても、あのヘッショのダメは相当で御座ったな。カウンターダメージの所為で致命攻撃判定のダメージ倍率がおかしいことになっていたで御座る、どう考えてもオーバーキルで御座るな」
「弓矢でもあそこまでのダメージにはならない。アレは銃弾特有の現象だと判断出来る」
「あ、ちょこさん。こちらの会話って向こうに聞こえてたりします?」
私は疑問に思ったことを口にする。即座にちょこさんが首を振る。その時の表情はどこか悪戯っぽい意地悪な顔をしていたような気がした。正直言えば、よく分からないのですけど……。
「当然、距離が離れているから普通は会話は聞き取れない。向こうのやり取りも収音機能で拾っているから聞こえているだけ」
「そんな機能があるんですね」
「GM用の機能だから、普通のプレイヤーでは利用出来ない。ま、音声チャットシステムは充実しているハズだから、そっちで上手くやりくりして欲しいところだ。ちなみに余談だが、視力検査は2.5以上は測定不能と言われてしまうそうだ。これはクオンも言っていたから間違いでは無いだろう」
「あ、それ……私もですね。ちなみに双子の妹も同じです」
「DVA動体視力も高得点を叩き出しそうだね。全く、どうすればそんなリアルチートな一族になれるんだい?」
「正直なところ、分かりませんね。特別、世間と変わりない暮らしを送っていると思うのですが……」
自身でそう言っておきながら、旅行という名のサバイバルへ連れていく頭のオカシイ父親の姿が脳裏にチラリと顔を出す。私はまだヌルヌル事件のことは許していない――と、それは今は関係ありませんね。世間と変わりないと言いながら、随分とズレている気はしなくもないけれど、それくらいしか変わりないと信じたい。だから、そう信じているのです。
そんな私の姿をミソスープさん達は微妙な表情で見ていた。意外と空気感を読める人ですね――自分でも煽っていくスタイルと豪語されているわりにはやりますね。
それにしてもズルをしてゲームをして楽しいのかしら? スポーツにしても勉強にしてもズルをして良い成績を得たとしても、それは本当に自身の為になるとは到底思えません。
遊びだからといって、度が過ぎるのは問題だと思う。と、いうかあの人達も悪い事をしているという認識があるから、コソコソと何かを企んでいたわけでしょうし。
あ、何だか衝撃的な展開が繰り返されていたせいで忘れてたいましたが、彼等はどうして商人の人達や魔鉱田の人達を殺してしまったのでしょう?
「何だか難しい顔をしている。何かあったか?」
「あの人達がクリオファス魔鉱田内にいた人達を殺して一室に集めていたのを思い出したんですが、理由が全く思いつかないな――と、思いまして」
「なるほど。そんな事をしていたのか。全くもって程度が低いというか、ガキだね」
そう言いながらちょこさんは感情の全く込もっていない感じでそう言った。怒りや悲しみなんて何も無い、とても冷たい印象を受けて私は彼女の正面に回って聞いてみる。
「ちょこさんは何か知っているんですか?」
彼女は氷のように何もない冷たい顔をして「知らない」と短く答える。
「それよりも、目の前に立たれると向こう側が見えないじゃないか」
と、抑揚の薄い声でそう言った。ただ瞳の色がどこか面白そうな物をみるような輝きを持っていたことを感じつつも、これ以上は何を聞いても答えてはくれそうになかったので、小さく溜息を吐いて彼女の視線を遮るのを止めてるーこさんの様子を見ることにする。
すると、るーこさんはエアーサスが撃った銃弾を彼に向かって打ち返していた。
「クソッ! なんで打ち返せんだよ!」
そう言いながら連射せずに彼女と遊んでいるように再び銃弾を撃ち込み、打ち返される。
「そんなことも分からないの? チーターって言ってツール使ってんのに当てれないって恥ずかしくないの?」
「うっせぇ! 絶対に当ててやるからな!! 次だ、次行くぞ!」
彼がそう言うと、素早くるーこさんが刀を構える。それを見ながらお互いにジリジリとタイミングを計り銃を持った腕がユラリと動いた瞬間に銃弾が放たれる。これも瞬時のことだけれど、その銃弾をタイミングよくるーこさんは刀で器用に弾き返す。
「くっ……」
「だから、何度やっても同じって言ってんでしょ?」
るーこさんは呆れた風な感じにそう言うが、エアーサスは諦めようとはせず再び銃を構える。
「と、いうかあの二人、普通に遊んでませんか?」
「既に本来の目的から外れたところで、新たな遊びを構築しているで御座るな」
「ある程度は予想済み――だけど、誰もアレは止めれない。あの不正利用者が本当に心が折れるまで……いや、心が折れてもるーこが満足するまで続く」
「面倒なスイッチが入っちゃってますね」
「まぁ、時間なら十分にあるから。気長に見ているしかない」
そんなやり取りが行われていたことなど、るーこさんは知らず数時間同じようなことを繰り返しているうちにエアーサスと呼ばれる男はついに心折れ、座り込む。
「ダメだ、マジ降参だわ……意味が分かんねぇ」
「あら? まだまだこっちは続けても問題ないわよ?」
「マジで勘弁してくれ……どうやって対応してるのか分かんねぇが、アンタがリアルでチートなのはよく分かったよ。ただ、ひとつ疑問なんだが……どうやったらフレームカットしてるハズの攻撃に対応出来るんだ?」
男はうつむき加減で呟くように言った。るーこさんはさも当然といった風に答えを返す。
「このゲームでの銃って武器だから躱せるのよ。そもそも私は少人数だけ参加したテストでその武器を使ったことがあるからクセが分かってるのよ。来るタイミングが予想できればある程度は躱せるし、慣れれば弾を斬ったり弾き返したりも、そこまで難しくはないわ」
「いや、普通出来ねぇだろ……」
「そんなことは無いわよ。幾らフレームカットしていても、予備動作と攻撃発生は予想可能だし。現実世界の銃に比べれば全然弾速も遅い。当然、対戦型のゲームにおいて反応できない攻撃なんて、よっぽどじゃない限りシステム上ありえないでしょ?」
「だから、チートで回避してフレームカットや瞬時装填をしてるわけじゃねーか……」
彼の言っていることはもっともなのだが、残念ながら相手が悪い。この電脳空間においてプロゲーマーとして活動している電脳空間における化物的存在の一人で、且つ対戦格闘ゲーム『スターファイター』シリーズのトッププロで、毎年優勝争いに絶対に絡んでくるスタープレイヤーであるのだ。
「キミは不正という手段に手を染めたクソ野郎だが、ゲームシステムという枠をある程度不正で誤魔化したとしても、この電脳世界に適応している世界のトッププロゲーマー達からすれば、システム的にある程度理解出来れば、反応できる。と、いう彼等のぶっ壊れ性能を理解出来ないだろうな。正直、私も理解不能だよ。しかし、電脳空間に適応を持つ人間は通常の人間より、限界値が高くOS上危険水域にあたる加速度反応でさえクリア出来る。君たち不正利用者の中ではツールがなければ出来ない動きでも、彼らにとっては反応可能な領域であるだけだ。しかし、上位のプレイヤーというものの多くはそこへツール無しで行き着く。人間にはそれだけの可能性がある……君たちは自らそれを放棄しているだけの怠惰な人間に過ぎない」
唐突に現れるちょこさんの姿に固まるエアーサス。るーこさんは呆れた表情をして小さくない溜息を吐いた。
と、いいますか。ちょこさんは簡単に何事も無かったかのようにワープしていきました。とても不思議な人というか、本当に人なんでしょうか? でも、しょこらんさんにそっくりだし……なんでしょう、この妙な違和感。
「にしても、オイラ達はおいてけぼりッスね」
「そうですね……」
「まぁ、なるようにかならんで御座る。まさか、我々の存在を忘れて……などということはないで御座ろうし」
「うわぁ、露骨にフラグをおっ建てくスタイル。やめなはれー」
「そういうつもりでは御座らんぞ?」
さすがにるーこさんは忘れていないと信じたいところですが、ちょこさんに関してはわざと忘れてそうな気もしなくはありません――あ、なんだか不安になってきました。
ミソスープ「あー、あの人。わざと放置する可能性微レ存」
ゴザル「で、御座るな」
ミソスープ「なんだか、名前記入がゴザルになってるッスよ?」
ゴザル「ど、どういうことで御座る!?」
ミソスープ「まぁ、間違ってはないッスけどね」
ゴザル「ひどいで御座る」
(*‘ω‘ )。O(確かに通じますね)




