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ズルをする者達 その4

 目の前で何が起こっているのか正直分からない。


 ただ、目の前にいる男達の時がまるで止まっているようにも見え、私はるーこさんの方を見る。彼女は思っているより冷静で小さく溜息を吐いた。


「こういうのはちゃんと先に説明してからお願いしたいんだけど。ちえるんが困ってるでしょう?」

「大したことじゃないわ。それにこれから説明しようと思っていた」


 ちょこさんは掴まれていた肩から男の手を払いのけ表情を動かさずにそう言って、私の前にやってくる。


「どうも、驚かしたようね。事前に説明するのが面倒くさがった私のミスということ……なのだろう。別に時間は止まっているわけじゃない」

「え? そうなのですか?」

「ああ、知覚出来ないくらいゆっくりと時間は流れてる。ここはシステムの上層でも下の方にある領域で彼等は元の場所に残してきただけ……まぁ、場所という意味では同じ場所に存在しているけどね」

「えーっと、分かるように説明いただけますか?」


 私がそう言うと、彼女は首を傾げて「むぅ」と、短く唸った。


「ネットワーク・ダイブはPCと人間の脳、そして、外部ネットワークを繋いでいる。OSは人間の脳波と脳を中継して仮想空間を本物のように感じさせている」

「なんだか、そう聞くと物騒ですね……」

「まぁ、かなり物騒なシステムではある。だからこそ、法整備やネットワークの監視、人体に影響が出ないように様々なセーフティが必要だ。このゲームの1日が現実世界の30分というのも、ひとつのセーフティだったりもする。やろうと思えば、数秒を数年単位で動かすことも理論的には可能だ」

「1秒で1年とか考えると怖いですね」


 私はそう言いながら、浦島太郎のことを考えていた。たぶんゲームから現実に戻ってきたら日常生活や感覚などに大きな問題を抱えることになってしまいそうだ。


 そんなことを思っているとちょこさんが少し笑ったような表情をこちらに向け、再び口を開く。


「時間間隔のズレが生まれるだけじゃない。普段は脳の表層部分しか使用していないが、時間軸を大きくする為には、より深い場所へアクセスしなければいけない。我々は上層領域、中層領域、下層領域、深層領域と区分している。実際のゲームでは上層領域のかなり上の方を利用している。何層あるかなどの情報は言えないが、データ的に一層下りる度に数倍……いや数乗されていくと思えばいい――正確には少し違うのだけどね」

「それはすごいですね」

「なお、下へ向かえば向かうだけ時間という感覚はおかしくなり、しまいには方向や距離など、色々なものが曖昧になる。そして、システムでは追えない状況が生まれ、場合によれば消失してしまう可能性もある。なので安全という面を考えればネットワーク・ダイブでは上層領域でも表層部分のみを使うことを推奨している」

「でも、ちょこさん。さっき上層でも下の方と言ってましたよね。あの人達が止まっているように見えるのも時間の流れが違うから……と、いうのは分かりますが、そんなところに連れてこられた私達は大丈夫なのでしょうか?」

「まぁ、気になるところだよね。私達の検証結果とすれば長期間でなければ特に問題は無い。OSやネットワークを熟知している者達にとっては遊び場のようなものさ」


 そう言って彼女は小さく笑った。相変わらず表情が分かりにくくて真意が読めないけど。


「ちなみに、これから彼等と戦ってもらおうと考えているんだけど問題ないかな?」

「問題があった場合でもどうにか説得する気なんでしょ?」

「さすが、るーこ。よく分かってる」

「……と、いうか何故戦うのでしょうか? それに相手は不正をしてくるのでは?」


 私がそう言うと、ちょこさんはあまり表情を変えずに私に肯定の言葉を返す。


「もちろん、不正データはそのままね」

「私達に勝算がある……と、いうことですか?」

「ヤバい不正プログラムは使用できなくしてあるから、多少のフレームカットやパラメータ系もあまりにもひどいのは調整させて貰うけど、不正データを使用していても倒せれば相手はどう思う?」

「……私達の不正を疑いませんか?」


 私がそう言うと、彼女はポンと手を叩いて「その可能性は考えてなかった!?」と、少し驚く表情を浮かべる。しかし、首を幾度か傾げ何かを考え始める。私達はその様子を見守っていると彼女は何やらブツブツと呟きながら落ち着きなくウロウロと歩き始める。


 私はるーこさんに視線を向けると、彼女は苦笑いをしつつ「気にしなくてもいいわよ」。と、言って私の頭をポンポンと優しく叩いた。


 そういう動きをサラリとやってくる、るーこさんはとても卑怯だ。と、私は思いつつ心の中で小さな溜息を吐いた。


「ふむ。とりあえず、ある程度のデータ開示で納得させる……と、いうのが一番かな……」


 彼女はそう言って、いくつものウィンドウを展開してブツブツと呟きながら何かを始める。それを見ていたるーこさんが小さく溜息を吐いた。


「るーこさんが溜息を吐くということは……」

「そうね、しばらくは誰の言葉も耳に入らないわ。放っておくしかないわね」

「にしても、不正利用者チートプレイヤーと戦闘をするで御座るか……」

「もうーそりゃ面倒しか感じないッスね!」

「……ミソスープさんはえらく他人事ですね」


 私達の視線がミソスープさんに集まる。彼は飄々としたままで「え? 当然じゃないッスか」と、言ったさすがのるーこさんも頭を抱えるレベルの反応だったようで、こめかみを押さえた後に殺気の籠った視線でミソスープさんを睨んだ。


「えー、だってアレと戦うってなったら、編成的にオイラは中途半端過ぎるッス。姐さん、団長、御座るの三人で確定ッスよ?」


 ミソスープさんの戦い方を詳しくは知らないけれども、行動阻害や状態異常が得意で全体的に中途半端な構成というのが本人の評価。るーこさんやクオンさんから聞いている話とは随分と齟齬がある。


 魔法主体の構成キャラの場合は超高火力のキャラクターメイキングを好んでいるらしいけれど、斥侯タイプのキャラクターメイキングだと、構成は中途半端と言えなくはないけれど立ち回りに関しては仲間内ではトップクラスで何でもできる超万能タイプで後衛というより、前衛の側で支援する特殊タイプらしいので不正利用者チートプレイヤーの構成次第だけれど、相性を考えるとミソスープさんも対象に十分含まれると思う。


 と、いうか……相手が三人だからといって、私達が三人で戦う理由はあまりない気がするのだけど?


 などと考えているとるーこさんが再び小さく溜息を吐く。


「そもそも、全員で戦うかもしれないし……一人で戦うのかもしれない。それを決めるのはちょこなんだから、もしかすると味噌一人でアイツ等の相手をするという可能性も否定は出来ないわよ?」

「いやいや、一人で戦うってのはないッス。そもそもそれなら姐さんや団長に向かって戦ってもらうとは言わないッス。特にちょこさんなら、それはないッス。断言出来るッスよ」

「それは……確かにそうね。一番効果的に相手の心を折るんだったら……私、もしくはちえるん、一人で相手にするパターン。もしくは私とちえるんで……って、ところか」

「そうッスね。かつ、相手を圧倒できるかどうか、ってところッスね」

「さすがに圧倒は無理じゃないでしょうか? それに私、武器がひとつ破損してしまったのですが……」


 彼等と対峙した時に銃弾を弾いた所為で折れてしまったのを思い出し、少ししょんぼりとした気持ちになる。折角、用意して貰った装備なのだ――結構な軍資金が使用されていることを考えると溜息を吐きたくもなる。


「ひとまず、刀に関しては拙者の『無銘辻風』をお貸しするで御座るよ」

「そ、それはありがたい申し出ですけど、私とるーこさんが戦う流れは確定なのでしょうか?」


 マスクの下に隠れた名斬さんの表情は判別出来ないけれど、視線を逸らせて頬のあたりを指で掻いているところをみると、そう思っていたと言っているのはよく分かった。別に戦うのは吝かではないけれど、不正利用者チートプレイヤーに対してどうにか出来ると思えないのですが――あの人にはそうでは無い。と、いうことなのでしょうか?


「そんなに不安そうな顔をしなくてもいいよ……まぁ、不安だろうけど、ちょこは出来ないことは言わないから」

「まぁ、不安なのはよくわかる。るーこの言う通り、出来ないことは言わない――けれども、信用は出来ないだろうから説明をしよう」


 そう言ってちょこさんは私の頭を軽く手でポンポンとして不適な笑みを浮かべた。

ちょこ「ふっ( ̄ー ̄)」

るーこ「ふっ……じゃないってw」

ちえるん「全くです」

ちょこ「優しい笑みだと思ったのだけど、ちがうのか?」

ちえるん「それは――」

るーこ「はぁ……」

ちょこ「ふむ……もっと学習が必要なようだな」


まったく(*′‘ω‘ )(*‘ω‘ *)まったくです

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