ズルをする者達 その1
「ちえっ、るん!」
銃声が聞こえると同時にるーこさんが声を上げる。その瞬間に、私は体を逸らしながら素早く刀で撫でるようにして振り上げる――そして、甲高い金属が擦れる音が響き、静寂が訪れる。
「なっ!?」
先に声を上げたのは厭らしい笑みを浮かべていた男の方で、私が彼の不意打ちを躱したことが余程の驚きだったようです。
「データを抜いたで御座るか……相変わらずの糞っぷりで御座る。そもそもガンスリンガー用の武器はまだ実装前で御座るぞ?」
「伝手で手に入れたっつったら? 不正なんかしてませーん」
「見え透いた嘘を吐かないで貰えるかしら? そもそも、アンタの動作はフレームカットかモーションの不正もしてるでしょ? ちえるん、覚えておくといいわ。不正しているヤツの動きって、妙に止まって見えるか、動きがブレて見えるから、外部ツールかデータ改変をしてる可能性が高いから」
「なるほどです。だから、銃を撃った時に妙にブレて見えたんですね……」
「カッカッカッ、それが分かったからと言ってなんだっつーの。10対4でどうするんだ? ま、野郎はどうでもいいが、女は簡単に死に戻りはさせねーぜぇ」
彼の言葉はどこか妙だと私は即座に思う。倫理規定などの関係上システム的に違法にあたる行為は出来ないハズです。
「あんたら、まさか倫理規定の書き換えもしてるんッスか? 完全に違法行為ッスよ……永久追放ッスよ?」
「カッカッカッ、そんな簡単にバレやしねぇさ。既に実験済みだからな」
そう言った瞬間、るーこさんが彼に向って斬りこむのが見えた。
彼女の神速ともいえるほどの振りを彼は銃で受け止めながら、楽しそうに笑う。
「カーッカッカッカッ! 何顔真っ赤にしてんの? オラッ!」
そう言って、彼は鋭い蹴りを繰り出す。るーこさんは反応しようと避けようとするが、避けきれず吹き飛ばされ、私の横を通り過ぎ後方の壁にぶつかり倒れる。
「る、るーこさん!?」
彼女に声を掛けるが返答は返ってこない、それと同時に敵対する彼らも私達を取り囲むように動き、再び厭らしい笑顔の男が銃を向け、銃弾を放つ。
私は瞬時に身体を動かして刀で銃弾を受け流す――が、それによって刀がパキリと音を立てて折れてしまう。
「……さすがに無理でしたか」
私と名斬さん、ミソスープさんはるーこさんを庇うようにジリジリと移動し、周囲を取り囲む男達は私達を追い詰める為ににじり寄る。当然、圧倒的に不利なのは分かりきっている。
それでも、なんとかしなければ碌な事にならない。
「せめて、クオンがいれば何とか出来そうなんッスけど……厳しいッスねぇ。姉御がまさか突進するとは……」
「致し方ないで御座るよ。にしても、面倒で御座るな」
「ともかく色々試すしか……ないですよね?」
「まさに!」
次の瞬間、私は武器を持ち替えて重力場を生み出し、相手の動きを制限する。同時にミソスープさんが電撃魔法を繰り出す。当然、名斬さんも同時に動き、煙幕を地面に叩き付ける。全員が同じタイミングで動いたことで取り囲んでいた男達の反応が一瞬遅れる。
◇ ◇ ◇
男達は苛立ちの表情を露わにする。当然といえば当然である。いたぶろうと思っていた獲物の姿が消えたからだ。
しかし、すぐに冷静になる。理由は簡単だ。此処は逃げ道のない魔鉱田の中だからだ。実際、何処から侵入されたか分からなくとも他に出口は無いと思っている。
それに、ゲームの中だとしても意識のない人間を抱えて移動出来る範囲はしれているのだ。
嫌がる人間を甚振り、苦しめる事がなによりも楽しいと感じるクソ人間だと自覚している。ゲームの中だから、仮想空間だから出来る。
常に狩る側なのだから、狩られる側の気持ちなんて知ったことではない。
それにだ。電脳空間で脳に快楽を教え込めば堕ちない女はいない。特に女には、やべぇレベルの電子ドラッグみたいな効果がある。
そこまで持っていけば確実に黙らせれる。男も女をあてがえば仲間に引き入れる事も出来るかもしれん。
だが、アイツらはダメだ。
そう考え、男は危険な物に手を掛ける。電脳空間で人を殺す方法が幾つか存在する。
一つは電脳空間に閉じ込める。最も簡単だが、最も時間が掛かる方法だ。生身が死ねばネットも強制切断されるのが常識だが、ログアウト出来ないように閉じ込めても、生身が死ぬまでには結構な時間を要する。もう一つはウィルスで相手のデータを完全破壊する方法だ。
コイツは周囲にも影響を発する可能性がある特級ウィルス【黒い暴風雨】荒れ狂うウィルスが人を構成するデータを破壊して無にする。
本来、OSで保護している部分さえも破壊して現実世界への接続を破壊する。完全に脳死状態となり、こちら側に存在したデータも跡形もなく消える。
ただし、このウィルスは扱いが非常に難しい。場合によれば起動した人間さえも喰う可能性がある――それ程に感染力が高いが、効果は抜群だ。
「カッカッカッ! 狩りの時間だぁ!!!」
男の声に皆が熱狂的な声を上げる。
◇ ◇ ◇
坑道の奥へ逃げ、小さな部屋へ逃げ込んだ私達に遠くで男たちが奇声を上げる声が聴こえる。
「やな気分ね……今はフカフカだけど」
と、るーこさんが気が付いたようでそう呟いた。ちゃんと私に抱きしめられていることに対しての感想も付け加えるところは、とても彼女らしい。
「とりあえず、倫理規定を外しているチーターがいるのはマズイッス。それにオイラ達をどうでもいい扱いしたってことは……」
「危険なウィルスを持ってる可能性が高いで御座るな」
「……完全に犯罪者じゃない。はぁ、これはクオン案件かしら……」
「クオンさんなら、どうにか出来るんですか?」
私が首を傾げると、皆は微妙な表情をしつつ小さく溜息を吐く。
「まぁ、ちえるんなら大丈夫かな。実は今回、このゲームをやってる理由のひとつなんだけど……危険なチート使いがいるって聞いてたのよ。それ以外にもこのゲームって色々と他のゲームとは違う部分が多いのは分かる?」
「残念ながら、はじめてのデジタルゲームなので……でも、AIと仮想シミュレーターを使った世界だということは分かります」
「各技術の専門家とかが知識を提供して、新しい世界の創生ってのがこのゲーム初期に立ち上げたプロジェクトなんだけど、仮想世界といっても、ゲームだから外部から色々とコントロール出来るように作られてる」
るーこさんは私の身体に身を沈めるようにして、そう言った。外部からデータをコントロール出来る仕組みがあるということは、ハッキングを受ければ、それをした人間からもデータを弄れる可能性があるということでしょうか。
「当然、運営も様々な脆弱性や不正対策を取ってるんだけど、完璧には出来ない。これは全てのネットワークを利用したゲームでいえることなの。今回の運営とは私や愚弟も関係があって、ちょっとした依頼を受けてたのよ」
「不正ユーザーの摘発ですか?」
「ま、そんなところよ。特に悪質なプレイヤーがいるらしい情報はα段階からあって、さっき会ったアイツはαテストの時に私が摘発してBANしたユーザーだと思うわ。あの笑い方、気持ち悪くて覚えてるもの」
「それで、私達はあの方達に勝てるのでしょうか?」
「たぶんね。それに応援も呼んでおいたから……ひとまず、この坑道を利用して時間稼ぎをするってのが作戦ね。ひとつだけ注意があるわ」
そう言ったるーこさんの声はかなり重い雰囲気があった。いつもの飄々とした雰囲気はまるでない、真剣な声。
「絶対に捕まらないこと。下手をすると日常生活に戻れなくなるかもしれないから……」
「どういう……ことですか?」
少し言葉を詰まらせながら聞くと、るーこさんは困ったような表情をする。
「いいッスか団長。倫理規定ってのは、そもそも法整備が整っている先進国が同意してシステム上に必須となっている項目ッス。こういうのは当然、弱い人間が犠牲になるのが分かっているからッス……倫理規定に含まれているのはグロ表現の規制以外に当然エロ方面ッス。特に女性は倫理規定を外された奴らから受ける被害ってのは決まってるッス」
ミソスープさんが言わんとすることをスグに理解して私は小さく頷く。彼は少し優し気な表情してさらに言葉を続ける。
「問題は倫理規定ってのは通常ユーザーであれば全てに適応されるッス。でも、不正ユーザーはその外し方を知ってるッス……それが通常ユーザーであってもッス。ちなみに倫理規定ってのはOS側が強制してるシステムッスけど、そもそも現実世界の人間を守る仕組みッス」
「どういうことですか?」
「簡単に言えば、仮想空間における行動ってのは現実とあまり変わらないッスよね?」
「確かにそうですね。時にシステム的だと思うところはありますけど……」
「走っても疲労を感じなかったり……とかッスよね? 倫理規定ってのはそういう部分も規制してるッスよ。だから、それを外すってことは現実世界と変わらない感覚……と、いうかデータの弄り方によっては、超感覚的なことも現実に感じることが出来るッス。ただ、これは現実の肉体では本来処理出来なかったり、現実世界に影響を与えたりするッス」
「えっと……例えば?」
「そうッスね。現実世界で早く走りたい人が、仮想空間で倫理規定を外した状態で早く走ることを繰り返すと、現実世界でもある程度までは同じことが出来るようになるッス。これは実際にスポーツ選手なんか訓練に取り入れたりしてるッス……けど、あくまで人間が許容できる範囲で且つ法律上問題無いラインでなら認められてるッス」
「ああ、電子ドーピングの話題ってそれなんですね」
「そうッス。倫理規定を外している……もしくは故意に外せる奴らは、感覚なんかもコントロール出来るッスよ。実は仮想空間で不正ユーザーにレイプされた女の子達って、見つからない場合が多いッス。見つかっても……現実世界では廃人になる可能性も高いッス」
「それは怖いですね……」
「電子ドラッグも似たような技術で作られてるッス……だから、絶対に捕まるとマズイ……ってわけッス」
これはなんだか、とんでもない事に巻き込まれてしまったようです。当然、るーこさんは申し訳なさそうな表情をしていますが、何としても切り抜けなければいけないという気持ちしかありませんね……。
「分かりました。絶対に捕まらないように頑張ります……それで、応援が来るまでどうやって時間稼ぎをするんですか?」
と、私はるーこさんの頭を撫でながら言った。
「とりあえず、私の頭を撫でるのをやめてからかな?」
「るーこさんも私の胸に蹲るのをやめてからにして下さいね?」
私はとびきりの笑顔でそう言い返した。
ちえるん「満足さんですか?」
るーこ「まだまだ、もう少し堪能させて欲しいところなんだけど」
ちえるん「緊張感があるのやら、ないのやら……」
るーこ「いやぁ、良い撫で具合だし……しばらくそのまま」
ちえるん「……もう、るーこさんったら」
俺達は何を見せられているッスか?(´・ω・)(・ω・`)てぇてぇで御座るよ




