クリオファス魔鉱田攻略戦 その7
私達は坑道内居住区の最奥にある忘れ去られたように荒廃した倉庫に到着し、名斬さんを先頭に朽ち掛けた棚の前に集まる。
「この微妙な穴が開いてる壁でいいのね?」
「そうで御座る」
と、短いやり取りの後、るーこさんは朽ち掛けた棚を破壊して、その奥にある土壁を思いっきり蹴り破壊する。
「思った以上に脆かったわね」
「そりゃ幾度か穴が開けられた形跡があったッスから」
「と、言ってもかなり以前にで御座る」
「それはα時代とかですか?」
私がそういうと、ミソスープさんが首を横に振った。
「どちらかと言えば、αより前で御座る。また、綺麗に埋められていて態々朽ち掛けた棚が置かれていた事を考えれば、その人物は外から中へ入ってきたと考えるで御座る」
「αテストより前の時期と分かるモノなのですか?」
名斬さんは仮面の下から覗かせる瞳を輝かせ、よく聞いてくれたと言わんばかりに説明を始める。
「α時代と現在のβ時代の間は時系列で言えば数週間から数ヶ月と言った感じで御座る。正確な時間が分からないのは情報の精度がイマイチだからで御座るが……何にしても、そこからα時代以前の方が判別しやすい事が多いで御座るよ」
そう言って、彼は破壊された棚を指差す。
「朽ち掛けていた棚で御座るが、そもそも壁を隠す為に移動された形跡がないで御座るよ。これで考えられるのは2つで時間が経って分からなくなった。もしくは、形跡を残さない手段で置いた。のどちらかで御座る」
「魔法やスキルで置くことが出来れば形跡を残さない手段というのは可能ではないですか?」
「確かにその通りで御座る。次に埋められていた壁で御座る。るーこ殿が既に破壊したで御座るが……この端の部分を見て欲しいで御座る」
私は言われた通りに見たが彼が言いたいことは分からずに首を傾げる。
「まぁ、いきなり見てもよく分からないと思うで御座るが、この壁は石と粘土と砂を混ぜてこちら側から埋めてあるで御座る」
「そうなのですか?」
「あー、崩れた側に大きめの石などが積まれてるで御座ろう? と、いうことは外側から埋めたのではなく、内側から埋めたということが分かるで御座る。で、本題で御座るが、壁と埋めた壁の間を見て欲しいで御座る」
そう言われて、近づいて確認すると、思っているより馴染んでいることが分かる。
「壁自体はほとんど同じ作りなのだと思うで御座るが、漆喰などを塗っていれば分からなかったかもしれないで御座るが、土壁だとある程度の期間で風化したり汚れが付くことで馴染むで御座るよ」
「なるほどです。でも、どうしてこのような事をしているのでしょうね?」
「そこは全く不明で御座るな。至る所にこういった抜け道が存在するのも不思議で御座るが、人が通った形跡が存在するのは本当に不可解で御座る」
「確かに、それに人が通った形跡があるというだけで、より警戒しないといけないのはしんどいですね」
私の言葉に全員が「全く」と口にする。
壁を抜け、細い坂道を下ると泥濘んだ坑道へ出る。魔鉱特有の柔らかい青い光が坑道内を薄く照らす。正直、充分な視界確保を得るほどの明るさが無いためにミソスープさんがは杖を取り出してスキルを使う。
「明るく照らすスキルなんてあったんですね」
「まぁ、コイツは副産物みたいなもんッス。一定時間トーチを着けて杖で叩くと炎ダメージを与えれるスキルッス」
「灯りくらいにしか使えないゴミスキルで御座るよ」
「ゴミとか言われるとショックッス。クオンは喜んでたッスよ?」
「クオン殿はマイナースキル大好きっ子で御座るからなぁ」
「ったく、そんな話はどーでもいいのよ。先に進むわよ?」
るーこさんにそう言われて、狭い坑道を進む。
泥濘んだ坑道は左右に曲がりくねった一本道で位置的には居住区の下を横切るように進んでいる。
ただ、至るところから、水が滴り落ちており、非常に悪い足場のせいで全員かなり慎重に進まざるを得ない状況で次の分かれ道へ来るまでに思ったより時間を使ってしまいました。
「このまま真っ直ぐ行けば私達が一度上がってきた上層へ向かう穴へ行くのかしら?」
と、るーこさんが地図を見ながらそう言った。しかし、名斬さんがそれを即座に否定して、地図の角度を変えながら説明を始める。
「居住区のある階層に行くのに使った坑道がこっちで、今いるのはこの横穴で御座る。分かれ道の右側には下水の縦穴があるで御座る。左側は行き止まりで御座る」
「まさかですが、下水の縦穴を通って上層へ向かうのですか?」
当然るーこさんも私も嫌な顔をする。ミソスープさんも「まぁ、ッスよねー」言いながらもどこか楽しそうな表情を浮かべる。
「ったく、で? どこに抜け道があるのよ?」
「分かっていれば良かったので御座るが、この坑道もそうで御座るが、初めて通る場所で御座る。故にこれよりは全て推測で御座るが、可能性は3箇所で御座る」
そう言って地図を回転させながら、怪しいところにマークをつけていく。
彼がマークした場所は現在の坑道と隣接もしくは交差している場所で位置としては左側の突き当たり、下水の縦穴手前の上側、そして、分岐点の壁側だった。
「ひとつ気になったんだけど、この坑道も初めてって言ったわよね?」
「そうで御座る」
「まさかだけど、下水の穴を降りたの?」
「斥候で来たときに降りたで御座るよ。念のためで御座ったが下水に繋がる坑道を把握するには仕方なかったで御座る」
「そう、にしても早く移動しないと臭いが付きそうで嫌ね」
「まぁ、臭いが付くことはないッスけどね」
こういう部分は非常にゲーム的で、周囲の匂いは感じるけれど匂い移りはしない。激しい運動をしても疲労度は少なく汗もかかない。不思議なのは服装に汚れが付くところですが、染みが出来たりはしない。美弥曰く「こういうのはシステム的な設定だから気にしたら負け」らしいです。
名斬さんとミソスープさんは複雑な迷路のような坑道の繋がりを事前にある程度チェックしておき、壁を抜いてでも進めるかどうかを数カ所で試しておいた副産物で今回、洞窟から入る方法を見つけることが出来たそうです。
「で、次の道はどっち?」
「見た感じ、下水の竪穴の脇にある壁を抜いて隣にある坑道へ移って、そこから上層へ上がるルートへ移動ッスね」
「とにかく、行ってみるしかなさそうですね」
「そうね……」
そして、るーこさんが再び壁を蹴り抜き穴を開ける。ガラガラと音を立てて簡単に壁が崩れ、交差する坑道が現れる。
「なんだか簡単に壁が崩れましたね」
「まぁ、崩れやすそうな感じがあったからね。此処も一度、穴が開けられていたのを埋めたみたいね」
「不思議な話ですね」
「そうね」
そんな事を言いながら、上層へ向かう道へ移動する。どうやら古い坑道や脇道? では灯りが無く、現在使用されているであろう坑道では灯りを灯す魔導機が使われており、坑道内もある程度の明るさが保たれている。
広めの坑道の突き当たりには昇降機が2つあり、一つは別の階層に止まっているのか、昇降台の姿はありません。
「とりあえず昇るッスかね?」
「そうしましょう。臨戦態勢で警戒しつつ行きましょう」
私の言葉にるーこさんは無言で頷き、スラリと刀を抜いた。
「では、動かすで御座る」
名斬さんはそう言って昇降用の魔導機を起動して、自身も昇降台へ飛び乗る。
エレベーター宜しくなレベルの速度で地上へ向けて昇っていく。当然と言えば当然なのだけれど、このクリオファス魔鉱田は小高い丘にあり、城砦のような場所なのです。故に地下からだと、かなりの高さがあるわけです。
そして、息つく間も無く昇降台はゆっくりと目的階に止まる。エレベーターって箱になっていないとかなり危ない代物だと思いつつ周囲を確認する。
そこには10人程の人が嫌な笑みを浮かべて立っており、絡みつくような視線を送ってくる。
「よりにもよってお前か……」
「αぶりだなるーこさんよぉ〜」
るーこさんはトコトン嫌そうな顔をする。彼女にそれ程の顔をさせるとは余程嫌な相手なのだとすぐに理解できた。因みに名斬さんもミソスープさんも臨戦態勢だ。
「カッカッカッ、ネズミが忍び込んでやがるから、何処のドイツかと思ったがオレにも運が回ってきたぜ。全員で蹂躙すっぞ!」
そう言った瞬間、彼は黒く重い光を放つ筒のようなモノを取り出し引き金を引いた。
るーこ「はぁ〜」
ちえるん「るーこさん、溜息なんてついて……幸せが逃げちゃいますよ?」
るーこ「何? 現役JKからしたらオバさんって事?」
ちえるん「ほんの数年前までるーこさんもJKだったじゃないですか?」
るーこ「ま、そうだけど。その数年って、結構な差じゃない?」
ちえるん「人生を考えたら、ものの数年ですよ?」
るーこ「…………」
達観し過ぎ(*'ω')('ω'*)そうですか?




