クリオファス魔鉱田攻略戦 その4
扉を開ける前から私の鼻が異臭を捉え、そこに何があるか分かっていたのでそこまでの驚きはなかった。
ただ、部屋の汚さから想像をしていた以上の汚さがそこには広がっていた。
「これは流石にキビシイですね。洞窟によくある蝙蝠の寝床より酷いですね」
「その例えでわかる人は早々いないと思うけど……部屋が危険状態レベルでヤバイ臭いが充満してるんだけど……」
「ですね。硝石とか取れたりしないですかね?」
「取れても困るわよ」
「あ、これは使えそうです」
私はトイレの脇にあった手洗い道具の中から汚く薄汚れた布を手に部屋に戻り、扉を閉めた。
「何をするんすか?」
「簡単なことです。兵士の方が叫ばないように……こうして」
と、私は兵士に猿轡の代わりに汚い布を咥えさせてギュッと絞めた。ツンとした臭いに兵士は「うぇ」と気持ち悪そうな声を出したけれど、多分これくらいで死んだりはしないと思うのです。
「取り敢えず、部屋の中には大した物は無さそうですね」
「詰所といっても休憩やトイレがくらいしか無い場所ッスから。上側にはもう少し大きい詰所があって、そこはこんな汚いところじゃないッス」
「とりあえず登ろうか?」
るーこさんはそう言って部屋にある梯子へ手をかけてから、何かを思い出したように手を止める。
「どうしたッスか?」
「登る順番は味噌、名斬、ちえるん、殿が私で」
「別にいいッスけど……」
ふと、私は首を傾げる。なぜ、るーこさんは梯子を登る順番を決めたのか分からなかった。そんな視線を感じたのかるーこさんが自身のスカートを少し持ち上げる。
「あ……」
思わず声が漏れてしまい、ミソスープさんと名斬さんに不思議な顔をされたが、強引に誤魔化した。
るーこさんの格好はスカートの中にレギンスを履いているので見られても気にならないみたいな事を以前言っていたけれど……よくよく考えれば私が一番最後で良いのでは無いだろうか?
名斬さんが登り始めた段階で私はるーこさんに聞いてみることにした。
「私が最後じゃダメなんですか?」
「そりゃそうよ。私がちえるんを見ながら上がりたいだけだもん」
彼女は楽しげにサラリとそう言った。
色々とツッコミどころ満載なるーこさんの発言に私は思わずスカートを押さえた。
「一応生じゃ無いんだから、私に見られても減らないでしょ? それにタイツ履いてるんだから」
「そういう問題じゃないと思うのですけど……」
「ふふっ、別にいいでしょ。昔は一緒にお風呂だって入ったことのある仲じゃない」
「そ、そ、そういう問題ではありません……から……」
悪戯な笑みでシレッとそういう事を言えるるーこさんって、本当に意地の悪い人だと思うのです。しかし、こうしてグダグダして登らないのも問題だと私は思い、小さく息を吐いて気持ちを切り替えつつ、名斬さんの後を追いかける。
「えらいねーちえるん」
「るーこさん!? 覚えておいてくださいね! 絶対お仕置きですからね!」
「ハイハイ。ほら、サッサと登らないと追いついちゃうわよー」
「もうっ!」
下を見ると、手をワキワキさせるるーこさんの姿が薄っすらと見え、私は焦りながら一心不乱に梯子を登る。
10メートルほど登ったところで、再びある程度の広さがある空間に出たことに気がつく。梯子自体はまだ上に続いていたが、私達が向かう先はそちらでは無い。
「ふぅ、到着っと」
「………………」
「ほらほら、ごめんって。ちょっと可愛い意地悪なだけでしょ」
そう言ってるーこさんは私の頭を撫でるのでした。なんて卑怯なんでしょう。動悸がヤバみで怒るどころじゃなくなったのです。
「って、何かあったんッスか?」
「味噌殿、触れてはいかんで御座る。藪蛇で御座るぞ」
「ってー、気になるッスよー」
「命を大事にで御座る」
「ぐぬぬ」
「ほらほら、バカなこと言ってないで先に進むわよ」
そう言ってるーこさんは到着した部屋の様子を伺いつつ次の目的地へ向かう坑道へ続く扉を開く。
その坑道は下の階層に比べ、ぼんやりとした灯りが灯され幅も倍近く広くなっている。どことなく人の気配のある雰囲気が漂っている。
「ここからは戦闘も視野に入れて進むッス」
「想定ではツーマンセルかスリーマンセルの兵士が巡回しているで御座る。ルートは皆も把握して御座ろうが、ここを真っ直ぐ進んだ先にある広間の脇にある部屋で御座る」
「位置的には敵のオベ範囲ッスから、あまり時間は掛けれないッス」
ミソスープさんの言葉にるーこさんは「んなこたぁ、わかってんのよ」と、言いながらいつ拾ったか分からない小石を指で弾き飛ばし彼の頭に当てる。
「ったぁー、酷いッス!」
「ウッサイ、さっさと行くわよ」
そう言ってるーこさんは刀を抜き、警戒態勢で坑道を進む。その後ろは私、名斬さん、ミソスープさんと続く。
「にしても、なんだか静かッスね」
「確かにそうで御座るな。前回潜入時はもっと人気があったで御座る。いくら戦といえど、ここまで手薄とは……」
巡回する兵士とも出会わず、目的の部屋へ到着した名斬さんとミソスープさんは渋い表情でそう言った。
しかも、魔素溜りは魔素が大量に湧き出る重要なポイントである。多からず警備に人員を割くのが普通だと考えるけれど、目的の場所も全く人が存在しなかった。
「魔鉱田の魔素溜りとしてはかなり魔素量が低い気はするけれど、普通の速度でちゃんと回収できるわね」
「戦場に点在する薄い魔素溜りに比べればかなりの速度でゲット出来てるッスから、枯れているわけじゃ無いッス。正直なところ、地下の洞窟と濃度的にはどっこいどっこいな感じッス」
「それにしても、誰もいないというのは本当に妙ですね。これは考えれるとすれば、戦場の状況が芳しくなく動員されているか……私達を察知した敵の罠――ですかね?」
私の言葉にすぐさま反応したのは名斬さんだ。彼は即座にどちらに対しても否定的な見解を述べる。
「現状、外ではまだ押し引きが続いてる感じで御座るから、常駐の兵士を動員する程ではないと思うで御座る。罠にしても敵が英雄以外のNPCでは我々を倒そうと思えばかなりの人数が必要で御座る」
「そうね。一般的なNPCで高レベルでも10くらいでダメージ補正は基本マイナス設定だから致命攻撃を受けたとしても微々たるダメージしか受けないわね。こちらの攻撃に耐えうる体力もないしね」
「でも、位置的には比較的に広い広間側に兵を集めれば多少は効果があるんじゃないですか?」
そういうと、全員が微妙な表情をする。多分だけど、英雄やプレイヤーがいた場合はさっき話していたことは全て覆る。
NPCが持っていないモノを英雄やプレイヤーは持っている。
「もしそうだとするなら、かなりのピンチになるわね」
「とりあえず、急ぎ魔尖塔を建てるべきで御座る」
私はコクリと頷き、メニューから建築を選択して小魔尖塔を建てようとするが、表示がアクティブにならず首を傾げる。
「ちえるん、その位置――と、いうか魔素溜りの真上じゃ無理よ。一応、魔素濃度が30%下回る場所じゃないと建てれないって仕様よ」
「そうなんですか?」
「建てるとしたら、入口近くの壁際かしら? 視覚モードを魔素に切り替えたら、魔素濃度が確認出来るわ」
るーこさんに言われた通りに視覚の設定を変更すると、ふわりと見えていた青い光がより強く広がり、部屋全体が青い光に包まれているような状態になる。視界の端の方に数値で32.6%と表示されており、現在の場所における魔素濃度を示しているのだろうと推測出来た。
そして、私は部屋の隅に移動すると数値が28.9%に濃度が下がったのを確認した。
「さすがに部屋の外に建てるのはダメですよね?」
「それはそうで御座ろうな。できれば発見されにくい場所が望ましいところで御座る」
「魔素溜りの魔素濃度ってどれくらいが基準なんですか?」
「戦場にある、小さい湧き場所であれば20%~30%程度で御座る。大きい湧き場所は50%以上はあるで御座る。こういった魔鉱田の場合は70%を超える場所もあるので御座るが、ここは小さい湧き場所と変わらないで御座るなぁ」
私はなるほどです。と、答えてから小魔尖塔を建てた。
魔尖塔の範囲内に敵が存在すれば、マップ上に点として表示されるハズですが、新たに領域が示された中には敵の姿を捕らえることは出来ない。
敵の大魔尖塔の範囲内にあるハズなので、私達の姿は幾度も確認出来たであろうハズですが、それに気が付くような人間はこの戦場には存在しない――と、いうことでしょうか?
「何にしても、このマップ上で後3ケ所は小魔尖塔を建てないといけないことを考えたら、さっさと出た方がよさそうね」
「そうッスね。次は自国の商人たちが捕まっている場所を確認しつつ、オベ建てをして地上へ向かうのが良さそうっスね」
そうして、私達は次のポイントへ向けて移動を開始した。
ちえるん「視覚モードの切り替えって面倒ですよね」
るーこ「まぁね。色々とモードがあってもほとんど使わないし、統合してもいいんじゃないとは思う」
ちえるん「それにしても、暗視モードって必要なんですか?」
るーこ「今の時代だと、驚く旧時代の暗視ゴーグル仕様だから、ネタでしかないわ」
ちえるん「もしかして、白黒なんですか?」
るーこ「白黒……と、いうか緑?」
ちえるん「緑……ですか」
るーこ「ちなみに、長時間それで過ごすと白い色がピンク色に見えて驚くわよ」
ちえるん「それは驚きそうですね」
るーこ「ピンクの世界って感じだから、もう脳みそまでピンクに染まるわよ」
ちえるん「それは――無いですね」
るーこ「(´・ω・`)」
ナイデス(*‘ω‘ )(‘ω‘`*)やっぱないか




