クリオファス魔鉱田攻略戦 その3
現在、クリオファス魔鉱田内部の下層に位置する坑道を進んでいる。マップ上では自身が建てた小魔尖塔の影響範囲ギリギリの位置となる。
ミソスープさんと名斬さんの説明によると近くに上の坑道へ続く道があるらしいが、その場所は敵の魔尖塔の影響下へ出なければならないのは確実であった。
「流石に魔素溜りには警備兵がいますよね?」
「前回潜入した時も巡回兵がいたで御座る……ただし、戦場に行かされている可能性が高いので、現状の人数はそんなにいない筈で御座るよ」
「ま、人数が多少いたとしても、その時は倒して進むだけよ。慎重なのはいいことよ、でも臆病になってはダメよ」
るーこさんはいつも通りの調子でそう言って、坑道の分かれ道に差し掛かったタイミングで壁際に隠れ、先の様子を伺う。私達も彼女の行動に合わせて周囲を警戒する。
「味噌、ここの分かれ道はどっち?」
「実はどっちに進んでも目的の上に続く坑道へ行けるんッスけど、どっちにしても敵のオベ範囲に入るしかないッス」
ミソスープさんの言葉を聞いてるーこさんは訝しげに唸ってから、こちらへ振返り小さく息を吐く。
「結局、どっちのがいいのか分からないんだけど?」
「そこあたりの判断は難しいッス」
「じゃぁ、名斬はどう思う?」
そう聞かれた名斬さんは質問される事を予想していたように「やはり拙者の方にきたで御座る」と呟く。
「まず、真っ直ぐ行けば再び三叉路に行き着くで御座る。そちらの場合、一方は上層へ向かう通路に繋がってるで御座るが若干で御座るが遠回りで御座る。右へ曲がれば、上層へ向かう通路に繋がる梯子があるで御座るが、その手前に兵の詰所があるで御座る。人数的には1人か2人なので、忍んで躱しても黙らして通ってもどちらでもお好みで……と、いった感じで御座ろうか?」
その説明を聞くと正直どっちもどっちだと思うミソスープさんの気持ちも分からなくはないと思うけれど、るーこさんは即座に答えが出ていたようで「じゃ、近い方ね」と言って進行方向に対して進んでいく。
「団長もいいッスか?」
「ええ、私も近い方に賛成です」
ミソスープさんは私の答えにそこまで驚きは無い雰囲気で「まぁ、ならいいッス」と呟いてるーこさんの後を追った。
「ちえるん殿、ついてくるで御座るよ」
「ええ、わかりました」
彼らの後を私はついて行きながら、ある事を考えていた。他の人たちはあまり考えていない、敵国にプレイヤーがいる可能性について。
基本的に私は美耶に合わせて所属国を決めたので国に所属する、または別の国に所属を変更する事に関して、全くと言って理解していなかったけれど、美耶に聞いた内容を考えると物好きはどこにでもいるのではないか? という可能性に至った。
断定は出来ないけれども、可能性を考慮する。というのは悪いことじゃない。
このゲームでは初期に選択できる所属国は5つ。基本的には一度所属国を選ぶと変更は出来ない――これはゲーム開始時にも補足説明で読んだので分かっていたけれど、所属国を変更する方法が存在するらしい。美弥から聞いた話では初期に選べる所属国を変更することは出来ないけれど、幾つかの条件を満たせば別の国へ移動することが出来る。
まず、第一に初期選択可能な国では無いこと。第二にレベルが30を超えていること。第三に特定のクエストをクリアしていること。この3つの条件をクリアしていれば、所属国を変更することが出来るらしい。
なぜ、ゲーム開始時に所属国を変えることが出来ないと記載があったかは美耶曰く、元々は変更出来ない仕様だったのを変更可能にした為のメッセージ系の不具合では無いか……とのことだった。
(プレイヤーが敵にいるとすれば、レベル的に格上となると考えれば考えるほど、色々と問題が出そうですね)
そんな事を思っている間にるーこさんが兵士の詰所らしき場所に到着し、こちらに一旦止まって警戒するように合図を送って来る。
「味噌、探知」
「イエス、マムッス」
そう言ってミソスープさんは探知魔法を発動させる。数秒間、敵の動きを視覚化出来るというスキルがある事は美耶から聞いていたので知っているけれど、見たのは初めてとなる。
武器種で言えば杖系統のスキルなので現状だと私が取得出来るのはまだ先のことになりそうです。
ただ、敵の動きが見えるけれど、発動した場所が推測されるような効果エフェクトが発生する。これもプレイヤーにしか見えないらしいことをるーこさんから聞いて私は止めれば良かったのではないかと、少しだけ反省をした。
るーこさんはそんな事を気にもせずに周囲にいる兵士が詰所に設置されている寝台らしき場所で寝ている様子を確認して素通りする事を選択し、全員がそれについて行く。
私達はすぐに上層へ向かう坑道を見つける。坑道は木材で足元を階段状に打付けてある坂道で、通路の広さは2メートル程度で戦闘を行うには非常に狭い印象のある道です。
るーこさんを先頭に登り始めたところで名斬さんが先に進まないようにと口を開く。
「なんかあった?」
「ちと思い出したで御座る。上層へ行くならこっちの方がいいので御座るよ」
そう言って名斬さんは再び兵士の詰所を指し示す。
「名斬の旦那。そいつはちっとリスクが高く無いッスか?」
「どういうことか説明してもらえるかしら?」
るーこさんは少し面倒くさそうにそう言って、周囲を警戒しつつ来た道を戻ってくる。
「実は兵士の詰所には上の階層に行くための梯子があるで御座るよ。ただ、各階層にある兵士の詰め所に繋がっているので、高いリスクが御座る。ちなみに前回潜入した時は一度も兵士と遭遇しなかったことも含めて、詰所から上にあがった方がはじめの目的地へ行くには近いで御座る」
そう言って名斬さんはマップを表示して説明をする。
「寝ている兵士はどうするのが一番だと思いますか?」
私はるーこさんに尋ねた。彼女は少し考える仕草をみせてから2つ指を立て、悪戯っぽい微笑を浮かべて楽しそうな視線を向けてくる。
「効率重視、優しさ重視で考えると2つのパターンがあると思うわ。ひとつめは息の根を止めて黙らせる……これ以上簡単な手はないかな。ふたつめは取り合えず拘束出来るモノを使って拘束する……ま、脅したりして大人しくして貰うってのもアリかな? どうする、ちえるん?」
私はるーこさんの目を見て小さく微笑んでから彼女の質問に答える。るーこさんは本当に意地悪な人だと思いつつ、試されているという感覚を楽しんでいる私がいることを理解している。
「ひとまず、るーこさんを満足させるに足る働きを見せましょう」
そう言って私は可能な限り気配を消して兵士の詰所の扉をソッと開き、中へ入る。
そこはむせ返るような匂いと埃っぽさが充満しており、私は一瞬顔を顰めつつ部屋の中を見渡す。薄っすらとした魔導機のランプに照らされた部屋には、簡単な机と兵士が休む為の寝台。その寝台の上には兵士であろうNPCがひとり、警戒心も無くいびきをかいて寝ている。
正直、このような場所でよく眠ることが出来るものだと思いつつ、私は周囲にロープのようなモノが無いか確認するが、残念ながら見つからないので代わりに寝台で使われているシーツで代用することに決める。
私はぐっすりと眠っている兵士が適当に被っている汚いシーツを手に取って剥ぎ取ると、そこには全裸の男……兵士なのは確定だが、その男を汚いシーツで簀巻きにする。
「は? な、なんだ?」
男は何が起こったか分からずに起き上がろうとするが、簀巻きにされた状態で転がる。私はその男を蹴り飛ばし短刀をチラつかせ脅す。
「大人しくすることです。私はアナタが大声を上げる前に息の根を止める自信があります……簡単なことですが、静かにしていれば殺すことはしないであげます。どうですか?」
と、彼の頬に短刀でヒタヒタと軽く頬を打つと彼は小さく悲鳴を漏らた後、涙目で素早く首を縦に振る。後ろで見ていたるーこさんは何故か微妙な表情をしていた。
「あら? どうしたんですか?」
「ちえるん……よく平気だったわね……」
「この人が全裸だったことですか?」
そう私が言うとるーこさんはコクコクと首を縦に振った。
「と、いうか……コレ倫理コードに引っ掛かるんじゃないッスか?」
「ああ、だからモザイクが掛かってたんですね……魔物や動物の内臓とかはしっかりと造りこまれているのは制限が掛からない方が不思議ですね」
「た、たぶんそれは不具合よ。ちえるん……はぁ、見て無かったならいいわ。と、いうか倫理コードの年齢制限切ってるけど、アレはリージョン設定で言えば完全にアウトな奴よね……後で不具合報告しないとダメね」
「……解体が不具合だとすれば、もし、モザイクとか掛かっちゃったら困りますね……」
「…………」
何故かるーこさん達は微妙な顔をして溜息を吐いた。うーん、いい値段で素材が売れるし、お肉は食料として確保できるわけだし便利だと思うのだけど、これは私が間違っているのかしら?
そんなことを思いつつ、部屋の奥にある扉へ向かった。
「あ、そっちは……」
と、ミソスープさんの声が聴こえたけれど、私は既に扉を開けていた――
ちえるん「そういえば、この兵士さんの名前って何て言うのでしょう?」
るーこ「ゾウさんでいいんじゃない?」
ちえるん「象さん? ですか?」
味噌「姐さん、ちえるんにはモザイクしか見えてないッス」
るーこ「そうだったぁー! って、くそぉ!!!」
味噌「ぐはぁっ! なぜ……なぜ、蹴るッスかぁ……ぐふぅっ…………」
ちえるん「モザイクさんでいいですかね?」
正直、どうでもいいわよ(*‘ω‘ )(‘ω‘ `)ぬーん




