クリオファス魔鉱田攻略戦 その2
クリオファス魔鉱田への裏口である洞窟を進んでいた。
「本当に魔物はいないんですね。どう見ても蛇の巣の跡が見れるのに……」
「さっきも話した通り、ボス級の敵が設定されていても出ないわよ」
「少し残念ですね。魔物を使って戦場を混乱させるみたいな戦術もアリだと思うのですけど」
「あー、αの時にやったッス。プレイヤーの方が圧倒的に強くなるんで、思ったほど効果がなかったッス……まぁ、嫌がらせくらいにはなったッス」
既に試された後のようで、残念ですね。それにしても周囲は思ったより暗くなく、不思議な灯によってある程度の視界が確保されている。
「何だか不思議な光ですね」
「あ、これが魔素の光よちえるん」
そう言ってるーこさんは光を帯びておる壁に手を触れるとフワリと青い光が彼女の手にまとまり付くように絡み、またフワリと消える。それと同時に魔素を獲得したアナウンスが表示される。
「基本的に魔素値は魔素壺の管理ベースで共有されるって説明されてるよね?」
「ええ、本陣に壺を献上することで軍司令が使用できる魔素となるんですよね」
「そう。今はちえるんの管理ベースだから、団内では共有される状態ね」
「……本来の作戦だと、魔素溜を占拠して小魔尖塔を建てるという予定でしたが、ここは変更しましょう」
と、私が言うと他の3人は不思議そうな表情を浮かべた。
「確かに……魔素溜と変わらないくらいの魔素が漂っているとは思うッス。でも、もう少し大魔尖塔に近い位置でないとマズイ気がするッス」
ミソスープさんがそう言ったが、そもそも敵の拠点であるクリオファス魔鉱田に大魔尖塔があるのは分かっている。しかし、魔尖塔の効果を考えると慎重には慎重を期した方がよい場合もあると私は思っていた。
「魔尖塔の効果範囲に入っている場合を考えると既に敵に位置がバレている可能性も考慮しなければいけないと思ったんです」
「確かに……そうね。でも、それはプレイヤーだけでNPCの場合は英雄以外は感知出来なかったハズ……だけど……」
るーこさんはそう言って腕を組んで何かを少し考える仕草を見せて足を止めた。
「って、どうしたんッスか? 姐さん?」
「マイゾ王国側にプレイヤーがいるとは思えないんだけど、万が一を考えると早急に小魔尖塔を建てる方向は悪くないかもしれないわね……」
「勘ッスか?」
「ええ、確実とはいえないけど、何かピリピリするのよね」
「タイプは違えどリアル親戚の2人が何かを感じ取っているというのなら拙者達は信じるしか無いで御座るな」
「オカルトッスね。まぁ、信じてないッスけど。言うことは聞くッス」
その後の名斬さん、ミソスープさんの行動は迅速極まりない速さで魔素を集めていく。青い光に手をかざすことで魔素を得れるのは不思議な光景でまさにファンタジックな気分です。
るーこさんからの合図を確認して、私はメニューを開いて魔尖塔の建築を選択し、少し緊張しながら岩陰に隠すように小魔尖塔を建てる。
「いい場所ね。そこなら目立たないし、もしコッチに敵が来てもすぐには破壊されないと思う」
と、るーこさんは私にそう言って親指を立て悪戯っ子のように笑う。まったく、なんて可愛い人なのだろう……などと考えつつ、名斬さん達の案内でクリオファス魔鉱田の内部へ移動する。
「真っ暗ですね……洞窟より暗いって不思議な感じですね」
私がそう言ってあたりを見回している間にミソスープさんと名斬さんが出入口を板や壊れた棚、トロッコなどで塞ぐ。
「多少の時間稼ぎにはなるで御座ろう」
「プレイヤーなら簡単に破壊出来るレベルッスけど、まぁ、何もしないよりはマシッス」
「確かに」
「ですね……それにしても暗いのは何故なんですか?」
と、聞いてみると「チョット待って下さいッスね」とミソスープさんが言って光を放つ棒状のスティックを取り出す。
「一応人数分ッス。使用時間は1時間なので出来れば帰りは地上から帰りたい所ッス。因みにここが暗いのは光になるものが何もないからッス」
「ガス類の発生も考えられるので松明はNGで御座る」
「この光るスティックは何なのですか?」
「簡単に言うとアイドルとかのライブで手に持って振る奴ッス。因みにこう言う使われ方を想定していたのかは不明ッスけど、便利そうだったんで持ってきたッス。あ、持ち手の先に付いてるストラップを使ってベルトとかに引っ掛けておくと便利ッスよ」
私はミソスープさんの言葉に従って、ベルトの金具に光るスティックを引っ掛ける。
「動く時に若干邪魔ね……それに思ってるほど明るく無い」
「確かにそうですね。真っ暗よりマシ……と、言った感じですね」
「確かにそうで御座るが、魔鉱田の上層側に行くまでの辛抱で御座る」
「ですね。では予定通りの魔素溜りへ行きましょう。可能な限りの小魔尖塔を建てておきたいと思っているんです」
私がそう言うと全員が私に任せると言ってくれたので、元々予定していたポイントへ向かうことにした。
通路はかなり古い時代に掘られた坑道でよく崩れずに残っているという雰囲気で、実際に幾つかの通路は地盤が崩れた風になっている場所がいくつも見られた。
「こっちッス」
と、ミソスープさんが行き止まりの道で言った。
目の間には不自然に崩れた壁とそれを埋めるように存在する木の板が薄らと見える。私が「お願いします」と、言うと彼らは目の前の板を巧みにズラし、目の前に現れた棚のような物を横に動かす。それによって、塞がれていた現在の魔鉱田への入口が開かれたことになる。
「こっからは松明などの明かりがある筈ッス。ただ、巡回する兵士や働いている鉱夫なんかもいるッスから気をつけるッス」
「ええ、分かってます……」
「緊張し過ぎないように、リラックスしていこう。ちえるん、私が付いてるのよ? 何事もうまくいく。そうでしょ?」
るーこさんはそう言って私の肩をポンと叩く。私は緊張しないワケは無いと思いつつ、小さく息を吐いた。でも、硬くなり過ぎてるというのは理解できている。獰猛な肉食獣から身を隠すような場面でも無いのだから、もっと気軽に行けるはずだと心の中で呟いてから、るーこさんと目を合わせ私は無言で頷き足を動かす。
足を踏み入れた部屋は事前に聞いていた通り、使われていない倉庫で物も無く、非常に埃っぽい。
「団長は道は覚えてッスか?」
「大雑把には……」
「姐さんよか優秀ッス」
「黙らないと蹴るわよ?」
「って、殴ろうとしないで欲しいッス。因みにッスけど、ミニマップの出し方は分かってるッス?」
「ミニ……マップですか?」
「そうッス。メニューの設定を開いて欲しいッス。そこにミニマップの表示設定があるッス」
ミソスープさんに言われた通り設定を見るとミニマップの表示に関してのオンオフ設定があったのでそれをオンにしてみる。
「視界の端に小さなマップが表示されるようになりました……けど、表示されている範囲が狭い気がしますね」
「当然ッス。基本的に全体マップはメニューにあるマップを見るようにするッス。ミニマップは周囲のある程度の範囲しか表示されないッス。範囲的には魔尖塔の効果範囲の約1.5倍らしいッス」
「小さな明るい円で表示されている範囲が先ほど建てた小魔尖塔の範囲というわけですね」
「ご名答ッス。見えない箇所は敵陣だと思って欲しいッス……んで、このデータをリンクさせて欲しいッス」
と、ミソスープさんはデータボックスを私とるーこさんに渡してくる。手に取ると自動的に箱が開き、視線の端にメッセージが表示される。
『マップがアップデートされました』
暗く見えなかった部分も含めて、緑色の線で描かれた地図と事前い打ち合わせた時にマークされていたマーカーがマップ上に表示される。
「因みに、団長は全体マップのショートカットも知らないと思ったんで、さっきのアップデートデータ内に入れておいたッス。こういう風に左手を広げたら地図が出現する設定になってるッス」
「あ、ありがとうございます。なるほど……こちらの地図は戦場全体が表示されているのですね。味方は青……敵は赤で表示されるのですね」
「その通りッス。因みに非戦闘員は味方ならグリーン、敵ならオレンジで表示されるッス。傭兵団の仲間は三角で表示されてるッス。ただし、レーダー表示だと誰がどれかの判別は付かないので動きや目視での位置確認で判別するしか無いッス」
私は彼の説明を聞きながら、マップを確認するとクリオファス魔鉱田の城壁近くまで自軍がやって来ていることに気がつく。
「思った以上にに押し込んでますね……これは急いだ方が良さそうですね」
そう言ったがそれをるーこさんが即座に否定する。
「無理に急がなくても、まだ問題ないわ。押し込み過ぎている時はカウンターを喰らいやすい。城門を開けるのはこっちの仕事なんだから、それまでは押し引きを繰り返して私達が動きやすいように戦場をコントロールしていくわよ」
と、るーこさんは楽しげに言った。
「っても、NPCだらけの戦場だからこそ、だけどね」
「そうッスね。プレイヤー同士だと上には上がいるッス」
「そうなんですか?」
「まぁね。スターファイターシリーズなら私は早々負けないけど、土壌の違うこのゲームでは負ける可能性も存分にある」
「って、私を不安にさせてどうするんですか?」
そういうと、るーこさんはソッと私の頭をポンポンと優しく叩き。いつもの悪戯な笑みを浮かべる。こういうところは本当にズルイ人です。
「ごめんごめん。ま、ゲームマニアな私達が早々負けるってことは無いわよ。個人戦闘においてはね……ただ、戦場ってのは一部のプレイヤーが無双しても、勝てない時は勝てない。それが戦争をテーマにしているこのゲームの難しいところ」
「戦術と戦略ですか……」
るーこさんは周囲の安全を確認しながら「まぁね」と答えてから、一度小さく咳払いをして私に視線を移す。
「難しいところは愚弟にでも教わりなさい。プレイヤーばかりの戦場なら特にキルだけが全てじゃないってところがポイントだけど、まぁ、今回の戦場はクエストも込みだから、もっと変わってるわね」
「確かにッス。αの時には一度も無かったッスからね」
「やっぱり、色々と特殊な状況という可能性も無くは無さそうですね」
そんな事を言いながら私達は次の目的地へ向かうのでした。
ちえるん「…………」
るーこ「何を悩んでるの?」
ちえるん「大きい地図を見ていたら、小さい地図を見る意味ってあるのか気になって」
るーこ「そこ?」
ちえるん「重要な事だと思うんですけど……」
名斬「ダメで御座る。るーこ殿はそもそもじっくりと地図を見て考えてないでご……ぐぉ」
ちえるん「あら? 虫でも潰しちゃったかしら?」
なむなむ(*'ω'*)




