情報共有
テーブルに広げられた地図データから三次元マッピングが表示されていく。
世界観からして不思議な気持ちになっていると、るーこさんが私の肩を叩いた。
「ゲームシステム上の仕様だから、世界観とか気にしたら負けよ」
「分かってますが、やはり……少し微妙な気持ちになりますね」
「一応、魔導機とかもあるから、設定的に遠く離れているってわけでもないんだけどな……」
と、クオンさんが愚痴っぽくそう言った。
「確かに映像を映すような機械とかもあったで御座るな……ま、それはさておきで御座るよ」
「そうッス、そうッス。時間は有限ッスからね。とりあえず、こっちが集めた情報から整理していこうと思うッスよ」
名斬さんとミソスープさんは三次元マッピングされた地図にマーカーを表示させながらそう言った。
「と、いうかいつの間に斥候に出てたのですか?」
「拙者と味噌殿は事前に此方へ向かっていたので、下見に行っておいたで御座るよ」
「そうしとかないと煩い姉弟がいるッスよ」
と、ミソスープさんが言うとるーこさんが彼をギロリと睨みつける。ミソスープさんは自分は何も知らないという風にソッポを向くがタラタラと汗をかいている様子を見れば彼の焦り具合が分かります。
「で、どうだったの?」
「あ、あ、姉さん、結果を急ぎすると仕損じるッスよ。まずは順番があるってもんッス」
「それが面倒だから聞いたのに」
るーこさんは口を尖らせつつ面倒臭そうに目の前のカップをソッと横によけつつ突っ伏した。
何とも器用な事をしますね。ちょっと子供っぽいところも美耶同様可愛いと思うのです。
「ふ、ふぅ……ひとまず、姉さんは放っておいて、みんな地図に注目ッス。まず、俺っちと名斬の旦那で確認出来た入口は5つッス」
「少ないのか多いのか分かりませんね」
「確かに団長の言う通りッスね。ゲーム的に言えば多い気がするッス。でも、こういった鉱山的な場所って、複数の出入口があるのはよくある事らしいッス」
「らしい? ですか?」
「クオンから聞いた話によるッスから、詳しい蘊蓄はクオンに聞いて欲しいッス。ま、ともかく、複数の出入口はあっても基本的に最も使用されていそうなのは北側の坑道と南東の坑道の二箇所ッス」
そう言って彼はマーカーの色を変更させ目立つようにして見せる。地図上で見た魔鉱田の中はアリの巣の様に複雑でまるで無計画に掘り進んだ様に多くの分かれ道が複雑に組み合わさった形状になっている。
パッと見ても色違いの出入口のマーカーにどうやって繋がっているか分からない。
「やっぱり複雑怪奇なこのマップは読みづらいで御座るかな?」
「どうして考えていることが分かったんですか?」
私がそう名斬さんに尋ねると、クオンさんが小さく吹き出す。
「いやぁ、ちえるんやみゃーるんが首を傾げて見てるからだよ」
「因みにるーこ殿も同様で御座る」
「チッ」
隣でるーこさんが後で覚えてろと言わんばかりの表情で舌打ちをする。余計な一言を言った名斬さんには合掌をしておきましょう。
「それで、どうやって繋がっているか解説して頂けるんでしょうか?」
「それは当然ッス。ただ、チョイと先に情報だけ吐き出させて貰うッスよ」
そう言ってミソスープさんは地図にいくつもあるマーカーの説明を始める。
「今、緑色で表示されているマーカーが商人達がいる場所、オレンジが鉱夫がいる場所ッス。因みに赤で表示してあるのが敵の警備配置ッス」
「そこまでよく調べましたね」
「こういうのは隠密の仕事で御座るからして……」
「こっちは隠密では無いッスけど、スニークミッションは得意ッスからね」
実際に現地を歩いてきたということなのでしょうか? 私はイマイチ理解出来ておらず首を傾げると、美耶が私が疑問に思っている事に納得しているという表情で苦笑した。
「短剣メインの剣士のスキルで『スニーク』ってあるでしょ、それと弓士のスキルに『ステルス』を使えば、誰にも気付かれずに潜入出来るんだよ」
「デメリットも多いで御座る」
「そうッス。移動制限や行動制限があるッスよ。ま、簡単に言えば、誰にも気付かれない代わりに『攻撃行動』や『走る』みたいな急な動作は出来なくなるッス」
「結構大変じゃ無いですか?」
「ま、そうッスね。それに使ってる間はSP消費しまくりッスからポーションガブ飲みしないとダメなんッスよ」
「まぁ、そんなわけで名斬とミソスープが頑張ってマッピングと諜報活動をしてくれたお陰で明日の計画が立てれるわけさ」
「それは本当にご苦労様です」
と、私が言うと名斬さんは被っている頭巾のマスクをソッとあげて顔を隠した。因みにミソスープさんは気持ち悪い動きでクネクネしていたのでるーこさんが蹴りを入れていた。
「他に会話とか、情報は?」
「うむ。一応、敵兵の話では向こう側にもプレイヤーがいるかも知れないで御座る。ただし、主戦場である平原の方に配置されるような事を話していたで御座るよ」
「ラペルト自由商王国のバレリア商会はアチラさんにも随分と入り込んでるっぽいッス。各国の商会が監禁されていると思ったッスけど、共和国の人間しかいなかったッス」
「なるほど……随分とまずいかもね」
クオンさんは腕を組んで深く考えるようにしてそう言った。情報としてラペルト自由商王国商会がこの国の中枢に賄賂など様々な方法を使って入り込んでいる。そしてマイゾ王国にも同様に入り込んでいるとして、今回戦争を起こさせたとすれば。
「もしかして利害が一致したのか、自由商王国が独り占めしたいのか……ですか?」
私の言葉にクオンさんは「どうかな……」と短く答えた。
「結局のところ推測でしか無い。でも、共和国は両隣の国と関係は微妙。マイゾ王国は共和国では最大級の魔鉱田を欲しているのは分かる。あの国は魔鉱田が少ない大陸では珍しい国なんだ。ただ、自由商王国の目的が分からない……考えられるのは、このタイミングに合わせて東側でも戦乱を開くこと、なんだけど……」
「メリットが見つからない?」
「その通りだよ、ちえるん」
そう言ってクオンさんは首を傾げ「うーん」と唸った。
「で、とりあえず私達は何をすればいいのかしら? 愚弟にはプランがあるんでしょ?」
「まぁね。丁度いい感じに後方に押しやられているから、数人戦場から姿を消したとしても問題ないだろうし」
「開戦したら、一部のメンバーは魔鉱田へ向かうで間違いない?」
「ああ、メンバーはちえるん、ねーちゃん、名斬、ミソスープかな。本来なら俺以外全員でも良かったんだけど、混戦になる気がするんだよな」
そう言ってクオンさんはさらに地図を再度広げる。
「このゲームに……と、いうかこの世界において魔素を多く掘り出せる方が圧倒的に有利なんだ。魔素さえあれば防衛用の魔導機を動かせるし、簡単に兵士を強化出来る。それに籠城にてきしている魔鉱田は非常に攻めにくい造りになってる」
そう言って地図上に描かれいるクリオファス魔鉱田を指差す。平野の真ん中にある岩山の頂上に位置する箇所にクリオファス魔鉱田と記載されており、その岩山には城壁のような建造物に囲まれている事がよく分かる。
「まるで砦のようですね」
「自然の岩山をうまく利用した場所だからね。籠城するにはうってつけだと思うよ」
「アレですか、城を落とすには3倍の兵力が必要だという……」
「正攻法でいこうと思えば相手より多い兵力が必要だし、強固な城壁や門を突破しようと思うと通常戦力では厳しい」
「当然、今回は攻城戦用の兵器など配備されている……と、いう事ですよね?」
「ええ、こっちの陣営を確認しに行った時に攻城兵器の運搬をしていたから」
と、カレンさんが言った。私達が城に行っている間に色々と動いていたんですね。
「気になったのですが、坑道の入口は城壁の中という事ですよね?」
「その事で御座るか……」
「それについてはコレを見て欲しいッス」
そう言ってミソスープさんが魔鉱田のマップをグルリと回し、出入口を示すマーカーを指し示す。
そこは複雑に入り組んだ地下の外れに存在するのですが、意図して造られた出入口という感じは無い不思議な場所なようです。
「複雑な通路に突然の出入口とは奇妙ですね」
「そりゃそうッス。ここはかなり古い坑道のようで、鉱夫も殆ど知らないハズッス。こっちを見て欲しいッス」
ミソスープさんはそう言ってマップのある箇所を指し示す。
「何だか部屋みたいですけど?」
「その通りッス。此処は資材置き場なんすけど、何故か隙間風が入って来ていたッスよ。おかしいな? と、思って壁を叩きまわったッス。結局、パッと見では何も無かったッスけど、棚の後ろの壁が薄い事に気が付いたッス」
「あの時は誰か来たらヤバイと焦ったで御座るよ……」
「んで、壁を崩したらさらに奥に通路があったんッスよね」
「どうやら、元々は地下から上へ掘り進んでいた時代があったようで御座る。ただ、その当時の入り口らしきところは岩盤が崩れて通れなくなってたで御座る」
「でも、我々は見つけたッスよ。壁で埋めたような跡のある場所を……」
「それが、この出入口なのですか?」
私が地図に指差すと、ミソスープさんが「ざっつらい!」と楽しそうに答えた。しかし、映像で確認できる場所には坑道らしき道が続いている。
「ミソスープさんが出入口と言っている場所はまだ地下ですよね? 道がまだ続いているように見えるんですけど……」
そう言うと、彼はポンッと手を鳴らして「ああ、説明しないと分かんないッスね」と呟いてマップを拡大する。
「この出入口は魔鉱田に対しては間違い無く出入口に該当するッス。これより先は自然に存在する洞窟ッス……それもサンドバイパーの住処だったッス」
「ちなみに味噌殿の言葉を補足するで御座るが、サンドバイパーのレベルは大体10~25くらいで御座った。我々のようなプレイヤーには弱い存在で御座るが普通の鉱夫や商人では太刀打ち出来るハズもないくらいに凶悪な魔物と考えられるで御座る」
「だから、埋めて通れないようにしたんですね」
「今回、ちえるん達にはここから魔鉱田に入って貰おうと思ってる。タイミング的には戦闘が開始されて、1時間も経たない内に共和国軍は一度押し込まれる可能性が高い。そこから立て直すタイミングで全部隊に出撃命令が出ると思うんだよ。その時に……場所としてはここになると思う」
と、クオンさんが地図上にマーカーを置く。
そこはクリオファス魔鉱田の東側にある平原に存在する数少ない川の一つで小さな谷になっている場所だった。
「多少の魔物とかがいるかもしれないけど、適正レベルは25よりは下だろうから苦労することはないと思う。それから、魔鉱田に入ったら……まずはココを目指して欲しい」
クオンさんはそう言って、マーカーを新たに置いた。
「ここには何があるんですか?」
「魔素溜だよ。詳しくはまた説明するけど、戦略上ここを抑えておけばプレイヤー以外では英雄クラスじゃないと誰も手は出せないようになるハズだから」
「ですが、この魔鉱田の中だと他にも魔素溜はあるのでは無いのですか?」
「まぁ、確かにあるよ。でも、まず一定の魔素を集めて小魔尖塔を建てるのが先決なんだ。付近に大魔尖塔が立っていても一定ダメージを魔尖塔に与えることが出来る。魔鉱田の内部にいくつもの小魔尖塔を建てながら魔素溜を移動しつつ監禁されているであろう商人達に話を聞いてから状況次第では解放する感じかな。詳細はまたメールで送っておくから寝る前にでも読んでおいて」
「分かりました」
「じゃ、しっかりと準備をして、明日を存分に楽しもう!」
と、るーこさんが楽しそうにそう言った。
明日は初陣――でも、不思議と緊張感の無い空気に私は少し戸惑いつつ、団内の状況確認や雇ったNPCの人達の管理などをしている間に夜になり、クオンさんから送られてきた資料を確認して就寝した。
ちえるん「そういえば、サンドバイパーはどんな蛇なのでしょう?」
るーこ「んー、ガラガラヘビのデッカイ感じかしら?」
ちえるん「毒があるのですね……」
るーこ「毒が無ければ食べようとか考えてた?」
ちえるん「気のせいですよ。どんな味がするのか考えていただけです」
るーこ「やっぱ、食べようと思ってたんじゃん!」
気のせいです(*‘ω‘ ) (‘ω‘ *)気のせいじゃないからね




